最高峰の国産わさび発祥の地 真妻のわさび

リビング和歌山4月14日号

 香りや味が良く、最高級の品質だとして全国各地で栽培されている「真妻わさび」は、和歌山に起源があります。その事実を知らない人も多いのでは。旧真妻村(現在の印南町川又)で行われている、わさび栽培についてお伝えします。

おいしさ極上のわさび
ルーツは和歌山・印南町に

日本の食文化において、かかせない存在といえるわさび。ツンと鼻に抜けるあの独特の香りと辛みが、料理のおいしさを引き立たせてくれますよね。わさびは、捨てるところがないといわれ、すりおろして使う根茎(こんけい)、茎や葉、花や根っこまで食べることができ、春夏秋冬、1年を通して楽しめる植物です。薬味やわさび漬けの他、和歌山ではわさび寿司(ずし)として古くから親しまれています。

国産の本わさびの中でも、最高峰といわれているのが、「真妻わさび」です。わさび栽培で有名な静岡県をはじめ、全国各地で栽培されていますが、そのルーツは和歌山県の日高郡印南町川又、旧真妻村にあることを知っていましたか。

明治からわさび栽培を続けている平井わさび園(印南町川又)のオーナーの平井健さん、真妻わさびを印南町の特産品として広めることを目指す「真妻わさび振興協議会」代表の森本松太郎さんにインタビュー。わさびの歴史やわさび作りの現状について聞きました。

繊細で奥深い真妻のわさび作り

130年の歴史を持つわさび園
わさびの産地存続に奮闘

平井わさび園の沢わさびの田。ひんやりした山あいにあります

平井わさび園の沢わさびの田。ひんやりした山あいにあります

かつて旧真妻村(現印南町川又)では、わさびの栽培が盛んに行われていました。1887(明治20)年ごろ、真妻わさびの栽培が始まり、最盛期は1955年(昭和30年)前後。真妻地区には、14~15軒のわさび農家があったそうです。同地で約130年続く平井わさび園の4代目・平井健さんに話を聞きました。

「真妻わさび」が広がったきっかけは、昭和30年代に静岡県のわさび田が台風による被害を受け、生産者が新たな苗を求めて真妻村を訪ねたことにあります。辛味が強く、ねばりがある中にほのかに甘味が感じられる真妻わさびは、品種としてすばらしいと採用され、今では静岡県を中心に日本全国で有名になりました。

しかし、和歌山の真妻地区では、気候の変化や国有林が伐採されるなど環境の変化により、わさび作りに適した場所が減少。「後継者不足などの問題もあり、現在わさび作りで生計を立てているのは、真妻では平井わさび園だけです」と平井さんは話します。わさび栽培に適しているのは、標高300㍍以上の場所といわれていますが、夏でも気温が25度以下の涼しさ、水温は13度が最適。真妻種は数あるわさびの品種の中でも特に繊細で、気温や水温が適温でないとうまく育たないといいます。同園で主に育てているだるま種と比べると成長が遅く、2~3年かかります。温度が高すぎると腐ってしまい、低すぎると成長が止まります。栽培の難しさから、現在真妻種の生産量はわずかに。今は真妻種だけでなく、だるま種をメインに多様な品種が育てられています。

環境の変化に対応しながら
発祥の地にふさわしい品質を

(左)上に向かって伸びるわさびのいも(右)3~4月に収穫されるわさびの花

(左)上に向かって伸びるわさびのいも(右)3~4月に収穫されるわさびの花

「単に真妻種のわさびを作るのではなく、“真妻わさび発祥の地”にふさわしい、最高品質の真妻種を作りたいと思っています。また、真妻わさびだけでなくさまざまな品種を生産して、環境の変化に対応しながら、わさびの産地としての真妻地区を守っていけたら」と平井さん。

同園で栽培されているのは、山から流れる自然の沢を利用した「沢わさび」と、ハウスで育てる「畑わさび」。沢わさびの田では、すりおろして食べる、根と茎の間の“いも”と呼ばれる部分が主に収穫されます。品質の良いいもは、高級料亭などへ出荷。畑わさびの田では、主に茎や葉が収穫されます。

県外では、わさびの葉はあしらいなどに使われることがほとんど。わさび寿司(ずし)などの料理に使われるのは、和歌山ならではの文化です。わさびのいもの旬は冬ですが、花や茎、葉など、四季を通してさまざまな収穫が。水の中と陸の両方で栽培可能、それぞれで育ち方に違いがあり、繊細さと奥深さがある植物です。和歌山のわさびの味を楽しみたい人は、有田川町清水にある「赤玉食堂」へ。平井わさび園のわさびの葉を使ったわさび寿司が味わえます(左記参照)。

わさびの葉

(左)ハウスで栽培される、畑わさび。沢わさびと違い、いもが小さく、葉や茎がよく育ちます
(右)平井わさび園 平井健さん

 

真妻わさび復興を目指して
試行錯誤する真妻わさび振興協議会

真妻わさび振興協議会による沢わさびの田

真妻わさび振興協議会による沢わさびの田

印南町で「真妻わさびを復活させよう」という声があがり、2010年に「真妻わさび振興協議会」が設立。現在、有志で集まった6人が活動を行っています。代表の森本松太郎さんに話をうかがいました。

同会は、1953(昭和28)年に起こった紀州大水害の影響で荒れ果て、そのままに手付かずになっていたわさび田を再生。現在、真妻種をはじめとしたわさび作りに取り組んでいます。

真妻種は、種から育てる“実生(みしょう)”品種と違い、親株についている子株を分ける“栄養繁殖”で育てられます。森本さんは、「水害以降、環境が変わってしまい、山の湧き水の水質も昔とは違うといわれています」と話します。2016年には、わさび栽培用の箱を使った「ボックス式栽培」に取り組みましたが、地下水の質があまりよくなかったことと、水の管理が難しかったこともあり、現在はストップ。今は、無菌培養の「メリクロン苗」を使うなど、新しい技術にもチャレンジしています。同会のメンバーはそれぞれ本業の合間をぬって活動。真妻わさび復興に向け、試行錯誤を繰り返しています。

評価の高いわさびは真妻の誇り
特産品として復興に挑戦

茎の根元が赤いのが特徴の真妻わさび

茎の根元が赤いのが特徴の真妻わさび

地域の活性化はもちろん、印南町が真妻わさびの発祥の地であることを多くの人に知ってもらおうと、県内外のイベントなどにも積極的に参加。「真妻わさびは香りが良く、ツンとした辛味の後に残る深い味わいがあり、市場に出ると引っ張りだこ。全国の高級料亭や寿司店に卸されています。印南町で作られたわさびが、そんな風に重宝されているのは私たちの誇り。ただ、需要があるのに、供給が追いつかないのがつらいところですね」と森本さん。

真妻わさび振興協議会代表 森本松太郎さん

真妻わさび振興協議会代表
森本松太郎さん

同会は今後も、イノシシやシカ、ウサギなどの害獣(ときには人も)、虫や植物の病気、環境や気候の変化と戦いながら、栽培を続けていくとのこと。森本さんは、「生産が安定すれば、そば打ち体験とコラボレーションしたイベントなど、構想はいろいろある」とも。印南町の特産品としての真妻わさびのこれからの発展に期待しましょう。

 

赤玉食堂

わさび巻き

わさびの葉を使った「わさび寿司」(3貫480円)

和歌山産の食材を使った、多彩な郷土料理を楽しめるお店。人気のわさび寿司の中身は、サバ、アユの甘露煮、すりおろしわさび。4月中旬から、ぶどう山椒(ざんしょう)が香るスモークサーモンが新メニューとして加わります。わさび寿司とうどんや小鉢がセットになった「わさび寿司定食」(1200円)は店内で。

住所 有田川町清水337-7
電話 0737(25)0371
営業時間 午前11時~午後1時半、午後5時~9時
定休日 水曜
祝日の場合は翌日、土・日曜の営業は要確認

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