希少な春の味覚 紀州ひろめ

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撮影協力=ひとはめ寿司本舗 宝来寿司

心豊かに、もっとステキに―。今週号は、〝Good Life(上質な暮らし)〞を提案する特集をお届けします。突然ですが、皆さん「ヒロメ」はご存じ? 日本全国でごく限られた海域にしか生息しない、珍しい海藻が田辺市近海でとれ、旬を迎えています。

ワカメと同属同種の海藻
生息域は限られ、大半が地元で消費

「ヒロメ」という言葉を初めて耳にするという人も多いのでは? いやいや6年ほど前、人気テレビ番組「カミングアウトバラエティ!!秘密のケンミンSHOW」(読売テレビ、木曜午後9時放送)で、「ヒトハメ」の名で紹介されたので、食べたことはないけれど、存在は知っているという人もチラホラでしょうか。

その正体は、ワカメと同属同種、コンブ目チガイソ科の海藻。今の時期になると、和歌山県内では、田辺市を中心に紀南で水揚げされますが、大半が地元で消費され、紀北で流通することはほぼありません。繁茂地域が狭く、千葉県以南の本州、四国、九州の太平洋岸で局所的に分布。食用としているのも千葉県、三重県、和歌山県、徳島県、大分県の一部だけとか。

ちなみに語源は、食用となる海藻の総称を「メ(海布/海藻)」といい、幅が「広い」「メ(布)」で「ヒロメ(広布)」と呼ばれるようになり、田辺市では大きな〝一つの葉〞で「ヒトハメ(一葉布)」ともいわれています。

これがシャキシャキとした独特の食感で、柔らかくとろみがあっておいしいんです。粘質物に含まれる食物繊維「フコイダン」が、ワカメより多いことも分かっています。

「紀州ひろめ」を地域ブランドに

船上で天然ヒロメを広げる尾﨑紀光さんは、漁師暦45年。葉部が大きな卵形で切れ込みがなく、メカブを作らないのがワカメとの違い

船上で天然ヒロメを広げる尾﨑紀光さんは、漁師暦45年。葉部が大きな卵形で切れ込みがなく、メカブを作らないのがワカメとの違い


冷蔵保存で2、3日、冷凍すれば1カ月ほど持ちますが、やはり食感、香りが薄れます

冷蔵保存で2、3日、冷凍すれば1カ月ほど持ちますが、やはり食感、香りが薄れます

認知度向上、販路拡大を目指す一方
収穫減という問題に直面

和歌山南漁業協同組合田辺市所 羽夫瀬隆さん

和歌山南漁業協同組合田辺市所
羽夫瀬隆さん


「ヒロメは、地元では昔からよく食べられてきましたが、田辺市より北にいけば〝無名の食べ物〞。地元以外の人に知ってもらおうと、6、7年くらい前から販促活動に取り組んでいます」と、和歌山南漁業協同組合田辺支所(田辺市江川)の羽夫瀬(はぶせ)隆さんは話します。

和歌山南漁協では、和歌山県でとれるヒロメを地域ブランドとして確立させようと、平成26年に「紀州ひろめ」を地域団体商標に登録。県外に販路を拡大するため、東京・大阪の商談会に出展したり、南大阪の大手スーパーで実演販売するなどして、「少しずつですが県外の人に知ってもらうきっかけができ、名前が知れ渡ってきました」と羽夫瀬さん。

水中に生息するヒロメ。最大で1mほどになりますが、通常は50~60cmのサイズで収穫します

水中に生息するヒロメ。最大で1mほどになりますが、通常は50~60cmのサイズで収穫します

ただし、ここにきて問題が勃発。「ヒロメも他の海藻類と同じように秋に芽生え、冬に生長します。しかし、近年、冬場の海水温が下がらないためか、生育状況がよくなく、収穫量は年々減少しています」と打ち明けます。

平成27年の水揚げ量は約20トンだったのに対し、28年はその3分の1程度、今年も不良傾向とのこと。「販路拡大は、最盛期の市場価格の値崩れ防止の目的もあったのですが、収穫量が減ると逆に値段が上がってしまって外に出しにくい状況。せっかく浸透してきたのに、歯がゆいですね」と。

収穫期の2月〜4月に、ヒロメ漁を行う漁師はわずか数人。漁港から船で5分ほどの浅瀬で、素潜りや二股に分かれたさおを使って一枚一枚丁寧に収穫し、汚れを落として出荷します。

供給量を安定させるため養殖も
しかしながら、2年連続全滅

養殖ヒロメの収穫の様子。養殖といっても種糸をロープにつなげているだけで、生育環境は天然と変わりません

養殖ヒロメの収穫の様子。養殖といっても種糸をロープにつなげているだけで、生育環境は天然と変わりません


供給量を安定させるため、また、地元漁師の冬場の閑散期の収入源として、和歌山県水産試験場と連携して平成2年ごろから養殖にも着手。4月にヒロメの茎から胞子体を取り出して水槽で育て、12月になると生長した幼体を付けた糸「種糸」を養殖用ロープにつなげて海に戻します。さらなる生長を待って天然ものが市場に出回る少し前、1月末から2月初旬に収穫するのですが、「昨年と今年は全滅。種糸から育たなくて…。長年養殖をしてきたけれどこんなことは初めてですね。はっきりとした原因は分かりませんが、水温の影響かな〜」と、長年ヒロメの養殖に携わっている漁師暦38年の永井恵さんは渋い表情を見せます。

とはいえ、少ないながらも和歌山南漁協田辺支所の魚市場には、今が旬の「紀州ひろめ」が並び、田辺市内のスーパーでは100g200円強で販売されています。

これからの春休みシーズン、紀南方面へお出掛けの際は、田辺市近郊でスーパーに立ち寄ってみて。また、インターネット通販サイト「味咲(あじさく)楽天市場店」(http://www.rakuten.ne.jp/gold/ajisaku/)でも購入が可能(数量に限りあり、冷凍で発送されます)。味わってみたい人はぜひ。ワカメと同じ感覚で各種料理に使えます(下記参照)。

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ヒロメのしゃぶしゃぶ

脇役の食材が主役に!!カツオやコンブだしで、生のヒロメを“しゃぶしゃぶ”すると、一瞬で鮮やかな緑色に変化。見て楽しく、味、香りが最もダイレクトに伝わる食べ方です。他の具材は野菜や魚などお好みで

脇役の食材が主役に!!カツオやコンブだしで、生のヒロメを“しゃぶしゃぶ”すると、一瞬で鮮やかな緑色に変化。見て楽しく、味、香りが最もダイレクトに伝わる食べ方です。他の具材は野菜や魚などお好みで

ヒロメのみそ汁

生のヒロメをおわんに用意し、好みの具材で作った熱々のみそ汁をおわんに注ぎ入れます。煮込むより、一層食感が楽しめます

生のヒロメをおわんに用意し、好みの具材で作った熱々のみそ汁をおわんに注ぎ入れます。煮込むより、一層食感が楽しめます

ヒロメとタケノコの炊き合わせ

そろそろ旬のタケノコが出てくるころ。春食材を組み合わせて炊き合わせに。先にタケノコだけを煮込んで、生のヒロメは火を止める直前に加え、緑色に変われば完成

そろそろ旬のタケノコが出てくるころ。春食材を組み合わせて炊き合わせに。先にタケノコだけを煮込んで、生のヒロメは火を止める直前に加え、緑色に変われば完成

ヒロメとシラスの酢の物

湯通しして冷ましたヒロメに、合わせ酢を加えます。仕上げにシラスを。ポン酢でも美味。キュウリやタコ、カニカマボコなど好みの具材を加えてアレンジを

湯通しして冷ましたヒロメに、合わせ酢を加えます。仕上げにシラスを。ポン酢でも美味。キュウリやタコ、カニカマボコなど好みの具材を加えてアレンジを

ヒロメとサケの炊き込み御飯

ヒロメは、湯通ししてから使用。白米を炊くのと同じ水加減で、しょう油、みりん、塩を少々投入。ヒロメと電子レンジで軽く蒸したサケを乗せて炊飯器のスイッチオン。炊き上がったら、サケをほぐして混ぜます。

ヒロメは、湯通ししてから使用。白米を炊くのと同じ水加減で、しょう油、みりん、塩を少々投入。ヒロメと電子レンジで軽く蒸したサケを乗せて炊飯器のスイッチオン。炊き上がったら、サケをほぐして混ぜます。

産地・田辺で食べようヒロメ料理

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田辺市でヒロメが食べられるお店といえば、JR紀伊田辺駅近くの老舗「宝来寿司」。ヒロメのしゃぶしゃぶは1人前1080円で、今の季節限定。「ひとはめ寿司」(648円)、「梅ひろめ寿司」(同)など、ヒロメの寿司類は年中提供しています(持ち帰りも可)。
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酢の物やみそ汁に便利な自家製の「湯通し塩蔵ひろめ」(648円)は、プレミア和歌山認定商品。店頭の他、「産直市場よってっていなり本館」(田辺市稲成町)「JA紀南ファーマーズマーケット紀菜柑(きさいかん)」(同市秋津町)で取り扱っています

問い合わせ ひとはめ寿司(すし)本舗
宝来寿司
住所 田辺市湊1126(JR紀伊田辺駅から徒歩約5分)
電話 0739(22)0834
営業時間 午前10時~午後9時
定休日 月曜

ぼくはヒロメタロー。「紀州ひろめ」を広めることが任務。海育ちなのに泳げないんだ。でも、ヒロメの葉をゆらゆらさせて、一生懸命ヒロメの情報を収集して発信しているんだよ。なんと、白浜町出身のミュージシャン・古家学さんが、「紀州ひろめをヒロメタロー」という曲も作ってくれたんだ

ぼくはヒロメタロー。「紀州ひろめ」を広めることが任務。海育ちなのに泳げないんだ。でも、ヒロメの葉をゆらゆらさせて、一生懸命ヒロメの情報を収集して発信しているんだよ。なんと、白浜町出身のミュージシャン・古家学さんが、「紀州ひろめをヒロメタロー」という曲も作ってくれたんだ


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