家族で考える終活シリーズ① 「遺産相続」のホント!
- 2018/8/9
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いずれその日がやってくる前に、家族みんなで「終活」について考えてみませんか。今回から不定期でシリーズ展開をします。第1回のテーマは「遺産相続」。遺産相続は無縁と考える人もいるでしょうが、家族や資産があれば誰でも当事者になる話。家族が集まるお盆などの機会に、みんなで話し合ってみては。
相続をきっかけに争いになることも
家族で事前に考えておくことが大切
「終活」と聞いて、何をイメージしますか。身辺整理、遺言書、エンディングノート、生前贈与などがありますが、初回のテーマは「遺産相続」。身辺で、またはテレビのドラマなどで、相続でトラブルが起こったという話を、誰しも一度は聞いたり、見たりしたことはありますよね。
“うちはもめごとの原因になるような財産は無く、トラブルには縁がない”と思っていても、仲良く平穏な日々を過ごしてきた家族が、遺産相続をきっかけに長期にわたる争いに発展することも少なくありません。
トラブルの内容は各家庭の状況によってさまざまです。相続への関心の薄さや正しい知識を持たないことが、問題を深刻化させる要因になることもあります。
親世代はともかく、子どもの立場からはなかなか話を切り出しにくいものだと思いますが、自分自身のことを含め、家族みんなで、いつか来る日のことを話し合ったり、事前に考えておくことは大切です。
相続に関する基本的なことや、よくあるトラブルとその対処法などを、「日本司法支援センター和歌山地方事務所」(法テラス和歌山、和歌山市九番丁)の弁護士・金原徹雄所長に聞きました。
相続はプラスとマイナスの財産あり
法テラスへの相談件数は昨年度147件
相続法とは、ある人が亡くなったとき、その人が持っていた財産を、誰がどういう割合で引き継ぐのかをルール化したものを言います。
「戦前(第二次世界大戦前)の日本の民法は、家督(かとく)相続を原則とし、一家の(通常は)長男が全ての家の財産を相続してその家を守り、次の世代に受け継いでいくのが原則でした。しかし戦後、日本国憲法が施行された1947(昭和22)年、民法が改正されて家
督相続は廃止。配偶者に相続権が認められ、子どもの相続分も平等となりました」と話すのは、日本司法支援センター和歌山地方事務所(法テラス和歌山)の弁護士・金原徹雄所長。
相続について詳しくなくても、一般的に遺産分割の対象といえば、不動産や預貯金・現金、動産などが思い浮かびます。
金原所長は「相続の対象となる遺産には、プラスの財産とマイナスの財産があり、借金や未払いの税金などはマイナスの財産として引き継がれます。つまり、資産よりも負債の方が大きい場合には、そのまま相続してしまうと、相続人は負債を背負うことになるので、3カ月以内の相続放棄を検討すべきです」と話します。
遺産相続の際、相続人が複数いると、誰がどのくらい遺産を相続できるかが問題になります。金原所長は「法律上の相続には順位があり、故人の配偶者と、子どもや親、兄弟姉妹などの血のつながった親族(血族)に分けて考えます。相続が起こったとき、配偶者は常に相続人になりますが、親族は、それぞれの立場で優先順位があります」と説明します。
民法は、相続人の範囲や相続分を定め、相続人の間で円満に遺産分割協議をするための基準を定めていますが、話し合いがつかない場合、通常は家庭裁判所に調停を申し立てるなどの方法しかありません。
法テラス和歌山によると、2016年度に寄せられた全ての相談件数2337件中、相続・遺言に関するものは98件、17年度は2509件中、同147件と、増加傾向にあります。金原所長は「自分の財産を誰に承継してもらうかを遺言書で定めておくことができますし(公正証書遺言を推奨します)、法的効力はありませんが、エンディングノートなどを活用し、自分の意向を家族に伝えておくことも有意義です」と話しています。
今年7月、民法の相続制度が約40年ぶりに大きく見直されました。成立した改正民法は、高齢化社会に対応したもので、残された配偶者の生活を安定させる「配偶者居住権」の新設が柱となっています。これは、自宅の所有権とは別に、配偶者が一定期間または終身、自宅に住むことができる権利で、もし所有権が売却で第三者の手に渡っても、自宅に住み続けることができます。他にも、トラブルの原因にもなっている生前に書く「自筆遺言書」の取り扱いなども新たに規定が設けられ、2020年7月までに施行される予定です。
社会の変化が進む中、相続のかたちも変わってきています。金原所長は「分からないことがあれば、専門家に相談しましょう」と話しています。
資産や収入によっては、3回まで無料で相談することができます。詳しくは電話で問い合わせを
予約・問い合わせ | 050(3383)5457法テラス和歌山 |
■専門家に相談
相続人の間で発生するトラブルを、法律に照らし合わせながら、相談に乗ったり、代理人として解決したりしてくれるのが弁護士です。一人で悩まずに、早めに専門家に相談しましょう。地域によって定期的に無料の相談会も開かれているので、利用するのもおすすめです。
■遺言書
自筆の遺言書は形式的に間違いがあると無効になってしまうことも。確実な方法とされているのが、公証役場で公証人が作成する「公正証書遺言」。一定の費用はかかりますが、相続開始後に家庭裁判所の「検認」を受けることなく、すぐその内容を執行することができます。
■エンディングノート
遺言書のような法的効力はありませんが、あとに残す家族のために、大事なことを伝えるためのエンディングノートを書いておく人が増えています。その中に、資産の内容や負債の状況を詳しく書いておくことが、遺産分割をスムーズに成立させるのに役立つこともあります。
遺産分割の比率でもめる 相続分の割合は民法が定めており、同一順位の相続人の相続分は平等ということになっていますが、実際の遺産分割協議では、各自の取り分を巡って意見がまとまらないケースも少なくありません。 あらかじめ、遺言書で各自に何を相続させるかを決めておくことが有益でしょう。 |
土地・不動産しかない 土地を分割する方法として、①そのまま分ける「現物分割」、②売却して金銭に換算する「換価分割」、③土地を相続した人が他の相続人に金銭で払う「代償分割」、④相続人で共有する「共有分割」などがあります。誰にどんな資産を託したいのか、その意思を遺言に残しておくのも一つの手段です。 |
被相続人(故人)に借金がある場合 故人の借金も相続の対象になりますが、民法は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内」であれば、相続放棄をすることを認めています(家庭裁判所に「申述」という手続を行います)。 相続放棄をすれば「初めから相続人とならなかった」とみなされ、借金を引き継がずに済みます。 |
連絡の取れない相続人がいる 遺産の分け方を決める遺産分割協議には、相続人全員の合意が必要です。実務上、金融機関での解約・名義変更にも相続人全員の署名と実印の押捺(おうなつ)が求められます。相続人の中に協力してくれなかったり、連絡が取れない相続人がいたりすると、“遺産が分けられない”事態になるので、早く専門家に相談するのが良いでしょう。 |