受験生にとって“夏”は大切な時期。志望校を見定め、計画を立てて有意義な学びをしたいですね。そして親である私たちは、子どもが意欲的に学習に取り組むために、どんなサポートができるのでしょうか。こんな時期だからこそ、一緒に考えてみましょう。
コロナ禍にいる受験生に
心のケアには大人の安定
新型コロナウイルスによる影響で休校だった学校が再開されましたが、まだ心配なこともたくさんあります。受験生がいる家庭は、なおいっそうですね。子どもが、安心してこれからの日々を送り、受験勉強に向かうために、親として何が大切か専門家に聞きました。
親や周囲の大人が安定することが
子どもの不安軽減につながる
約3カ月続いた休校が、ようやく再開。世の中のすべての人が未曾有の経験をする中、子どもたち、もちろん受験生もその渦中にいます。学習の遅れが気になる、生活のリズムがまだ取り戻せない、また、感染するんじゃないか…など、子どもたち自身がさまざまな心配事を抱えています。そんな子どもたちに向けて、私たち親はどう向き合えばよいか、教育現場などで臨床心理士や公認心理師として活躍する、高野山大学の上野和久准教授に話を聞きました。
「まずは、周囲にいる大人が安定すること。特に、親や保護者は、子どもの世界の中心です。子どもは親の様子や態度を見て、世の中の出来事の大変さを自分の中でスケーリング(測定)します。特に、受験生の親は、今は子どもに対する不安、そして社会に対する不安、この2つが重なっているので、これらに対する安定性を持つことが大切です。受験は一つの節目だけど、人生という大きな視点で、親は今を冷静に判断し、しっかりと子どもを支えられるようすることが大切です」と話す上野准教授。
「例えば」と、上野准教授が挙げたのは、飛行機の中でトラブルがあり、酸素マスクを着けなければいけない事態に陥ったようなケース。親子同時にマスクを着けられるといいのですが、まずは親や大人が酸素マスクを着けて安全と安心を確保し、それから子どもに酸素マスクを着けるようにするそうです。「親や大人が、子どもの安心の指標なんですね。だからこそ、親自身が安定した状態でいるために、メンタル面でのセルフケアが必要です」とのこと。その一つの方法が、10秒呼吸法(左上参照)。「ヨガや太極拳などのようなエクササイズ、マインドフルネスのような瞑想(めいそう)を取り入れるのもいいかもしれません。大人がまずは落ち着くこと」と、上野准教授はすすめます。「親や大人は、自分が今どんな状況にいるかを見つめることも重要。今回のように世の中の変化が大きいと、自分を見失いがち。自身を見返しながら、子どもとの関係を大事にしましょう」とアドバイスします。
無理強いするのではなくて
子どもの内面から意欲を引き出す
特に、受験生は勉強が遅れていることや、来春に控える受験はどうなるのかなど、自分の力ではどうすることもできないことに遭遇します。もちろん親も、これまでにない事態を経験しています。
「このような将来の予想できない出来事に立ち向かうには、信頼できる人とのつながりを感じることが、安定感から安心感になります。家族や信頼できる教師、また塾の先生などと、つながりを実感できることが大切。家庭では、“一緒に乗り越えていけるよ”と声をかけ、“今・ここ”を意識できるようにしてほしいと思います。人はどうしてもネガティブ思考になります。それは、つらい事から自分を守る防衛本能なんですね。でも、今回の新型コロナの事態はストレスが大きすぎます。そこには焦点を当てないこと」と、上野准教授。
「不安や恐怖を感じると、頭で思っているように体は動いてくれません。思考と体が結び付かないんですね。こんなときこそ現実感覚が大切で、自分は今ここにいるということと、信頼できる家族や大人とのつながりを実感できると気持ちがほぐれ、思考と体がつながります。頭で“勉強したい”と思えば体も動き、机に座って勉強の準備が整うでしょう」とも。
「しかし、こうした内的な動機付けを一度に望むのは難しいことです。会話したり、食事を一緒にしながら子どもとつながりを持ち、対処しなければならないことに緩やかにアプローチします。少しずつ外的な動機付けをしながら、焦らずにやれたことを認めていく作業が必要です。無理強いしたり、叱ったり、罰を与えることは避けましょう」
子どもの内面からの意欲を引き出すことは、本来の受験勉強に必要なことです。これを機に、子どもたちの学びについて、親はどんなサポートができるのか、改めて考え直したいですね。
①姿勢を整える、両手は軽くおなかの上に
②静かに目を閉じる
③口から息を全部はき出す
④1、2、3⋯と鼻から息を吸いながら、おなかをふくらませる
⑤4でいったん息を止める
⑥5、6、7、8、9、10で口から息をはきだしながらおなかをへこませる
⑦④~⑥をくり返す(数分間でも落ち着きます)
解除動作
リラクセーションは意識のレベルを下げることもあるため、寝る前以外では、以下のどれかの解除動作を行ってください
①大きく深呼吸する
②強くこぶしを握ってパッと開く動作を2回(グッ、パー、グッ、パー)行う
③腕の曲げ伸ばしを2回行う
④伸びをして、首を軽く左右に回す
●学校が再開されたものの、まだ生活リズムが取り戻せない
子どもは変化に適応するのに苦労しています。その状況を理解し、子どもの気持ちをそのまま受け止めて、認めてあげましょう。
子どもの気持ちに寄り添い、ノーマライズ(合わせる・正常化)します。「誰もがこんな状態になったら、不安になるし、しんどくなるよ」と子どもの気持ちに共感してあげましょう。
泣きたかったら泣いてもいいよと、感情を出してもよいと励まし、促しましょう。もし、大人のあなたが泣きたくなったら、子どもと一緒に泣いても大丈夫です。そんな姿を見ると、感情を出しても大丈夫なんだと子どもは安心できます。
●〝新しい生活様式”が求められ、まだ感染の恐れもあります。子どもはどう向き合えばいい?
子どもの年齢に合わせて、新型コロナウイルスの状況や知識は話しておきましょう。ただし、子どもがニュースに触れる機会は制限しましょう。これは、不安や恐怖がトラウマにならないようにするための一つの方法です。
伝えたいこと…
・「新型コロナウイルスは感染しやすくて、症状が軽い人もいれば重い人もいるよ」
・「だけど、マスクの着用や手洗い、消毒、また、人との適切な距離を保つことで、うつしたり、うつされたりすることを避けることができるんだ」
悲観的にならないように、こんな言葉がけを
・世界中の人たちが話し合って、この問題を解決する方法を一緒に考えているんだよ
・解決には時間がかかるから、我慢強く過ごそうね
・私たち家族も一緒に乗り越えていきましょうね
・ママやパパ、先生やほかの大人たちが協力して、すべての子どもたちが健康でいられるようにがんばっているよ
・世界は今までにも同じような時代を経験してきて、解決策を見つけるまでに、たくさんの人が努力をしてきたんだよ