第5回 杉野原の御田舞(おんだのまい) 〜舅(しゅうと)と聟(むこ)〜
- 2018/1/18
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稲作の生産過程を演じ、神仏に祈願
曲がりくねった山道を抜けると、頭上に空が広がります。有田川の中流に位置する有田川町杉野原地区(旧清水町)で、室町時代から受け継がれているのが「杉野原の御田舞」です。かつて高野山領だった有田川沿いの正月行事の特徴で、高野山に伝わった宗教文化の影響が色濃いといわれています。由来に諸説はあるものの、「延年(えいねん)」から発達した田遊びの一つとされ、年の初めに一年間の稲作の生産過程を模倣して演じ、その年の五穀豊穣(ほうじょう)を神仏に祈願します。
山の斜面に沿って冷気が流れ込み、吐く息が白くなる1月、地区の住民たちが集まり、祭りの練習が始まります。演者の経験を持つ「杉野原の御田舞保存会」会長・松浦金三さんは、「うたやせりふ、所作は、人から人へと継がれてきたので、原文は明治からのものしか残っていません。京言葉が多く、衣装の烏帽子(えぼし)や小刀、着物などからも都の雰囲気を感じます。でも、役によっては覚えるのが大変。動きが激しく、体力勝負です」と話します。
祭り当日、開演太鼓を合図に、演者などの一行は氏神の河津明神まで御渡りし、拝殿前で太鼓に合わせて、くわを打ち「春鍬(はるくわ)の舞」を奉納。その後は、隣接する雨錫寺(うじゃくじ)阿弥陀堂が舞台。ふんどし姿の男性が、お堂に据えられた大火鉢「紫燈(さいとう)」を中心に円陣を組み、太鼓の謡に合わせて、はやしながら勢いよく回る裸苗押(はだかなえおし)が行われます。
周囲が熱気を帯びてきたころ、舞台袖から本尊に向かって「太鼓」、くわを持った「舅」「聟」「田刈(たかり)」が登場。御田舞が始まります。舞は舅が聟に、春田打ちから田起こし、収穫、もみすりまでの二十余りの工程を教えるもので、紋付きはかま姿でうたう「座謡(ざうたい)」や、子どもたちの舞「田植子(たうえこ)」も見どころの一つです。
舞台となるお堂の天井は青ザサと米の穂を表現した削り花、本尊前は和紙を染めて作った椿の花や米・豆など五穀で描いたえとの絵馬で装飾。松浦さんは「お堂は見物客やカメラマンでいっぱいになります」と笑顔。いにしえの人たちの思いや文化はしっかりと現代に引き継がれています。
次回は3月。(続く)
【祭り情報】
日時 | 2月11日(祝) |
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場所 | 雨錫阿弥陀堂(有田川町杉野原) |
内容 | 13:00 河津明神へ御渡り後、御田舞 |
※隔年で開催
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