“ぷ~ん”を退治するのは和歌山生まれ 夏の友“蚊取り線香”

夏の風物詩“蚊取り線香”が今年、日本化学会の化学に関する貴重な歴史資料を認定する「化学遺産」に選ばれました。蚊取り線香を発明し、全国に広めたのが、現・有田市出身で「大日本除虫菊(金鳥)」の創業者・上山(うえやま)英一郎。100年以上たった今も同市は蚊取り線香の産地として不動の地位を誇っています。

香りで記憶がよみがえる
ニーズに合わせて選べる多様さ

蚊取り線香の香りに、夏の記憶がよみがえる人も少なくないのでは?

渦巻きの線香、噴射式のスプレー、リキッド式の電子蚊取りなどの殺虫剤といわれるものや、〝予防〞という観点から、イヤな虫を寄せ付けない吊り下げ式のものまで多種多様。昔からの伝統を残しつつ、消費者のニーズを読み取り、時代とともに進化し続けています。

蚊取り線香が誕生したのは今から約130年前のこと。上山英一郎が、家業の「上山柑橘(かんきつ)園のミカン」を海外へ輸出しようと「上山商店」を設立。恩師・福沢諭吉の紹介で1886(明治19)年、米国の植物会社社長からミカンの苗と交換に蚊取り線香の主成分・除虫菊の種子を譲り受けたのがきっかけです。

蚊に悩まされるのは今も昔も変わらず、それまでは、「蚊遣(や)り火」と呼ばれ、ヨモギの葉やカヤの木を燃やし、煙を出すことで、蚊などの害虫を追い払っていました。

画期的な発明となった蚊取り線香はしだいに世界へと広がり、除虫菊は1934(昭和9)年の輸出品番付表にも記されるほどに。これが日本の殺虫剤産業の始まりです。

下記は、有田市の大日本除虫菊(本社=大阪市西区)・紀州工場を訪問。歴史や製造工程、エピソードなどを紹介します。

今も昔も暮らしに寄り添う

和歌山から全国へ、新風を吹き込む


創業者の上山英一郎が、米国の植物会社社長から譲り受けた除虫菊は、種子をまいて約1年で花を咲かせました。

〝日本の力になれることをしたい〞と考えていた英一郎は、除虫菊の栽培の普及に尽力。農家にとっては、米の栽培時期と重ならず育てられるので、和歌山県をはじめ、全国に広まりました。

除虫菊は、花の子房に有効成分が含まれ、乾燥したものを粉末にして、燃やすことで効果が出ます。当時は、昔ながらの蚊遣り火に倣い、火鉢を使っていましたが、ある時、英一郎は仏壇線香からヒントを得て、1890(明治23)年に粉末を線香に練り込んだ棒状の蚊取り線香(写真①)を発明しました。

ただ、棒状は長さ20センチ、燃焼時間40分ほどで、一晩持たないのが課題。また、細いので輸送の途中で折れてしまうことも。長時間効果を保てるように研究を進めていた時、妻・ゆきが、庭でとぐろを巻くヘビを見て「渦巻きにしてみたら」と発案。試作用の木型(写真②)を作るなど試行錯誤を重ね、太く・長くすることに成功し、1902(35)年、約6時間燃え続ける渦巻き型の線香が商品化されました。

市場に並んだ蚊取り線香は、蚊に悩まされていた農家などの支持を受け、夏の必需品に。日本のみならず、海外でもヒットし、米国、ポルトガル、インドネシアなどに輸出されました。

昭和になり、除虫菊の有効成分の化学構造を解明。その後も、薬剤を吹きかけるエアゾール式や煙の出ない電気式、香り付き蚊取り線香、イヤな虫を寄せ付けない吊り下げ式など、殺虫剤産業に新風を吹き込んでいます。

大事に保管される機械や史料


化学構造の分析で、市場では化学合成成分を使った蚊取り線香が主流となり、現在、日本で除虫菊はほとんど栽培されていません。時代の流れとともに、あらゆるものが進化を遂げていくのが社会の仕組み。100年以上にわたってロングセラーの蚊取り線香はどのように作られてきたのでしょう。

そこで、開発当時の機械や史料、商品などが今も保存されている、大日本除虫菊・紀州工場(有田市山田原)を訪れ、工場長の浅井洋さんと宣伝部の笹岡可奈子さんに工場内を案内してもらいました。

まずは、工場で蚊取り線香の製造工程を見学(左記参照)。原料を混ぜ合わせ、渦巻き型に抜いた後、品質検査を受け、階上の乾燥室へ。脚立に登り、上から眺める蚊取り線香は圧巻。全開した窓からはミカン畑が見渡せ、笹岡さんは「隠れた絶景ポイントです」と目を細めます。

工場入り口には当時の看板や、乾燥時に外気を取り込むよろい戸が飾られており、浅井さんは「地元の小学生がスケッチする姿を見ると、うれしくなります」と笑顔。ちなみに、蚊取り線香と同じ緑系で統一された工場の色彩は、浅井さんの意向だそうです。

次は、江戸時代末期の母屋が残る「未来技術館遺産資料館」。もちつきのきねや臼からアイデアを得たような機械(写真③④⑤)や、輸出時の木箱などが保管されています。

笹岡さんは「新しいものを作るだけでなく、機械や史料を後世に残していくことも大事なことです」、浅井さんは「昔からの技術とこだわりをどう守り続けるか。ものづくりに対する姿勢を伝承していきたいです」と話し、先を見据えています。

昔は手作業で渦巻きを作っていました


色鮮やかな海外向けポスター


殺虫力のある化学合成成分を含ませた植物性の粉末、木粉などを、ミキサーで混ぜ合わせます


ベージュ色の粉末に、染料と水を加え、重さ400kgのドラムで押しつぶしながら、約15分間練ります


手で握ると指の跡がつく程度の柔らかさに練り上げられた原料は、シート状に押し出されます


刃型が付いた打ち抜き機へ。1つの型で、2つの渦巻きが組み合わさった形に打ち抜かれます


スタッフが手作業で品質検査を行います。検査を通過した蚊取り線香は、リフトで乾燥室へ


この段階の蚊取り線香の水分量は約50%。外気を調節しながら2日間自然乾燥させます

金鳥 蚊取り商品を7人にプレゼント

殺虫剤に化学合成成分が使われるようになった今でも、天然の除虫菊が練り込んであり、昔ながらの香りです。レギュラーと香り付き蚊取り線香(森の香り、ローズの香り)の3種から1つプレゼント、どれが当たるかはお楽しみに!
ハガキに
〒住所、氏名、年齢、電話番号、記事の感想・意見を記入して、

宛先 〒640-8557(住所不要)
和歌山リビング新聞社「蚊取り線香」係まで
メール 件名に「蚊取り線香」と記入して
living@waila.or.jp
備考 6月7日(水)必着。
当選発表は、当選ハガキの発送をもって代え、商品は弊社で引き取りとなります

Q. 消し方にコツはあるの

蚊取り線香は、1時間で10㎝の燃焼が目安です。使いたい時間を逆計算して、使う前に必要な分だけ折っておくのがおすすめ

Q. 効き目の範囲は

煙が広がっている範囲で効き目を発揮します。有効成分は気流に乗って広がるので、野外では風下より風上に置く方がいいでしょう。野外は蚊取り線香、飛んでいる蚊を落とす時はエアゾール、家の中は電気式蚊取り、イヤな虫を寄せ付けないようにするには吊り下げ式と用途に合わせて使い分けて!

Q. 蚊の種類を教えて

蚊は血を吸う蚊と、吸わない蚊を合わせて約3200種。血を吸う蚊は約2500種あり、そのうち、マラリアやデング熱など、疫病を媒介する蚊は約300種。血を吸わない蚊の中には、ボウフラ時代に他のボウフラを食べる種もあり、こういった蚊は、“人間の味方”といえるかもしれませんね

Q. 除虫菊の成分って何

除虫菊は、セルビア共和国(旧ユーゴスラビア)で発見されました。古くから殺虫効果があることで知られ、花の子房に殺虫成分(ピレトリン)が多く含まれています。1938(昭和13)年、日本国内で約1万3000t生産されていましたが、現在、化学合成成分が開発され、ほとんど栽培されていません

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