紀州が生んだ歌人 西行法師、生誕900年

リビング和歌山10月6日号

 和歌山県で生まれた、平安時代の歌人・西行。松尾芭蕉をはじめ、多くの人に影響を与え、死後、数々の伝説的逸話が語り継がれるほど、魅力あふれる人物です。生誕900年を迎える今、文化財や資料をもとに、その足跡をたどってみませんか。

生まれは現在の紀の川市
高野山をはじめ、ゆかりの地多数

 「新古今和歌集」や「小倉百人一首」などで有名な、平安時代末期の歌人で、僧侶でもある西行法師。今年で生誕900年を迎えます。和歌の才能だけでなく、人柄や逸話から多くのファンを持つ西行に親しみませんか。

 西行は、元永1(1118)年に、現在の和歌山県紀の川市にあった紀伊国田中荘の佐藤氏一族の家に生まれたといわれています。当初、佐藤義清(のりきよ)という名前だった西行。武芸の才能に秀で、京都で宮仕えをするようになり、やがて鳥羽院の“北面の武士”として活躍します。そんな華やかな世界に身を置いていた義清でしたが、23歳のときに突然出家して西行を名乗ります。京都の鞍馬山(くらまやま)などで暮らした後、高野山で生活しながら、全国を旅して多数の和歌を詠みました。30年ほどを過ごしたという高野山はもちろん、上富田町や那智勝浦町など、和歌山県各所で詠んだ歌も。

 和歌山県立博物館(和歌山市吹上)では、10月13日(土)から、西行の生誕900年を記念した特別展「西行~紀州に生まれ、紀州をめぐる~」が催されます。同館学芸員の坂本亮太さんに、展示の概要や西行の逸話について聞きました。秀逸な和歌はもちろん、さまざまな逸話も残している西行は、俳聖・松尾芭蕉にも多大な影響を与えたといわれています。生誕900年の機会に、いつの時代も人々を魅了する人物像に迫ります。
 

多くの人を引きつける西行の魅力

和歌山に縁の深い西行
和歌や逸話から生涯を読み解く

 武人や歌人として有名な西行ですが、蹴鞠(けまり)の名手としても知られていたよう。「蹴鞠の秘伝書を見ると“西行が言うには…”などの記述があります」と坂本さん。裕福な武官の家に生まれ、若くしてマルチに活躍し、妻子を得て順風満帆な人生を送っていると思われた西行ですが、23歳のときに突然出家を決意します。

 理由については、「身分が高い女性に恋をして失恋したから」「同僚が若くして死んでしまったから」など諸説あり、本当の理由は謎に包まれています。出家する際、「泣いて衣のすそに取りすがる子どもを、縁側から蹴落として家を捨てた」という逸話が残されており、その決意は相当固かったのではと思われます。今回の特別展では、そのエピソードをもとに描かれた絵巻も閲覧可能です。

西行法師行状絵巻

出家の際の西行をあらわした「西行法師行状絵巻」(センチュリーミュージアム蔵)

 出家後の西行は、滞在した京都や高野山、修行の旅で巡った全国各地で、さまざまな和歌を詠み、歌人としての卓越した才能を発揮しました。作風は、実際に訪れた場所の風景や触れ合った人々、多彩な実体験をもとに、感じたことをありのままに詠むというのが特徴。「月や桜をモチーフにした歌が多いですね。よく聞く“西行はイケメンだった”という話に確実性はありませんが、西行がたくさんの恋の歌を詠んだことは確かです」と坂本さんは話します。高野山にいた時代にも、自然や四季折々の生活を和歌に詠みました。かつての高野山の風景や山中での庶民の暮らしぶりを追想できるので、ぜひその世界をのぞいてみて。

和歌山県立博物館 学芸員・坂本亮太さん

和歌山県立博物館
学芸員・坂本亮太さん

 また、ユニークな逸話として、寿永2(1183)年に作られたとされる説話集「撰集抄(せんじゅうしょう)」に、「西行が人造人間を作ろうとしていた」というエピソードがあります。友人の死を悲観した西行は、高野山の奥で、死者の骨を集め、秘術を使ってよみがえらせようと試みます。しかし出来上がったのは不完全で、人のぬけがらのような物でした。その後、京都の公家のところへ行き、陰陽道で死者をよみがえらせる方法を聞いたものの、死んだ人をよみがえらせても意味がないと悟って人造人間作りをあきらめたとか。

西行坐像(弘川寺蔵)

西行坐像(弘川寺蔵)

 坂本さんは、「西行に関しては、確かではない伝説的なエピソードが多く、史実だけでは人物像がはっきりしません。しかし、物語や伝説としてさまざまな人に取り上げられるほど、魅力的な人物であることは間違いありません」と。

紀の川市窪にある西行法師像

紀の川市窪にある西行法師像

 同展では、西行にまつわる貴重な文化財が一堂に。史実はもちろん、伝説的な逸話も交えながら西行が紹介されます。西行自筆の書状なども集まります。謎や伝説も含めて、きっと興味深く見ることができるはず。期間中は講座なども開催されます。

像の足元の石碑に刻まれた、西行の恋の歌

像の足元の石碑に刻まれた、西行の恋の歌

西行法師生誕900年記念特別展

「西行 ~紀州に生まれ、紀州をめぐる~」

会 期 10月13日(土)~11月25日(日)
午前9時半~午後5時(入館は午後4時半まで)※月曜休館
入館料 一般1000円、大学生800円
高校生以下、65歳以上、障害者、和歌山県内に
在学中の外国人留学生は無料

会期内イベント[無料・事前申し込み不要]

連続講座「西行 再発見!」

会 場 和歌山県立近代美術館(博物館隣接)2階ホール
日時・内容 ①~③は午後1時半~3時、④は午後1時半~3時半
①10月20日(土)
「西行和歌の魅力」
 山口眞琴
②11月 3日(祝)
「西行伝承のおもしろさ」
 松本孝三
③11月10日(土)
「『撰集抄』の中の紀州譚」
 礪波(となみ)美和子
④11月17日(土)
「西行物語絵巻の世界を読む」
 阿部泰郎、蔡佩青、近本謙介、橋本美香

ミュージアム・トーク(学芸員による展示解説)

会 場 和歌山県立博物館1階企画展示室
日 時 ①10月21日(日)午前10時半~正午
②11月23日(祝)午後1時半~3時
③11月24日(土)午前10時半~正午
問い合わせ 073(436)8670 和歌山県立博物館

西行学会大会

会 場 近代美術館2階ホール
日 時 ①10月27日(土)午後1時半~4時半
・記念講演
「西行と紀国、西行くさぐさの歌」
 久保田淳
・座談講演
「讃岐の西行~佐佐木幸綱と語る~」
佐佐木幸綱、小林幸夫、平田英夫

②10月28日(日)午前9時45分~午後4時45分
・午前9時45分~正午
 研究発表
・午後1時~4時45分
 シンポジウム「紀伊半島と西行」
 宇津木言行、川崎剛志、坂本亮太

問い合わせ 0795(44)2082
西行学会事務局(兵庫教育大学言語系・山口眞琴研究室内)

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