手作りソーラーカー「Orca号」で豪大陸を縦断
燃料は太陽光と地元の熱い応援
- 2023/9/28
- フロント特集
和歌山大学の学生が運営する「和歌山大学ソーラーカープロジェクト」が、10月22日からオーストラリアで開催される、ソーラーカーレース「BWSC(ブリヂストン・ワールドソーラーチャレンジ)」に初出場します。学生の手で作り上げたソーラーカーが世界の舞台で走ります。
培った技術を後輩が継承
約3000キロ走破に挑戦
和歌山大学には、学生の自由で自主的な学びや教育研究を支援するための、学生自主創造支援部門が設立されています。「和歌山大学ソーラーカープロジェクト」は2002年に発足。ソーラーカー製作を通して設計、加工、組み立てなどの流れを学び、一つのものを作り上げることを目的にしています。
同プロジェクトのメンバーにはシステム工学部を中心に、経済学部、観光学部、教育学部など約70人の学生が参加。開発、設計、製作、広報、レース出場まで、在学の学生が主体となって取り組んでいます。
2006年から「ソーラーカーレース鈴鹿」に出場し、2016年に4時間耐久レースで強豪チームを抑えて初優勝。これらの実績を踏まえ、オーストラリアで2年に1回開催される、世界最高峰のソーラーカーレース「BWSC(ブリヂストン・ワールドソーラーチャレンジ)」へ出場準備を始めます。
しかし2021年にはコロナ禍のために大会が中止に。当時のメンバーはこの思いをつなぐ形で培った技術を後輩に継承し、プロジェクトを推進。そして今年10月22日から開催される大会に初出場できることになりました。レースは7日間で、オーストラリア北部のダーウィンをスタートし、南部のアデレードまでの約3000キロを縦断。運転も学生自身が行います。
この大会に向けて新たに作られた「Orca号」は設計に1年、製作に1年を費やしました。全長5メートル 、幅1・3メートル、重さ約170キロ。屋根に取り付けられたソーラーパネルは約250枚。電力をバッテリーに蓄電して、モーターを動かす仕組みで、最大約100キロのスピードが出せるとか。
しかし砂漠を走る厳しい自然環境のため、高い運転技術や車両の精度が求められます。砂が車内に入っても、電気系に影響が出ないような細かな工夫も随所に凝らしました。また、限られたエネルギーを効率よく活用するために、車の抵抗を極限まで抑え、ドライバーは技術を磨き、データを分析しながら全員でレースを支えます。
灼熱砂漠の過酷なレース地元企業からも熱い応援
例年、完走は半分ほど
21年間つないだ技術で乗り切る
今年の「BWSC」には世界から40チームが出場予定。レースは世界一速いソーラーカーを決めるチャレンジャークラス、実用性を競うクルーザークラス、順位よりも大会を楽しむアドベンチャークラスの3クラスが設定。和歌山大学ソーラーカープロジェクトはチャレンジャークラスに出場します。
レースは午前8時~午後5時の間で走ることが決められています。レースのない夜間は、キャンプをして過ごすサバイバル要素なども特徴的。3000キロものレースのため、ソーラーカーの耐久性も大きな課題です。また車内にはエアコンがない上に、砂漠の公道を走るので気温が40度ほどに。ドライバーはサウナ状態の中、汗だくで運転することになります。若干、外気を運転席に取り入れるようにしているものの、車両の空気抵抗のこともあり、最小限にとどめているといいます。
さらにレースは、風が強くて車が飛ばされて横転するなど、棄権せざるを得ない場合があるほか、タイヤの足回りの部分が壊れて修理できなくなるなどのトラブルも予想されます。
またレースの時間制限内にクリアしないとリタイアになることも。レースには、ソーラーカーの前後にサポートする伴走車がいるほか、ドライバーは全部で4人、1日で3人が交代で運転するそう。代表のシステム工学部4年生の田所遥斗さんもドライバーの一人として運転します。
田所さんは、「非常に過酷なレースが予想されます。例年、完走する車は半分ほどなんです。手作りのソーラーカーなので、思いもよらない箇所が壊れたりすることもありますし、タイヤがパンクすると、すぐに交換できるような運営体制も必要です。また、天候を読んで、スピードを上げるべきなのか、落とすべきなのかを考えるペース配分も必要です。世界で1位になるようなチームと比較すると、ソーラーカーの性能をはじめ、現実的には大きなレベルの差があります。しかし、Orca号には、21年間の先輩方のこれまでの生きた技術のノウハウが詰まっているので、若いパワーで乗り切ります」と意気込みます。
企業から部品や技術提供も
生きたノウハウを次世代に
前回の「BWSC」はコロナ禍の影響で中止になりましたが、先輩からノウハウや技術を引き継ぎ、車の研究と開発を続けていました。しかしソーラーカーの製作や渡航費などは2000万円ほどかかるといいます。旅費が足らず、アルバイトをして工面した学生もいるとか。
田所さんは、「学生自身が大学の先輩などを頼って、地元の企業へ協賛金や寄付金のお願いに回りました。現在、地元企業の39社がサポートしてくださっています。部品や技術提供もいただいたことで、今回のプロジェクトを進めることができました。車の部品を加工して持ち込んでくれた方もいらっしゃるなど、企業さんの協力があってこその今回のレースだと感じています」と地元企業との関わりを大切にしています。
また、「専門的な技術はもちろん、一番大切だと感じたのは人と人との結び付きです。チームとして一緒にやっていくことや課題や解決の仕方であったりとか、このプロジェクトを通じて大きな学びがありました。初出場で、分からないことも多かったのですが、完走できるようにしっかり計画を立てて、結果を残していきます。まずは完走することを目標にしています」と田所さん。
広報担当の観光学部4年生の喜納怜香さんは、「まずは応援してくれている企業さんに感謝の気持ちでいっぱいです。その気持ちにお応えできるような成果を出したいと思います。レースが終わった後は、後輩にバトンを渡すことになりますが、これまでの技術の継承もしっかり行って、さらにレベルの高いものを作っていってほしいですね」と早くもプロジェクトの将来を踏まえた意識で取り組んでいます。
8月中旬に「Orca号」はオーストラリアに向けて出発しました。学生たちも10月上旬にメンバー15人で訪れる予定です。「BWSC」は10月22日~29日まで開催されます。「和歌山大学ソーラーカープロジェクト」では、公式インスタグラムなどを通じて、現地の様子や経過を随時発信する予定です。
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