紀州の伝説 妖しの美女に思いを重ねて
- 2015/4/2
- フロント特集
純愛の化身・清姫、一対の貝殻で成就したましらら姫の恋、柳の木の精のお柳…。和歌山県ではこのほど、紀州・熊野地域に残る伝説をまとめた観光ガイドブック「癒しの国の妖しのものがたり」を作成。制作に携わったスタッフの一人・佐伯友希さんに、なぜ“妖し”なのかを聞きました。
新しい切り口で熊野の魅力を発信
美女伝説で若い女性にPR
日高振興局、西牟婁振興局、東牟婁振興局は、観光誘客の新たな切り口として、熊野地域で古くから伝わる民話、妖怪伝説、不思議話に着目。3振興局が連携し、企画立案から約1年半かけて、“妖し”をテーマにした観光ガイドブック「癒しの国の妖しのものがたり」を完成させました。
冊子はA5判、32ページ、オールカラー。和歌山県庁観光振興課や紀中・紀南地方の道の駅、観光案内所などで無料配布しています。「県外の妖怪関連団体へも送付して、“和歌山の妖し”を全国的にPRしていきたい」と、日高振興局企画産業課の佐伯友希さんは目を輝かせます。
冊子には、「清姫」や「天女」「一つだたら」など20の“妖し”の物語が収録されていて、そのうち11話が女性にまつわるお話。「“妖し”という言葉には、神秘的、不思議といった奇怪の意味合いに加え、色っぽい女性を表す“妖し(ようえん)”という要素もありますから」と佐伯さん。
「誘客のターゲットは若い女性。照手姫の小栗判官を思うけなげさ、美白を追求する弁天島の乙女…、いつの時代も女性の気持ちは同じ。女性の共感が得られ、伝説に触れられるスポットがあるお話を選びました」と、女性目線で編集し、女性に向けて発信しているのもこの冊子の特徴です。
訪ねてみよう“和歌山スポット”
伝説に触れ、神秘性を感じて
5カ所を巡ると“妖しガール”に
「一般的な観光パンフレットだと、旅先で役目が終わると捨てられてしまいます。そうではなくて、永久保存版になるようなものを作りたかったんです」と佐伯さん。
地域の食文化や地域再生について研究している元和歌山大学経済学部教授で、紀南地方の活性化に取り組む「きのくに活性化センター」の事務局長、鈴木裕範さんの監修のもと、物語は図書館で文献を探したり、地元の人に話を聞いたりしてまとめ、寺や像などのゆかりの地は、職員が現地に足を運んで写真を撮影。「清姫」「天狗」などを担当した佐伯さんは、「地元に住んでいても知らない話ばかり。掘り起こしていくうちに、熊野の神秘性とリンクしているように感じました」と言います。
さらに、熊野地域に点在する“妖しスポット”を効率よく回れるように、モデルコースも設定されています。日高・西牟婁郡を中心とした「清姫コース」、西牟婁・東牟婁郡を巡る「照手姫コース」の2コース。どちらも車移動で、1日に6カ所を無理なく巡る設定です。
また、道成寺や興国寺、真白良媛(ましららひめ)像など、ガイドブックで指定されている〝指定妖しスポット(上記地図★印)〞を、5カ所以上を訪れ、冊子とともに写真を撮って応募すると、『妖しガール』『妖メン』に認定され、証明書がもらえます。
春のうららかな季節、冊子を手に入れて、“和歌山妖し旅”を楽しんでみませんか。
問い合わせ
日高振興局企画産業課 | 0738(24)2911 |
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西牟婁振興局企画産業課 | 0739(26)7910 |
東牟婁振興局企画産業課 | 0735(21)9604 |
民話・妖怪伝説が伝えるメッセージ
監修/きのくに活性化センター事務局長・鈴木裕範(元和歌山大学経済学部教授)
私が“妖し”に興味を持ったのは、昭和50年代後半。県内50市町村(当時)に、民話や民俗を訪ね歩いていた中でのことです。今回、監修にあたったのは、紀南地域の活性化に取り組む「きのくに活性化センター」が平成18年度に策定した地域振興ビジョンで、私が「癒し・怪し・蘇りの地・熊野」というコラムを書いたことがきっかけ。熊野地域は、人知を超えたさまざまな不思議や神秘が生起する場所で、たくさんの伝説に彩られています。
「おいの」「久保の小女郎」のように、異類と人間女性に関連する伝説は、熊野の風土が生んだ話ですし、人々から恐れられていた「一つだたら」や「ダル」は、県を代表する妖怪話だと思います。
この世には、人間が踏み入れてはいけない異界が存在します。その境界線を越えたときに、異界に住むもののけ、妖怪が出現し、また、不思議を感じる感性が、多くの妖怪を生み出しました。妖怪伝説は自然と人との関わり、知らない世界に関わったときの戒め、作法を説いたメッセージなのです。熊野の“妖し”を訪ね、自分と向き合ってみてはどうでしょう。