うそをつくな。遅刻をするな。
ズル休みなどもってのほか…
冬の朝、ランドセルを背負った男の子が、ヨタヨタと歩いていました。大人の足なら2分とかからない校門までの道のりをうつむいて、葛藤しながら行くのです。「行きたくない」という心の声が聞こえそうでした。
またある朝は、コンビニに横付けされたワゴン車から3、4人の小学生が飛び出してきて、門を目指して走って行きました。「いってらっしゃ〜い」と女性が、後ろ姿に手を振っていました。
息子たちが小学生のころ、登校時間にグズグズしようものなら容赦なく、「早く、早く!」とせき立てました。私は正義を振りかざす母親で、「うそをつくな。遅刻をするな。ズル休みなどもってのほか」。息子たちは抵抗しても無駄だと悟ったのか、黙々と几帳面に学校へ通っていました。
ところがある日、起きたときから次男の様子が何か、いつもと違っていて、身支度がなかなかはかどりません。待ちくたびれた長男はとうとう先に行ってしまいました。
今なら、「どうしたの?」と聞いてあげられるのに、あのころの私には余裕がありませんでした。その日締め切りの原稿を抱えていたこともあって…。ついにトイレにこもってしまった次男を追いかけて、「いつもちこくのおとこのこ!」と大きな声で怒鳴ってしまったのです。
「ぼくは、ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシーと違う!」、トイレから飛び出すなりそう切り返して、次男は小学校へ走って行きました。そして、その日を境に次男は母親離れを始め、ヒミツを持つようになりました。
幼稚園から今日まで、時間に縛られ続ける息子たちを尻目に「自宅出勤はいいですな〜」と亭主はひとり、自由業の特典を謳歌(おうか)しています。
『いつもちこくのおとこのこ-ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシ-』(出版=あかね書房、 ジョン・バーニンガム/作・絵、谷川俊太郎/訳)
名前 | なりきよ ようこ |
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プロフィル | 絵本編集者として勤務後、渡欧。帰国後フリーに。 保育所や小学校で読み聞かせを25年以上続けている。絵本creation(編集プロダクション)代表 |
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