ウミガメを絶滅から守れ!アーケロンプロジェクトが始動

 “生きた化石”ともいわれている「ウミガメ」。日本では昔話に登場したり、縁起の良い生き物として親しまれたり、身近な存在です。その一方で、世界的に減少傾向にあり、保護・保全が叫ばれています。今回は、串本海中公園で始まった、ウミガメを絶滅から守るための新たな取り組みを紹介します。

実寸大のアーケロン模型をシンボルに
ウミガメの現状や調査活動を紹介

カメ類が出現したのは今から約2億2000万年前。特徴的な甲らは最初からあったのではなく、進化する中でできたとされています。

私たちが目にするウミガメは、自然環境の変化や混獲などで個体数が減少。近年、絶滅が心配されているものの、回遊性の生き物なので、まだその生態ははっきりと分かっていません。そのため、世界中の専門家が生態について調査・研究し、協力者とともに保護や保全に取り組んでいます。

そんなウミガメの現状を知ってもらおうと、今年1月から、串本海中公園(串本町有田)の水族館内で、特別展「アーケロンプロジェクト」を開催しています(期間は来年12月までの2年間)。

アーケロンとは、現代のウミガメの祖先で、太古の時代に絶滅した全長約4㍍、全幅約5㍍の史上最大ともいわれているウミガメのこと。

館内には、シンボルとなる実物大のアーケロンの彫刻模型を展示。同時期の生き物や、同館の今までの活動、今後の調査内容がパネルなどで紹介されています。

特別展や取り組みについてを同館・副館長の吉田徹さんに、ウミガメの特徴や現状については「日本ウミガメ協議会」の松宮賢佑さんに教えてもらいます。

ウミガメについて知ろう

レッドリストにも名前が…
まずは自然環境を知ることから

ふ化後、海へと進むウミガメ

ふ化後、海へと進むウミガメ

ウミガメは、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストに名前が載るほど、絶滅が心配されている生き物で、それらの種を保護するための「ワシントン条約」でも、繁殖目的以外の国際的商取引が禁止されています。まずは現状を知ることから。ウミガメに関する研究・調査の取りまとめを行っている団体「日本ウミガメ協議会」(大阪府枚方市)の松宮賢佑さんに聞きました。

―日本で見られる種類は
松宮 世界には7種のウミガメがいますが、日本で見られるのは、アカウミガメ、アオウミガメ、タイマイ、オサガメ、ヒメウミガメの5種。このうち、アカウミガメ、アオウミガメ、タイマイの3種は日本の砂浜で産卵します。アカウミガメは、福島県~沖縄県の太平洋沿岸で産卵する種類で、和歌山県にも毎年産卵にやってきます。みなべ町にある千里の浜は日本有数の産卵地です。

―3種の特徴は
松宮 アカウミガメは、英名で「頭でっかちのカメ」と付けられるほど、頭が大きいのが特徴。これは貝やヤドカリなどの硬いものを好んで食べるため、強いあごの力が必要だからです。基本、沖合にいますが、繁殖シーズンは沿岸でも見ることができます。アオウミガメは、沿岸にいて、県内でもダイビング中に出合えます。海藻・海草を食べるベジタリアンですが、クラゲを食べることも。日本での主な産卵地は小笠原諸島や南西諸島です。タイマイは、サンゴ礁の海で暮らし、サンゴの隙間にある海綿を食べるので、口ばしが鳥のように長くとがった形をしています。主な産卵地は南西諸島です。

―何が原因で絶滅が心配されるのでしょうか
松宮 採卵や漁業による混獲などさまざまなことが考えられます。日本でも以前、採卵が行われていましたが、現在は許可を受けないと採卵はできません。混獲については当会など複数の団体が協力し、ウミガメ脱出装置の開発が進んでいます。

―3種の特徴は
松宮 港湾施設の建設や離岸堤の設置で砂浜が侵食され、産卵地としての機能を失ってきたことや、砂浜とその近辺の開発で照明の光が砂浜を照らすことも挙げられます。光については、卵からかえった子ガメは、明るい方向に向かって進む習性があり、外敵に食べられる割合が高まります。子ガメだけではなく、産卵にやってくるメスのウミガメは明るい砂浜を避け、産卵する傾向があり、「光」が与える影響も問題とされています。温暖化が進むと、海面上昇による産卵地の消失、砂中温度の上昇による性比の偏りや産卵ふ化率の低下なども予想されます。

―今、大切なことは
松宮 現在の自然環境を知り、その上でウミガメにとって本当に良い環境は何かを考えてみることだと思います。

大海を悠々と泳ぐアオウミガメ

和歌山の海岸で産卵するウミガメ
放流後、発信機でリアルタイムで追跡

産卵場となる砂浜を設けたプール

ウミガメの現状を知ってもらおうと、串本海中公園が、水族館内のマリンアート・ギャラリーで特別展「アーケロンプロジェクト」を開催。来年12月まで、体験イベントや研究・調査を行います。

ギャラリー内には県在住のチェーンソーアーティスト・城所ケイジさんが制作したウミガメの祖先・アーケロンの模型を展示。アーケロンが生きた時代背景やウミガメの保全などについてパネルで紹介しています。

また、今秋放流するウミガメに発信機を装着し、衛星によってリアルタイムで追跡するといった新たな調査にも挑みます。これは、水族館で繁殖・飼育したウミガメの放流後の行動を調べ、よりよい野生復帰への方法を見出すのが目的。来年からは日本ウミガメ協議会と協力し、長期的に行っていく予定です。

同館副館長でウミガメ担当の吉田徹さんは「秋にはギャラリーにパネルを設け、放流したウミガメの居場所をリアルタイムで表示していきます。また放流会や保全活動など体験イベントを通して、ウミガメに関するさまざまな情報を伝えたいと考えています」と話します(下記参照)。

海から引いた海水の中で泳ぐアカウミガメ

海から引いた海水の中で泳ぐアカウミガメ

同館は、1971年の開館当初から屋外にウミガメ専用のプールを設け、串本の海で見られるアカウミガメ、アオウミガメ、タイマイを飼育。ウミガメの保護・保全、調査・研究に力を入れています。1986年にはウミガメ専用のプールに人工の産卵場(砂浜)を作り、繁殖をスタート。1995年、世界で初めて飼育下でアカウミガメの繁殖に成功しました。吉田さんは「このとき生まれた子ガメが成長し、現在、親・子・孫と3世代がこのプールで暮らしています」と話します。

ふ化したウミガメは基本、水族館で1年~2年間飼育した後、標識を付けて放流します。しかし、大海の中でウミガメを再び発見するのは難しいのが現実。泳いでいるうちに標識が外れないとも限りません。

吉田さんは「発見の確率が高いとはいえませんが、放流したウミガメが13年後に元気な姿で見付かった事例もあります。こういった情報を少しずつ集め、絶滅を防ごうと行動や生態を調査し続けています」と説明。その上で「北太平洋を回遊するアカウミガメは、日本の沿岸で産卵・ふ化し、米国・カリフォルニア州の沖で育ちます。つまり、私たちの目の前の海がこの海域で生きるウミガメの絶滅を防ぐ大切な場所だということ。それを多くの人に伝えていければ」と話しています。

「ウミガメと人間の共存が大切で す」と話す吉田さん

「ウミガメと人間の共存が大切です」と話す吉田さん

ウミガメの標本 が展示。成長 過程が分かり ます


アーケロンのいた時代や追跡調査の内容など、吉田さんに教えてもらいます

Q1.アーケロンがいた時代について教えて

アンモナイト類白亜紀後期(約7500万年~6500万年前)とされています。陸はティラノサウルスやトリケラトプス、空はプテラノドンやケツァルコアトルス、海はアーケロンといった大型のはちゅう類が地球上を支配。アーケロンは主にアンモナイト類などを食べていたようです。

Q2.日本でふ化したアカウミガメの回遊って?

ふ化したアカウミガメは、沖へ出ると黒潮にのって北上、さらに北太平洋海流にのって約8000kmにもなる太平洋横断の旅に出ます。米国に到達し、順調に成長できたアカウミガメは再び日本に戻って産卵。回遊期間は分かっていませんが、数年~数十年規模の長旅になるとされています。ちなみにウミガメは産卵するまでに約20年~30年かかり、体重は約100kgと大きく成長します。

Q3.プロジェクトで行うウミガメの追跡調査とは

水族館で生まれ、飼育されたウミガメを対象に、野生のウミガメのように回遊するかを調べます。①1歳~2歳でも回遊を行うコースに向かうか ②回遊を終えて日本に戻ってきたくらいの若年のウミガメは、回遊をしようとするか ③産卵するようになった成熟したウミガメは野生に放されても産卵するか、またどこで産卵するか―の3点。今秋からスタートです。

串本海中公園・水族館イベント情報

■子ガメのタッチング

子ガメのタッチング午後0時半~2時半 (日曜、祝日は3時まで)
0歳~1歳のかわいいアカウミガメとアオウミガメの赤ちゃんたちに触れられます

■大ウミガメのタッチング

大ウミガメのタッチング6月10日(日) 午後1時~3時
飼育されている大人のウミガメが登場。どっしりとした甲らを触ったり、記念写真を撮ったりできます

今後、専用プールでの産卵観察(7月上旬)、放流会(9月~10月)、甲ら磨き(10月)が予定されています。日程は下記、ホームページに随時掲載されるのでチェックして!

住所 <串本町有田1157
電話 0735(62)1122 串本海中公園
時間 午前9時~午後4時半
HP http://www.kushimoto.co.jp/
備考 ※水族館は入場券(大人1800円、小・中学生800円)が必要

■ウミガメの産卵見れるかな

みなべ町の海岸で産卵するアカウミガメを観察します

日 程 6月29日(金)
時 間 午後7時~9時
定 員 20人
対 象 18歳以上
場 所 みなべ町千里の浜 ※現地集合・解散
締め切り 6月15日(金)必着
問い合わせ 073(483)1777 和歌山県立自然博物館
申し込み 往復はがきに
①ウミガメの産卵見れるかな
②参加者全員の
〒住所、氏名(ふりがな)、
年齢、性別、
電話番号を明記し、
〒642-0001海南市船尾370-1、
和歌山県立自然博物館「ウミガメの産卵見れるかな」係
※応募多数の場合は抽選、個人情報は当選者への案内にだけ使用

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