“遺言”と聞くと、“老後になってから”と考える人が多いのでは。しかし、遺言は生前対策の一つとして、若いうちから考えておくことが大切です。今号は連載「ほ~ほ~法律」の拡大版。11月15日の「いい遺言の日」に合わせ、自筆の遺言書の保管制度について取り上げます。
家族や親族の争いを避けるため
自分の意思や思いを伝える手段
サスペンスドラマや推理小説などに登場する遺言書。芝居や物語の中の話で、“家族みんな仲がいいので関係ない”“若いし、まだまだ先の話”“早くから書くのは縁起が悪い”と思っている人も少なくないのでは? でも、日本の民法には「満15歳に達した者は遺言書を作成することができる」と規定されています。「終活」への関心が高まる中、遺言書について考え、備えるのに「早すぎる」ということはありません。
「遺言とは、自分の財産を誰にどのように残したいのか、自分の意思や思いを伝えるための手段です。遺言書を残すことで家族や親族が争ったり、大変な思いをしたりするのを避けることにもつながります」と話すのは、和歌山地方法務局供託課・遺言書保管官の新井さおりさん(写真)。
遺言書の種類は大きく分けて、遺言者本人が手書きで作成する「自筆証書遺言」と、公証役場などで公証人が遺言者から聞いた内容をまとめて作成する「公正証書遺言」の2つ(下の遺言書の種類)。公正証書遺言の作成件数は毎年約10万~11万、自筆証書遺言の家庭裁判所への検認申立件数は2万前後で推移しています(右下グラフ)。
今回取り上げるのは自筆証書遺言。自身で作成・保管すると、費用がかからず、内容を秘密にできる反面、盗難・紛失や方式不備による無効、遺言書が発見されない、といったリスクが発生します。
そこで、円滑な相続を後押ししようと、法務局は2020年7月から、自筆の遺言書を保管し、本人の死後に関係者に通知する「自筆証書遺言書保管制度」を開始。徐々に認知・利用度が上がっています(左下グラフ)。新井さんは「公正証書遺言と比べて、本制度は遺言書を手軽に、確実に残せるのが利点です。どういった制度かを知ることで、選択肢の一つにしてもらえれば」と話しています。
遺言書の種類
公正証書遺言
遺言者が公証人と証人2人以上の立ち会いのもと、口頭で遺言内容を伝え、公証人が筆記して作成。その際、公証人が、遺言内容の有効性の確認や助言などを行います。遺言者が病気などで公証役場に行けない場合、公証人が出張することも可能。遺言書の原本は公証役場で保管されるので、偽造などのリスクが少ないのが特徴です。
作成には、手数料が必要で、金額は財産内容によって異なります。家庭裁判所の検認は不要。ただし、死亡後の通知制度はありません。
自筆証書遺言
遺言者本人(15歳以上)が、遺言の全文、日付、氏名を自分で手書きし、押印をする遺言書です。費用がかからず、手軽に1人で書くことができますが、遺言内容の有効性は保障されません。保管方法は、自宅または専門家などに預ける他、法務局の保管制度があります。
保管制度は紛失といったリスクへの備えにもなります。自筆の遺言は相続発生後に家庭裁判所での検認が必要ですが、制度を利用すれば検認が不要。申請手数料は1件につき3900円で、死亡後は相続人などに遺言書の存在を知らせる通知も行われます。
出典:法務省民事局発刊の冊子「自筆証書遺言書保管制度のご案内」より
法務局のイメージキャラクター「遺言書ほかんガルー」
あなたの大切な思い守ります
和歌山地方法務局の新井さおりさんに、自筆証書遺言書保管制度について聞きました。12月14日(土)、セミナーも開催します。
Q.遺言書を作成した方がいいのはどのようなとき
例えば、「夫婦の間に子どもがいない」「再婚して前の配偶者との間に子どもがいる」「子どもの配偶者や孫に財産を分けたい」「事実婚や同姓婚のパートナーに財産を分けたい」「家族関係の状況に応じて財産継承をさせたい」といった場合は、遺言書の作成をおすすめします。また、相続人がいないときは、特別な事情がない限り、遺産は国庫に帰属します。寄付や特定の人に譲りたいときは、その旨を遺言で残しておきましょう。
Q.予約をせずに直接法務局に行っても大丈夫ですか
申請や請求は、原則として事前予約が必要です。予約せずに、来庁した場合、長時間待ったり、その日に手続きができないこともあります。予約をしていても、書類を忘れると手続きができませんので注意してくださいね。当日は、遺言書保管官が本人確認の他、遺言書の様式の適合性などをチェックします。この制度は、自筆できない人や本人が法務局に行けない場合は利用できません。ただし、家族などの付き添い人に同行してもらうことはできます。
Q.申請した後、閲覧、内容の変更・撤回などはできますか
生前は遺言者本人に限り、遺言書の閲覧ができます。また、内容変更のための撤回も可能です。再申請する場合は、新たに遺言書を作成し、再度保管申請をする必要があります。撤回せずに新たなものを預けることも可能です。どちらも手数料は1件3900円かかります。遺言書を画像データではなく、原本で閲覧したい場合は、自筆証書遺言の保管を申請した法務局に閲覧請求の予約をしてください。
Q.遺言書の存在はいつ、どのように知らされますか
遺言者の死亡後、遺言書の存在について、遺言者が生前指定した人に通知します(最大3人)。また、遺言書情報証明書は、相続人、受遺者(遺言による財産の受け取り人)、遺言執行者(弁護士や司法書士など)の誰か1人でも遺言書を閲覧したり、遺言書情報証明書の交付を請求したりすると、遺言書に関係のある人全員に対して、遺言書が保管されていることを通知する仕組みです。ちなみに、遺言書の原本の保管期間は遺言者が亡くなってから50年間、画像データは150年間です。
Q.保管されている遺言書は、家族(相続人)に返却されますか
遺言者が亡くなった後、法務局に保管されている遺言書は、相続人であっても返却を求めることができません。内容を確認するには、遺言書の閲覧請求、または、遺言書情報証明書の交付請求をしてください。対象は相続人、受遺者、遺言執行者です。請求は法務局の窓口で行います。遺言書情報証明書については郵送(書式は法務局のホームページからダウンロード)で請求する他、法定代理人による手続きも可能です。
Q.法務局の保管制度を利用するメリットを教えてください
法務局に預けておけば、遺言書の紛失や改ざんの心配がありません。また、法務局職員が、遺言書の外形的な確認を行いますので、遺言書が方式不備で無効になるのを防ぐこともできます。費用も安価ですので、気軽に利用してください。法務局では、遺言書の内容に関する質問・相談には応じていませんが、参考として遺言書の文例集を窓口で配布しています。不明な点がある場合は、弁護士や司法書士など、法律の専門家に相談を。
12月14日(土)、講師は新井さん
知って納得!セミナー開催
自筆の遺言書保管制度
法務局の自筆証書遺言書保管制度について、和歌山地方法務局の新井さおりさんが、クイズを交じえながら分かりやすく説明してくれます。形式に沿って実際に遺言を書いてみるプレ体験や質問コーナーもあり。気軽に参加してくださいね!
日時 | 12月14日(土) 午後2時~午後3半時ごろ (受け付け午後1時半から) |
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場所 | リビングカルチャー倶楽部 フォルテ教室 (和歌山市本町2-1、フォルテワジマ4階) |
参加費 | 無料 |
定員 | 25人 |
申し込み方法 | ①参加者の氏名(フリガナ) ②年齢(例:40代などでも可) ③質問したいこと(任意) ④連絡先の電話番号を明記し、メールまたは、はがきで申し込み 【メール】 |
締め切り | 12月7日(土) ※応募者多数の場合は抽選。当選者には、参加の案内をメール・はがきで12月9日(月)に送付、電話連絡をする場合もあります |
問い合わせ | 073(428)0281 和歌山リビング新聞社 (祝日除く月~金曜午前9時半~12時、午後1時~6時半) ※メールで申し込むのが難しい場合は、和歌山リビング新聞社に電話してください |
自筆証書遺言書保管制度を利用する際はこちらへ
和歌山地方法務局 供託課 |
073(422)5131 和歌山市二番丁3和歌山地方合同庁舎4階 【定休日】土・日曜、祝日、年末年始 |
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自筆遺言書保管制度について | https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html |
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