すごいぞ! 和歌山の底力
畳屋3代目がプロデュース
紀州いぐさブランドに注目
- 2022/6/9
- フロント特集
和歌山が誇る“ものづくり”の力を紹介するシリーズ、「すごいぞ! 和歌山の底力」。2回目は「紀州いぐさプロジェクト」を立ち上げた井戸畳店の代表取締役・井戸宏和さんが登場。イグサを使った生活雑貨ブランドで、日本の伝統文化である畳の魅力を白浜町から全国そして世界へ発信しています。
原料のイグサを白浜で栽培
“地産地消の畳づくり”に挑戦
関西屈指のリゾート地、南紀白浜。県内外から訪れる多くの観光客を迎えるべく、いくつものホテルや旅館が建ち並びます。名湯につかり、畳が敷かれた客室で、イグサの香りに包まれながらくつろげば、心も体もより一層癒やされます。
「井戸畳店」は白浜町に1940年に創業して以来、地元の宿泊施設や一般家庭に向けて畳の製造・販売を行ってきました。「旅館からの注文で職人らが忙しそうに畳を扱っていたのが、幼少時代の日常の風景でした」と話すのは、3代目社長の井戸宏和さん。
家業を継いだのは21歳のときでした。「畳屋で生まれ育ったものの、依頼された仕事をただこなすばかり。家業をどう発展させていけばよいか、試行錯誤の日々でした」
業界の勉強会や展示会に足しげく通う中、ある畳製造機メーカーの営業担当との出会いが、井戸畳店の経営の転機になりました。「大きな投資になるけれど、畳づくりの可能性が広がるはず」と、1999年業界に先駆けてコンピューター式畳製造機を導入。その結果、品質を保ちながら短期で製造・納品できる生産ラインが整えられ、大手宿泊施設などからの大量発注が受けられるようになりました。
翌年に襖(ふすま)・建具部門を開設し、総合的なリフォームにも対応。2001年には有限会社を設立し、井戸さんは代表取締役に就任します。その後も支店の出店や住宅メーカー、ゼネコン、寺社仏閣などの顧客を獲得し、企業として一定の成果を成し遂げました。
その一方で、事業が広がるにつれ、危惧したのが畳文化の行く末でした。住宅の洋風化、職人の高齢化による人材不足、そして、イグサ農家の減少による国産畳の衰退。畳の未来に危機感を抱いた井戸さんは、まずは自分たちの手でイグサを育ててみようと、地域ブランドの畳づくりに挑戦することに。
イグサの栽培から始まり、畳の表面に使われる「畳表」(たたみおもて)の製造までの過程を追うことで、「畳について深く学びたかったし、イグサ農業に携わる方々の苦労も知りたかった。地産地消の畳づくりが全国に広がるといいな、という願いもありました」
暮らしになじむアイテムで
畳の魅力を国内外へ発信
おみやげコンテストで
最優秀グランプリ受賞
わかやま産業振興財団の助成を受け、2014年からイグサの栽培をスタート。畳表の仕入れ先である熊本県のイグサ農家の指導を仰ぎながら、12月の寒い時期には苗を植え付け、真夏の7月に収穫と厳しい農作業に挑みました。
しかし、最初の3年は軌道に乗せることが難しい結果に。イグサは1年に1回の農産物なので、駄目ならまた1年かけてやり直し。「農家さんにかけられた『栽培はそんな簡単なものじゃない』の言葉が身に染みました」と、井戸さんは当時を振り返ります。
苦労の末、4期目に当たる2018年に「紀州いぐさ畳」の販売までこぎつけ、白浜産のイグサをPRする団体、「紀州いぐさプロジェクト」を発足。プロジェクトの一環として、規格外のイグサも活用しようと、地元農家やデザイナー、地域おこし協力隊など、異業種の多彩な顔触れをメンバーに、紀州いぐさのブランディングと商品開発に取り組みました。
「日常遣いができる、現代の暮らしにフィットするいぐさアイテムを」と考えられて生み出された雪駄(せった)は、紀州いぐさブランド「イノカ」の初めてのアイテムとして誕生しました。
初のお披露目の場となった「京都インターナショナルギフトショー2019」では、来場者が選ぶ「おみやげコンテスト」で最優秀グランプリを受賞。その後も国内の展示会に多数出展し、有名百貨店や通販企業から問い合わせがくるなど知名度を高めていきます。
そして海を越え、パリの国際展示会「メゾン・エ・オブジェ」や、ニューヨークのアートフェア「アートエキスポNY2021」にも参加。世代や国籍を問わず、時代にフィットした魅力的なものづくりを証明しました。「国産の畳という伝統文化を後世に残したい。もし畳が廃れても、和歌山の最後の一枚はうちが手掛けたい」と畳への熱い愛を語る井戸さん。畳のために、紀州のために、そしてみんなのために。紀州いぐさの物語は、まだ始まったばかりです。
日常に和のテイスト
「イノカ」のラインアップ
紀州いぐさブランド「イノカ」のネーミングは、“藺草(いぐさ)の香りを暮らしに”から。
「イノカ・セッタ」は奈良県三郷町の雪駄職人が一つ一つ手作業で仕上げたスローファッションアイテム。足裏が当たる「表」部分は紀州いぐさの畳表が張られ、畳の上を歩いているような心地よさが人気です。女性用は4・5センチヒールで、スタイルアップも期待。48種類ものカラーバリエーションで、個性的な履きこなしに挑戦してみて。
イノカ・ケース[/caption]「イノカ・ケース」は、名刺やカードを収納するアイテム。畳表をベースに、丸いくるみボタンと縁のカラーが目を引き、人前で使えば会話のきっかけになりそう。使い込むほどに手になじみ、畳表の色合いの変化も楽しめます。実はこのアイテム、井戸畳店のスタッフが井戸さんに手作りでプレゼントしたことが商品化に結び付いたとか。
最新のアイテムはブックカバー。お気に入りの本に付け、イグサの香りに癒やされながら読書タイムを過ごして。
イノカのアイテムは公式サイトから購入可能。
代表者 | 代表取締役 井戸宏和 |
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創業 | 1940年 |
本社 | 西牟婁郡白浜町798-2 |
電話番号 | 0739(42)2412 |
ホームページ | 【井戸畳店】https://shirahama.net/ 【イノカ】https://inoca.jp/※オンラインストアあり |