夜空を鮮やかに彩る伝統美
県下唯一の花火製造会社

リビング和歌山11月2日号「夜空を鮮やかに彩る伝統美県下唯一の花火製造会社」

 和歌山県のものづくり企業にスポットを当てたシリーズ、「すごいぞ! 和歌山の底力」。今回は、花火作りから打ち上げまで全工程を担う花火製造会社、「紀州煙火」が登場。3代にわたる家業の歴史や、コロナ禍を経て変化する花火大会のプロデュースについて、代表取締役の藪田さゆりさんに聞きました。

藪田さゆりさん

紀州煙火 代表取締役 藪田さゆり(Yabuta Sayuri)

祖父と父の技術を受け継ぎ
キンチョーの花火文字も製作

 3代にわたり、百花繚乱(りょうらん)のごとく、夜空を多彩に染める、県下唯一の花火製造会社「紀州煙火」。和歌山市の港まつり花火大会や、「和歌山マリーナシティ」の音楽花火など、県内の花火イベントの約7割に携わり、熊野大花火大会(三重県)のような全国的に名高い大会でも、大輪の花を咲かせています。

初代の藪田善一さんは、大阪で花火師として活躍後、地元吉備町(現=有田川町)に帰り、前身となる「藪田煙火工場」を1958年に創業。三重県で花火師の修業を積んでいた息子の善助さんを呼び戻して、親子で花火業に取り組みます。そんな環境下で、善助さんの長女として生まれ育ったさゆりさんは、高校2年から手伝いを始め、専門学校卒業後に家業に専念。「家を継ぐように期待されていたので、仕事を始めたときにはその覚悟はできていました」と振り返ります。

藪田さゆりさんインタビュー

花火屋で育ったので、花火作りは仕事でもあり、生活でもある、と語るさゆりさん。「眠っている間も、花火のことを考えている気がします」

1989年に善助さんが2代目として「紀州煙火」を設立。伝統的な製法で花火玉を作り続ける一方、曲調やリズムに合わせて打ち上げる音楽花火や、点火のタイミングを計るコンピューター制御など、新しい手法も取り入れていきました。

花火の質的向上に努め業界の発展に寄与したことから初代は1980年度、2代目は2005年度と親子2代で和歌山県名匠表彰を受賞。さゆりさんも2人の技術を継承し、2003年に善助さんとともに県ふるさと名人「紀の人」賞を受賞するなど、キャリアを重ねていきます。

2013年、女性花火師として、3代目代表取締役に就任したさゆりさん。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンで火薬類取扱従事者の講師を務めたり、大日本除虫菊のCMで「KINCHO」の花火文字を手掛けたりと、事業の拡大に尽力。昨年は、地域経済の発展に貢献したとして、県経営者協会の「キラリ! 輝く女性ビジネス大賞」を受賞しました。

アフターコロナで花火大会に変化
多彩な見せ方で魅力を絶やさず

製造から打ち上げまで
全工程をプロデュース

花火師の仕事には、大会の企画や、花火の製造・販売、打ち上げがあります。「製造や打ち上げだけを専門にする花火師もいますが、うちは全ての工程に携わります」と説明するさゆりさん。

「主催者と打ち合わせをし、催しのテーマや開催時間、予算に応じて企画を提案。花火の種類や数に合わせて、打ち上げの構成や演出を考え、本番に向けて製造や会場の準備にかかります」。火薬を扱うため、自治体や消防へ大会の許可申請をするのも、花火師の仕事の一つです。全国の花火競技大会で複数回入賞した腕前を持つさゆりさんですが、「今は製造より、外部交渉や現場の指揮の割合が大きくなっています」とも。

花火玉作りは、花火大会が集中する7・8月に向け、9月から6月まで行われます。打ち上げ花火には真ん丸に大きく開く「割物(わりもの)」や、細工を施した詰め物を入れた「ポカ物」があります。「毎年作っているものもあれば、数年に一度のものも。ローテーションで製造しています」

一方で、新型コロナウイルス感染症の影響で、花火大会の開催時期や規模の変化もみられるように。「夏に限らずオフシーズンの依頼や、式典や地域イベントの演出に向く特殊効果花火の出番が増えました。そのため、社内での製造時間が削られることもあり、新作を考える余裕がもう少し欲しいですね」

星造り

花火が開いたときに燃えながら火を放つ火薬の粒、「星」。花火の色の決め手になります。星の芯となる材料と配合した薬品を混ぜ、水を加えながら回転させて大きくしていきます

玉込み

玉皮(半球形の容器)に星と割り薬を詰める「玉込み」。星の種類と詰め方によって、花火の色や形が変わります。最後に2つの玉皮を貼り合わせて球状にし、テープで仮止めします

玉貼り

「玉貼り」は、玉皮の表面にのり付けしたクラフト紙を貼る作業。打ち上げたときにきれいな形に開くよう、隙間ができないように丁寧に何重にも貼り、天日で乾燥させて完成です

秋冬も楽しむ紀州の花火
職人の技術を会場で鑑賞

会社の今後の取り組みを尋ねると、「コロナでひどい目にあったので、まずはそこを修復していかなければ」と答えるさゆりさん。大会やイベントの中止や縮小を余儀なくされ、大打撃を受けた花火業界。年間約40カ所、多いときで4万発の製造を行っていた「紀州煙火」も例外ならず、コロナが発生した当時は売り上げが9割減になりました。

一方、コロナ禍でもメッセージ花火など密を避けた打ち上げを続け、2022年には有田川町の法蔵寺がクラウドファンディングで支援を呼び掛けた奉納花火の開催実現に協力したことも。

コロナが5類感染症に移行した昨年から、徐々に花火大会が再開。この秋冬にも、「ありだがわ楽市」の予告花火や、美浜町町政施行70周年記念式典、関西の花火師が集う「万博夜空がアートになる日」(大阪府・万博記念公園)などで「紀州煙火」の花火が楽しめます。「今は、依頼されるお仕事を安全に気を配りながら、粛々とこなしていきたいという思い」と話す花火師3代目。高い技術と緻密な手作業、そして職人の思いが込められた打ち上げ花火を見に会場を訪れませんか。

7カ所同時に打ち上がる「ありだがわ楽市」の予告花火

紀州煙火

代表者 代表取締役 藪田さゆり
創    業  1958年
従業員 10人
住所  有田郡有田川町西丹生図365
ホームページ  https://kisyu-hanabi.com/
電話番号  0737(52)5404
営業時間  午前8時~午後5時
定休日  土・日曜、祝日、年末年始

第3回 ありだがわ楽市 

 有田川町の農林業や産業・文化を発信するイベント「ありだがわ楽市」が11月17日(日)午前10時~午後3時まで有田中央高校および周辺で開催されます。飲食ブースの出店やステージイベントほか「はたらくくるま大集合」のコーナーもあります。

16日(土)午後7時から予告花火が7カ所同時に打ち上がります。あらぎ島と、吉備・金屋地域で約5kmに渡る広域花火を楽しめます(雨天延期)。

お問い合わせ ありだがわ楽市実行委員会事務局
(有田川町役場商工観光課内)
0737(22)4506

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