9月1日は防災の日
地域で活躍! 災害ボランティア
- 2022/8/25
- フロント特集
和歌山大学内にできた
常設の災害ボランティア拠点
昨年3月、和歌山大学(和歌山市栄谷)に、常設の災害ボランティアステーション「むすぼら」が立ち上がり、学生たちが中心となって活動の輪を広げています。
これは、地域の中でリアルな課題を発見し、その解決に向けた学生の活動を支援する同大学の「紀伊半島価値共創基幹・KiiPlus(キイ・プラス)」の取り組みの一つ。南海トラフ巨大地震の発生が懸念される和歌山県で、「防災・減災・復興の担い手づくり」を目的に、災害に強い人材育成を目指しています。
むすぼらは、地元で災害が発生したときにボランティアとして地域で活躍するだけでなく、被災者のニーズと学内外のボランティアの力を結ぶ拠点(ステーション)を大学内に設けて運営。平常時には、こうした有事の際にリーダーとしての役割を担えるよう、日頃から災害・防災の知識とスキルを学びながら、実践を積み重ねています。
現在、むすぼらに登録するのは学生と教職員ら143人。活動の中心となっているのは十数人の学生で、5つのワーキンググループを構成。災害時に役立つ技術を身に付ける「スキル研修」、離れた場所の被災地を支援する「遠隔・情報系支援」、イベントなどを行う「啓発・防災教育」、ボランティア活動を主軸とする「地域活動・現場活動」、そして自分たちの活動をPRする「広報」。これら各グループが連携しながら、むすぼらとしての活動を運営。SNSやオンライン会議システムを活用し、中心メンバーが登録者に情報を発信しながら活動への参加を呼びかけ、イベントやボランティアを行ってきました。
同じ思いの学生がたくさんいる
給水ボランティアで学んだこと
むすぼらは昨年、和歌山市北部の断水時に“給水ボランティア”として活躍。困っている地域の人たちに役立つことはないかと考えたのが、大学近くの給水所となった小学校で水を入れたポリタンクを運ぶボランティアでした。学内に参加を募ると62人が賛同。断水開始2日後から4日間、延べ79人が参加しました。
「地域の人に感謝され、ボランティアとして活動する意義を実感できました」と話すのは、この活動を呼びかけた柏幸輔さん(観光学部2回生)。「地域の助けになりたいと、同じ思いの学生がたくさんいると分かったことも、大きな収穫でした」とも。広島市出身の柏さんは高校生のときに西日本豪雨を経験。「当時は何もできなかったけど、今こうして災害について学び、意識することでアクションにつながる。災害が起こったときも何ができるかを考えて行動したい」と話します。
この他、むすぼらは大学で防災体験イベントを実施。また、今年3月の福島県沖地震で屋根瓦が落ちた住宅に役立ててもらおうと、段ボールで「アシスト瓦」を作成(写真下)。
コロナ禍で現地に行くのが難しい今、遠隔地からの支援として取り組み、約100枚を福島県に送りました。湯川愛理さん(経済学部2回生)は、「むすぼらを通して、学生はもちろん、地域や県外の人ともつながっているのが強み。災害に対して不安はありますが、事前に備えることと、人と人のつながりが大切だと思います」と話します。
むすぼら SNSで情報を発信していますインスタ@musubora.member 問い合わせ TEL073(457)7558 |
災害を“自分事”として考える
「初めまして」の関係をなくそう
「災害が起こったとき、まず自分自身の安全を守ることが第一ですが、その後、必要になるのは“助け合い”です。日頃から地域の人たちが気軽にあいさつを交わせるような関係を築いておくことが大切ですね」。こう話すのは、和歌山県社会福祉協議会(和歌山市手平)に事務局を置く「和歌山県災害ボランティアセンター(VC)」の所長・南出考さん。
2008年10月、常設災害VCとして全国で4番目に「和歌山県災害VC」が開設されました。災害が起こったときには、その市町村に災害ボランティアセンターが設置されますが、県災害VCはその運営を支援。被害の状況を把握し、ボランティアを募って受け入れ、円滑に活動できるようにサポートします。
そんな有事に備え、県災害VCは平常時から県内各地で研修や訓練を重ね、それぞれの地域で互いに顔の見える関係づくりを進めています。県内の防災関連機関・団体、経済団体や民間企業など、現在39団体と災害時の協力・連携体制を築くほか、和歌山大学の防災力強化や災害に強い人材育成にも協調。1面で紹介した「むすぼら」の運営にも携わっています。
「いざというときに“初めまして”という関係ではなかなか迅速に事を運べません。一緒に何かをしたり、言葉を交わしたりする人同士の交流が必要です」。南出さん自身も、これまで多くの災害現場に足を運び、ボランティアとして活動してきました。「被災地でよく聞くのは“日頃からもっと家族や近所の人たちと防災のことを話しておけばよかった”という声です。この教訓を生かさないといけないと思うんですよね」とも。
今のコロナ禍で南出さんが懸念しているのは、地域の人たちが集まる機会が少なくなっていること。防災訓練などの機会も奪われ、関心が低くなっていないかということです。「ここ数年も日本の各地で支援が必要な災害が起こり、災害ボランティアセンターが設置されている被災地もあります。ところが、新型コロナの影響で、県外からのボランティアを受け入れるのが非常に難しい状況になっているんです」と南出さん。「もし和歌山県で何か被害があっても、他府県からのボランティアに頼れないケースが想定されます。自分たちが住む地域を自分たちで守る力が今後もっと求められます。こんなときだからこそ、地元の力が必要です」と訴えます。
県災害VCは、災害発生時に救援や復旧活動をするボランティアの登録を受け付け(下記参照)。登録すると防災やボランティア関連情報が受け取れ、研修や訓練も受けられます。現在、県内649人が登録しています(8月1日現在)。
災害ボランティアに登録しませんか登録すると… 問い合わせ TEL073(435)5220 和歌山県社会福祉協議会 県災害VCの中西邦香さん(右)、竹本千賀さん |
また、県災害VCの協力団体には日頃から防災に力を入れて活動しているグループがあります。そのうち3団体の取り組みを紹介します(下記)。
災害時に備える日頃の取り組み
紀の川市福祉防災ボランティア会
各地区のボランティア会が結集
紀の川市那賀・粉河・打田・貴志川・桃山の旧町すべての地区にある福祉防災ボランティア会が集まり、約250人が所属。地区ごとに住民を交えた訓練や啓発活動を活発に行っています。2017年台風21号による桃山調月地区の水害では、災害VCの設置も検討されましたが、同会が機動力を生かして即座に現地を調査。必要な場所にボランティアの力を届け、復旧を支援しました。
TEL0736(66)1211 紀の川市社会福祉協議会
日本防災士会和歌山県支部
専門資格を持った有志が活動
県内に防災士の資格を持つ人は約2700人、そのうち88人の有志が所属。それぞれが専門知識を生かして地域で活躍しながら、県支部としてコロナ前はボランティアバスで被災地支援に出向くなど積極的に活動。県内のイベントにブース出展して防災グッズを紹介するなどの啓発も行ってきました。現在は毎月オンライン会議を行い、近況を報告し合っています。
0okuda@nnc.or.jp 同県支部事務局長・奥田さん
和歌山県生活協同組合連合会
地域と全国をつなぐネットワーク
和歌山県内11の生活協同組合で組織。わかやま市民生協とともに和歌山県と「災害救助物資の調達に関する協定」を結び、日本生活協同組合連合会とも連携して人・物の両側面で全国各地の被災地を支援する体制を整えています。紀伊半島大水害にも義援金や支援物資を届け、ボランティアも多く現地で活躍。職員は地元の訓練や研修会に参加し、災害に対応する力量を上げています。
TEL073(474)9095 和歌山県生活協同組合連合会
地震・水害など外出先での備えは大丈夫?
毎日持ち歩く「防災ポーチ」
地震や水害などの災害はいつ、どこで起こるか予測できません。そこで、外出先での備えとして、必要最低限のものを入れた「防災ポーチ」が注目されています。
防災・減災の啓発をすすめる「わかやまウィメンズワッチタワー」代表で防災士の市場美佐子さんは、「避難時の持ち出し袋とは異なり、日頃持ち歩いているものに、1日過ごすことを想定した必要最低限のものをプラスするだけ。迷ったときは紙に書き出し、必要なものを絞り込んで」と説明。続けて「重く、かさばると持ち歩かなくなるので、できるだけ負担にならない大きさにまとめるのがポイント。日々使いながらローリングストック(循環備蓄)することも大切です」とアドバイスします。
基本のおすすめアイテムを市場さんに聞きました。参考に!
市場美佐子さん