希少な春の味覚 紀州ひろめ
- 2017/3/16
- フロント特集
撮影協力=ひとはめ寿司本舗 宝来寿司
心豊かに、もっとステキに―。今週号は、〝Good Life(上質な暮らし)〞を提案する特集をお届けします。突然ですが、皆さん「ヒロメ」はご存じ? 日本全国でごく限られた海域にしか生息しない、珍しい海藻が田辺市近海でとれ、旬を迎えています。
ワカメと同属同種の海藻
生息域は限られ、大半が地元で消費
「ヒロメ」という言葉を初めて耳にするという人も多いのでは? いやいや6年ほど前、人気テレビ番組「カミングアウトバラエティ!!秘密のケンミンSHOW」(読売テレビ、木曜午後9時放送)で、「ヒトハメ」の名で紹介されたので、食べたことはないけれど、存在は知っているという人もチラホラでしょうか。
その正体は、ワカメと同属同種、コンブ目チガイソ科の海藻。今の時期になると、和歌山県内では、田辺市を中心に紀南で水揚げされますが、大半が地元で消費され、紀北で流通することはほぼありません。繁茂地域が狭く、千葉県以南の本州、四国、九州の太平洋岸で局所的に分布。食用としているのも千葉県、三重県、和歌山県、徳島県、大分県の一部だけとか。
ちなみに語源は、食用となる海藻の総称を「メ(海布/海藻)」といい、幅が「広い」「メ(布)」で「ヒロメ(広布)」と呼ばれるようになり、田辺市では大きな〝一つの葉〞で「ヒトハメ(一葉布)」ともいわれています。
これがシャキシャキとした独特の食感で、柔らかくとろみがあっておいしいんです。粘質物に含まれる食物繊維「フコイダン」が、ワカメより多いことも分かっています。
「紀州ひろめ」を地域ブランドに
認知度向上、販路拡大を目指す一方
収穫減という問題に直面
「ヒロメは、地元では昔からよく食べられてきましたが、田辺市より北にいけば〝無名の食べ物〞。地元以外の人に知ってもらおうと、6、7年くらい前から販促活動に取り組んでいます」と、和歌山南漁業協同組合田辺支所(田辺市江川)の羽夫瀬(はぶせ)隆さんは話します。
和歌山南漁協では、和歌山県でとれるヒロメを地域ブランドとして確立させようと、平成26年に「紀州ひろめ」を地域団体商標に登録。県外に販路を拡大するため、東京・大阪の商談会に出展したり、南大阪の大手スーパーで実演販売するなどして、「少しずつですが県外の人に知ってもらうきっかけができ、名前が知れ渡ってきました」と羽夫瀬さん。
ただし、ここにきて問題が勃発。「ヒロメも他の海藻類と同じように秋に芽生え、冬に生長します。しかし、近年、冬場の海水温が下がらないためか、生育状況がよくなく、収穫量は年々減少しています」と打ち明けます。
平成27年の水揚げ量は約20トンだったのに対し、28年はその3分の1程度、今年も不良傾向とのこと。「販路拡大は、最盛期の市場価格の値崩れ防止の目的もあったのですが、収穫量が減ると逆に値段が上がってしまって外に出しにくい状況。せっかく浸透してきたのに、歯がゆいですね」と。
収穫期の2月〜4月に、ヒロメ漁を行う漁師はわずか数人。漁港から船で5分ほどの浅瀬で、素潜りや二股に分かれたさおを使って一枚一枚丁寧に収穫し、汚れを落として出荷します。
供給量を安定させるため養殖も
しかしながら、2年連続全滅
供給量を安定させるため、また、地元漁師の冬場の閑散期の収入源として、和歌山県水産試験場と連携して平成2年ごろから養殖にも着手。4月にヒロメの茎から胞子体を取り出して水槽で育て、12月になると生長した幼体を付けた糸「種糸」を養殖用ロープにつなげて海に戻します。さらなる生長を待って天然ものが市場に出回る少し前、1月末から2月初旬に収穫するのですが、「昨年と今年は全滅。種糸から育たなくて…。長年養殖をしてきたけれどこんなことは初めてですね。はっきりとした原因は分かりませんが、水温の影響かな〜」と、長年ヒロメの養殖に携わっている漁師暦38年の永井恵さんは渋い表情を見せます。
とはいえ、少ないながらも和歌山南漁協田辺支所の魚市場には、今が旬の「紀州ひろめ」が並び、田辺市内のスーパーでは100g200円強で販売されています。
これからの春休みシーズン、紀南方面へお出掛けの際は、田辺市近郊でスーパーに立ち寄ってみて。また、インターネット通販サイト「味咲(あじさく)楽天市場店」(http://www.rakuten.ne.jp/gold/ajisaku/)でも購入が可能(数量に限りあり、冷凍で発送されます)。味わってみたい人はぜひ。ワカメと同じ感覚で各種料理に使えます(下記参照)。
ヒロメのしゃぶしゃぶ
ヒロメのみそ汁
ヒロメとタケノコの炊き合わせ
ヒロメとシラスの酢の物
ヒロメとサケの炊き込み御飯
産地・田辺で食べようヒロメ料理
田辺市でヒロメが食べられるお店といえば、JR紀伊田辺駅近くの老舗「宝来寿司」。ヒロメのしゃぶしゃぶは1人前1080円で、今の季節限定。「ひとはめ寿司」(648円)、「梅ひろめ寿司」(同)など、ヒロメの寿司類は年中提供しています(持ち帰りも可)。
酢の物やみそ汁に便利な自家製の「湯通し塩蔵ひろめ」(648円)は、プレミア和歌山認定商品。店頭の他、「産直市場よってっていなり本館」(田辺市稲成町)「JA紀南ファーマーズマーケット紀菜柑(きさいかん)」(同市秋津町)で取り扱っています
問い合わせ | ひとはめ寿司(すし)本舗 宝来寿司 |
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住所 | 田辺市湊1126(JR紀伊田辺駅から徒歩約5分) |
電話 | 0739(22)0834 |
営業時間 | 午前10時~午後9時 |
定休日 | 月曜 |