6次産業化で特産品開発
紀の川市と農家の新たな挑戦
- 2023/2/23
- フロント特集
紀の川市は、農家とクリエーターがチームになり、新たな特産品を生み出すプロジェクトを展開。今月、第1弾の商品が完成し、同市初の認定ブランドとして販売が始まりました。プロジェクトや新商品について紹介します。
ローカル・コ・クリエーション・プロジェクト
第1弾の2商品が完成、販売開始
米や果樹など、さまざまな農作物が栽培されている紀の川市。生産から加工・販売までを行う6次産業化を目指す生産者(農家)を後押ししようと、同市は2019から21年度の3年間、ビジネス創出スクールを開き、約150人が受講。加工品のアイデアは生まれるものの、生産者にとって専門外の加工方法や商品デザインなどが課題となり、ほとんどが商品化には至りませんでした。
課題解決のため、同市は21年7月、商品アイデアからマーケティングまでを一貫支援する「ローカル・コ・クリエーション・プロジェクト㏌紀の川」を企画。これは生産者とクリエーターがタッグを組むことで、付加価値の高い産品を開発するというもの。地元の生産者14人から4人、全国から募集したクリエーター75人から4組が選ばれ、4チームで商品化に向けて動き出しました。運営は6次産業化を支援する会社「MISO SOUP(スープ)」(東京都)。
そして昨年3月、商品企画コンテストが実施されました。社会地域性や持続可能性などが評価され、かたやま農園の「季節の変わりしゅうまい 紀の川黒米包み」と、米もと農園の「xherb(クロスハーブ)」が最優秀賞を受賞。今月10日、同市初の認定ブランド「ISSEKI」として販売が始まりました。
※ローカル・コ・クリエーション・プロジェクト=Local CoーCreation Project
新ブランド「ISSEKI」の初商品が誕生
黒米の特長生かした「しゅうまい」
かたやま農園・片山篤さん
「小学校のときの夢が農家でした」と笑う「かたやま農園」の片山篤さん。古代米の一種・黒米の収穫体験をきっかけに2010年、脱サラして農家に転身。実家の田畑に加え、高齢化で作り手がいなくなった農地を借り受け、農薬や化学肥料を使わない有機栽培で、米や果樹の栽培をスタートさせました。
栽培する農作物の中でも“香りと味にひかれた”と、片山さんにとって思い入れのある黒米。「アントシアニンが豊富な食材で、もちプチ食感もくせになります。加工すれば食べ方の幅が広がるのでは」と、プロジェクトへの参加を決めたと言います。その後、東京で広告コピーなどを手掛ける石本香緒理さんたちクリエーター3人とマッチング。アドバイスを受けながら商品開発に向けて進み出しました。
当初、片山さんは粉末状の黒米を皮に使用したギョーザを考案。試作を繰り返すも納得がいかず、粉ではなく、米粒を生かすことに方向転換。たどり着いたのが、米粒で肉あんを包んだ「しゅうまい」でした。あんには「紀の国みかんどり」と同市でとれた旬の有機野菜を使用。春夏秋冬で使われる野菜が変わるため、「季節の変わりしゅうまい 紀の川黒米包み」と命名しました。黒米の持つ食感、香り、風味に加え、とり肉と野菜の味わいもしっかりと感じられるのが特徴。片山さんは「仲間が育てた野菜をあんに使うなど、皆と共に作り上げた商品。ようやくかたちになり、これからが本番です」と意気込んでいます。
肉あんを黒米で包んだシューマイ。春(ブロッコリーか菜の花)、夏(タマネギ)、秋(ニンジン)、冬(シュンギク)と、季節で具材の野菜が変わります。黒米のもちプチ食感を楽しんで
お問い合わせ | かたやま農園 |
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電話番号 | |
住所 | 紀の川市上野92-14 |
メールアドレス | |
インスタ | @kuromai_zutsumi |
備考 | 【販売】JA紀の里ファーマーズマーケットめっけもん広場、道の駅「四季の郷公園」の他、紀の川市ふるさと納税など |
手軽なスプレータイプの「ハーブ」
米もと農園・米田基人さん
農家と研究員の顔を持つ「米もと農園」の米田基人さん。子どもの頃にアフリカの食料問題を知り、“なんとかしたい”と大学は農学部へ。土壌微生物を活用した有機農業の研究に取り組んできました。縁あって2012年、東アフリカのルワンダ共和国で専門家として2年間勤務。帰国後は研究だけにとどまらず、農業に携わろうと、紀の川市に移住しました。
数ある農作物の中で、米田さんが着目したのはハーブ。農園ではローズマリーやスペアミントなど、年間30種類以上のハーブが栽培されています。米田さんはハーブについて、「香り高く、料理の味を引き締めるなど、さまざまな使い方、可能性があります」と説明。続けて、「でも、香りは時間とともに弱まり、調理方法も種類によって異なるという扱いにくさが課題」と伝えます。そこで、米田さんは、手軽に新鮮な状態の香りを楽しんでもらおうと、ハーブの香り成分を抽出した「液体ハーブ」を開発。後は商品化するだけに。
プロジェクトでは、マッチングで出会った東京在住のデザイナーの清水覚さんが、パッケージを中心にサポート。パスタや紅茶など、普段の料理や飲み物とかけ合わせるスプレータイプの商品「xherb」を完成させました。現在は5種類で展開、今後20種類まで増える予定。米田さんは「着香できる“調香料”として調味料のように、いろいろな活用法を見つけてもらえれば。ハーブの香りの文化を紀の川市から発信していきます」と笑顔を見せています。
ローズマリー、マジョラム、スペアミント、ローズゼラニウム、ローレルの5種類。揚げ物、焼き物、サラダ、アルコール飲料などにスプレーするだけ。いつもの食卓に香りをかけ合わせる新感覚を体験
お問い合わせ | 米もと農園 |
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電話番号 | |
住所 | 紀の川市杉原443 |
営業時間 | 午前9時~午後5時 |
定休日 | 不定休 |
メールアドレス | |
インスタ | @yonemoto_farm |
備考 | 【販売】JA紀の里ファーマーズマーケットめっけもん広場の他、紀の川市ふるさと納税など |
「ISSEKI」のロゴに込めた思い
紀の川市初となる認定ブランド「ISSEKI」は、慣用句「一石を投じる」から名付けられました。ロゴは、波のように広がるグラデーションで多様性を表現。地域の活性化や産品の開発など、生産者の挑戦が波紋となって多くの人とつながるように、という思いが込められています。
今後、認定された商品は、ロゴが入ったシールやタグを付けて販売。全国展開されます。
第2弾が始動!今年中の販売を目指す
プロジェクトの第2弾となる商品企画コンテストが、2月11日、紀の川市役所で開催。新たな特産品の誕生に向け、二人三脚で進めてきた生産者とクリエーター7チームが、プレゼンテーションを行いました。
各チームは、フルーツや野菜を使い開発した試作品を紹介。商品のコンセプトや魅力、事業計画について発表しました。審査の結果、「四十八瀬紀ノ川ファミリー」(あんぽキウイ)、「Kubo-Labo」(パッションフルーツを使ったお茶)、「元ちゃんファーム」(乾燥野菜スープ)、「まつばら農園」(フルーツの果皮でつくる和紙のカレンダー手帳)の4チームが、優秀賞に選ばれました。今後、商品をブラッシュアップさせ、今年中の販売を目指します。
ちょっと豆知識
野菜や果物などをはじめ、生鮮食品から加工品に至るまで、世界はオーガニック(有機)ブーム。農林水産省の調査によると、2020年の日本の有機農業の取り組み面積は2万5200ha、耕地面積に占める割合は0.6%です。2010年に比べて耕地面積に占める割合は50%増加したものの、イタリアやドイツなど欧州連合の世界上位国と比べると、大きな開きがあります。日本は「みどりの食料システム戦略」で、2050年までに取り組み面積100万ha、耕地面積に占める割合25%まで拡大するという目標を掲てげおり、各都道府県でも有機農業への取り組みが進んでいます。ちなみに、日本の有機農業推進法では、化学的に合成された肥料や農薬を使用せず、遺伝子組み換え技術を利用しないことを基本に、環境への負荷をできるだけ低減した農業生産の方法を有機農業としています。
画像提供協力=紀の川市、かたやま農園、米もと農園