熊野詣の謎を解き明かす

大上敬史さんは公務員を退職し、フリーの写真家として活躍中。「古老から聞いた話を、今度は私から次の世代に伝える番です」

大上敬史さんは公務員を退職し、フリーの写真家として活躍中。「古老から聞いた話を、今度は私から次の世代に伝える番です」

30年以上にわたる取材を集大成
熊野詣の謎を解き明かす

~「熊野を駆ける」を出版した大上敬史さん~

世界遺産登録後、熊野古道をテーマにした観光ガイドや解説書は数多く出版されています。でもそれらは、本来の熊野詣を描き切っているのでしょうか。20代前半から30余年にわたって熊野古道を歩き続けた1人の写真家が、熊野詣本来の姿を伝えたいと新書を出しました。

熊野の記事を目にし
自身も古道を歩くように

「熊野を駆ける」(産経新聞出版)は全国の書店で発売中。A5判、オールカラー160ページ、1728円

「熊野を駆ける」(産経新聞出版)は全国の書店で発売中。A5判、オールカラー160ページ、1728円

「何かにとりつかれてしまうような〝ワナ〞が、熊野に存在すると感じるのです」と話すのは、〝熊野古道を歩く写真家〞こと、大上敬史さん(56歳)。このたび、熊野古道で見聞きした伝説を記し、魅力ある写真で構成する熊野古道伝説紀行「熊野を駆ける」を上梓(じょうし)しました。

大上さんが熊野古道にひかれたのは、地元新聞に連載されていた紀行文。紀州語り部の芝村勉さんによるものです。熊野古道という言葉自体、あまり知られていない35年前のこと。海南市に生まれ育った大上さんは、近所の小道を都人が通っていたとは思いも寄らず、その歴史的価値の高さに驚くとともに、「自分も歩いてみよう」と心が動きます。このとき、弱冠23歳。

「古道のガイドブックなどない時代。右往左往しながら、出会う人たちに片っ端から聞いていきました。この若造が何を聞くんだ…という感じでしたが、熱心に伝説を話してくださる方が多数いて、何時間もウンチクを聞かされることがありましたね。古老の話は初めて聞くものばかりで、それがおもしろくって、夢中になりました」

地方公務員だった大上さんは、これがライフワークになると確信。機会があれば熊野古道を歩き、写真を撮り、人と出会い、それまで聞いたことのない話をメモに取り続けました。

世界遺産登録のプロジェクトに参加するなど熊野と関わりを持ちながら、各所で写真展を開催。平成19年には、デンマークのコペンハーゲン市庁舎で写真展「わかやま展〜高野・熊野へのいざない」を開くほどに。平成21年から産経新聞和歌山版に「熊野を駆ける伝説の道探訪」を書き始め、連載すること138回。その集大成となったのが同書なのです。

本質を知れば知るほど
熊野に魅せられる

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八軒家浜(大阪市中央区天満橋)から南進し、熊野本宮大社まで伝説の舞台を1ページ1話で分かりやすく紹介。そこには地元にしか伝わっていないような、驚きの物語が散りばめられています。

「古老の伝承を元にした、今までの刊行物に出ていない話もあります。若いころに記したメモが役に立ちましたね。肝心な部分が欠落している伝説については、他地方に伝わる話を聞きに行き、合体させました。私が書ききれなかった部分は多々ありますので、明示した出典元を参照にし、ご自身で想像をふくらませて裏側を読んでもらえれば幸いです」

近年は熊野古道を歩く若い人が増えています。大上さんは「意外と言ってはなんですが、事前に熊野古道を勉強されて歩かれている方が多いですね。観光や健康、癒やしを求めてだけに熊野に来ているのではなさそうです」との印象。では、熊野に来る人々の目的とは?

「いにしえ人は、それこそ命がけの旅をして、熊野にたどりつきました。〝蟻(あり)の熊野詣〞とまで言われるほど、危険を顧みず人々は熱狂的に訪れたのです。根本になっているのは信仰。岩や滝の一つ一つに神々が宿っています。熊野古道を一度歩けば、ワナにはまったように、それらにひきつけられるのでしょう。それは現代人に対しても変わらないと思います」

熊野古道といえば遠いという印象はありますが、同書には和歌山市や海南市に伝わる話も掲載。まずは近所から訪ね歩く、というのもOKです。新緑の季節、同書を片手に熊野古道を歩いて、壮大なロマンに浸り、ワナにはまってみては。


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