ICOMのICFA委員長に就任した青木さんにインタビュー
美術で世界とつながろう!
- 2023/4/6
- フロント特集
美術館や博物館の国際組織「国際博物館会議(ICOM=アイコム)」の美術の博物館・コレクション国際委員会(ICFA)委員長に、昨年9月、非西欧人として初めて和歌山県立近代美術館の学芸員・青木加苗さんが就任。京都府に文化庁が移転するなど、芸術文化を取り巻く環境が変化する昨今、青木さんが考える地域の美術館としての役割や今後の取り組みについて聞きました。
博物館関係者でつくるICOM
ICOMとはどういった団体ですか
青木さん(以下省略)
――博物館の進歩・発展を目的に、1946年に設立された国際的なNGO(非政府組織)で、本部は仏・パリにあります。現在119の国別の国内委員会と専門分野に分かれた32の国際委員会などで構成され、博物館の課題と役割、どうすれば社会に貢献できるかなどを話し合っています。
主な会員の職業は?また、青木さんはいつ入会しましたか
――約140の国・地域の研究者や修復家など、博物館の仕事に携わる人約4万5000人が加入しています。私は美術館に勤め始めた翌年の2012年に入会しました。
入会後、どんな役割・活動を行ってきましたか?
――活動は各委員会の会合が中心ですが、3年に一度、全委員会が集まる大会があります。私は、ミラノ大会(16年)から京都大会(19年)まで、国際委員会の連絡係を担当しました。その後、前委員長の「世界中の美術を『ひとつ屋根の下』に入れる」というビジョンにも賛同し、理事会メンバーに加わることになりました。
「分からない」と向き合う楽しさを
そして昨年9月、ICFAの委員長に。抱負を聞かせてください
――ICOMの中でもICFAは、その設立から欧州中心で進められてきました。でも、アジアやアフリカ、中南米など、世界中にはさまざまな美術の営みがあり、それらと比較することで自分たちの歴史や文化にも新たな側面が見えてきます。専門分野を極めるのはもちろん、互いの国の美術を知るためにも情報交換の場を積極的につくろうと考えています。
和歌山でも美術に触れる企画を考えているかと
――はい。美術館では教育普及に携わってきたので、教育現場との連携や独自の鑑賞プログラムの企画など、さまざまな人と協力しながら進めています。
鑑賞プログラムとは?
――13年に始めた和歌山大学の学生たちがガイドとなって来館者と同じ目線で展示を見て回る活動は、今では大学の公式サークル「美術館部」になりました。また、私自身も年間を通して小学生向けの「こども美術館部」を担当しています。
具体的にはどんな内容ですか?
――展覧会に関連したおもしろいタイトル・テーマを決め、作家の視点になったり、小さな道具を用いて遊んだり、子どもの「何かになりきる能力」を引き出しながら展示を鑑賞しています。
ワクワクしますね
――みんなで作品を見ることを通じて、分からないことと向き合う楽しさを知ってほしいと思っています。また、この美術館を大人になっても自分の「ホーム美術館」だと思ってほしくて。
青木さんにとって美術館はどんなところ?
――多様な人が行き交い、イメージやアイデア、コミュニケーションが生まれる場です。そんな場所があることは、地域の強みにつながると思っています。
美術館の新たな取り組みがあれば教えてください
――当館の調査研究・収集の軸の一つである「戦前の渡米画家」のテーマに関連し、昨年より、米国の研究者・機関と交流を始めています。郷土史にも関わる大切な一部分。研究仲間や地域とのつながりをより深め、取り組んでいきたいです。
アートを通じて見える人・文化・歴史
和歌山県の歴史を掘り起こす
「移民と美術」の調査・研究の拠点に
和歌山県は全国でも有数の海外移住者を送り出しており、1899(明治32)年~1941(昭和16)年の出移民の累計は約3万1000人。広島、沖縄、熊本、福岡、山口に次ぐ全国6番目とされています(国際協力事業団・1994年発行『海外移住統計』より)。
和歌山県で海外移住が始まったのは1880年代で、オーストラリア、ハワイ、アメリカ本土、カナダ、ペルー、ブラジルなどに広がっていきました。彼らは農業や漁業関係の仕事に携わったとされていますが、北米に渡った人の中には美術を志した人も。県立近代美術館の学芸員・奥村一郎さんは、「特にアメリカで活動した作家たちは、数多くの美術作品を残していて、和歌山の移民の歴史と深くつながっています」と説明。そのため同館では、石垣栄太郎や浜地清松、ヘンリー杉本など、戦前の渡米画家たちの作品を重要テーマの一つと位置づけ、展覧会や調査研究、作品収集などを行っています。
例えば、石垣栄太郎は人種差別や1929年に始まる大恐慌後の失業といったアメリカが抱える問題をテーマに表現(写真①)。始めは風景画(絵画写真②)を主としたヘンリー杉本は戦時中、強制収容所の生活を描くなど、激動の時代を生きた足跡を残しています。
それぞれの作品からは美術表現としての価値だけでなく、当時の社会状況や生活もうかがうことができ、奥村さんは「作品を鑑賞する際、歴史的な背景にも目を向けることで、作品への理解が深まります」と話します。
しかし、移民や日系人の美術は、国を主軸とした美術史の語りからはこぼれ落ちやすい傾向にあるのが課題。そこで同館は昨年12月、県内の研究機関や全米日系人博物館(ロサンゼルス)の関係者などと、移民と美術に関するシンポジウムを開催。各研究機関の調査・研究を集約し、国内外に発信する他、全米日系人博物館と共同研究を開始しました。
今年2月には情報発信の拠点となるウェブサイト「移民と美術」(下記URL)が開設。青木加苗さんは「歴史、美術、研究、教育、連携の5本柱で発信していきます」、奥村さんは「関わってくれる人が少しずつ増えています。さまざまな人・組織とつながり、一つのコミュニティーにしていきたいです」と話しています。
移民と美術HP:https://imin.momaw.jp/ja/
気になる展覧会をチェック 2023年度スケジュール
企画展・特別展
4月22日(土)▶7月2日(日)
石ノウエ二描ク
石版画と作り手たちの物語
7月11日(火)▶9月10日(日)
なつやすみの美術館13
feat.橋本知成
9月30日(土)▶11月30日(木)
トランスボーダー
和歌山とアメリカをめぐる移民と美術
10月7日(土)▶12月3日(日)
原勝四郎展
所蔵作品展
5月7日(日)まで
コレクション展2023-春
特集:新収蔵
奈良原一高の写真
5月20日(土)▶7月30日(日)
コレクション展2023-春夏
特集:美術と音楽の
出会い
8月11日(祝)▶9月24日(日)
コレクション展2023-夏秋
特集:本のために
-大家利夫の仕事-
10月7日(土)▶12月24日(日)
小企画展
原勝四郎と
同時代の画家たち
プラスアルファ―を楽しもう!
展覧会のスタンプラリー
受付職員の「ちょっとだけ得意なこと」から始まった手作りの消しゴムはんこによるスタンプラリー。展覧会を訪れると作品にちなんだ絵柄のスタンプを押してくれます。継続9年目。レベルの高さに、スタンプを楽しみに来館する人も。年間の台紙は同館入り口に置かれています。
こども美術館部
小学生限定の作品鑑賞会。子どもたちが身軽に動けるようにと配っているサコッシュには、消しゴムはんこで作られたキャラクター「わかBee」が押されています。年度末には、わかBeeの缶バッジも。同部の継続年数でわかBeeの数が増えていくのがポイント!
和歌山県立近代美術館
問い合わせ | 073(436)8690 |
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住所 | 和歌山市吹上1-4-14 |
営業時間 | 午前9時半〜午後5時(入場は4時半まで) |
定休日 | 月曜(祝日の場合は翌日) |
ホームページ | |
観覧料 |
必要 |