姿たくましく、香り豊かで、味繊細幻のゴボウ「はたごんぼ」
- 2018/1/11
- フロント特集
心を豊かにする“Good Life”。今号、訪れたのは橋本市の市街地を一望できる国城山(くにぎさん)の中腹、標高約200メートルにある西畑地区。長年生産が途絶えていた特産品「はたごんぼ」が地元の有志をはじめ、さまざまな人の熱意によって2008年に復活。その後、生産体制を構築し、5回目の収穫期を迎えています。
粘りが強く、肥えた赤土で栽培
一度食べたら忘れられない味
「はたごんぼ」という名前は、西畑(はた)でとれるゴボウ(ごんぼ)から由来。味・香りの良さと軟らかな食感は、「一度食べたら忘れられない味」といわれ、紀州藩の歴史書『南紀徳川史』でもご当地の名物として、紹介されています。
収穫の時期は11月~翌年3月。土から姿を現すゴボウは、大きいもので太さ直径約10センチ、長さ約100センチにも。でも品種は一般的に作られている「滝野川」と呼ばれるもので、決して特別なものではありません。粘りの強い、肥えた赤土に加え、寒暖差の大きい環境でたくましく育つことで、この地域にしかない独自のゴボウが生まれます。
同地区は傾斜地が多く、江戸時代にはすでにその斜面を利用してゴボウが作られていましたが、1本収穫するのに約30分かかり、人力だけでは時間と労力がかかることから、次第にカキやミカンといった果樹へと転換。1955年ごろには表舞台から姿を消し、自家用栽培されるだけに。
2008年、地元の有志が立ち上がり、「再び特産品に」と栽培を開始し、2011年に農事組合法人「くにぎ広場・農産物直売交流施設組合」を設立。2013年からは、機械を導入するなどして、安定的な量産に向けて取り組んでいます。
西畑の伝統野菜を全国に
おいしさ伝わり、確かな手応え
収穫した“はたごんぼ”を前に、「くにぎ広場・農産物直売交流施設組合」組合長・岡本進さんは、「(自家用に作っていたので)子どもの頃、正月のおせちには、短冊状に切った“はたごんぼ”の料理が重箱いっぱいに詰まっていました」と懐かしみます。
西畑地区で1955年ごろから途絶えていた生産は、有志の手によって2008年、約半世紀ぶりに復活しました。きっかけは同組合の理事・素和治男さんの心に残っていた母親の言葉「西畑には“はたごんぼ”というおいしいゴボウがあったんよ」から。“はたごんぼを食べたい。特産物として復活させたい”という思いが、周囲を巻き込み、協力者の輪を広げることになりました。
特産物としての生産体制を構築することは、容易なことではありません。まずは栽培方法について学ぼうと、同組合の前身となる「幻のはたごんぼ塾」を開講。取り組みに賛同した人たちが集まり、自家用として栽培している人に教えてもらいながら、通常より3~4カ月遅い7月に種まきを実施。収穫期の11月にはスコップの柄ほどに生長しました。同組合長の岡本進さんは「短期間で大きく育ち、これだったら栽培していけると思いました」と言います。
2011年から、橋本市の市街地で販売したところ、「おいしい」と評判に。確かな手応えを感じるようになります。栽培は、従来からの方法を継ぎ、山の斜面を利用して作っていましたが、傾斜地は農機の乗り入れが難しく、ほとんどが手作業。粘土質なため、作業に時間がかかる上、一カ所で栽培できる量が決まってきます。特産物として再び名を広めるには、安定した生産が大前提。より広い耕作地の確保と作業の効率化が課題として浮かび上がってきました。
転機は2013年。耕作放棄地となっていた平らな土地を再利用し、栽培をスタート。岡本さんたちは「長年、耕作していない土地だったので、竹などが茂っていました。元に戻すのは大変な作業でした」と当時を振り返ります。
さらに4月、企業と農村が協働し、地域資源の保全と活用を目指す県の事業「企業のふるさと」を活用。農業に関するプロジェクトを全国で展開している農機具メーカー「井関農機」(本社=愛媛県松山市)が一役買ったことで、土づくりから収穫まで一貫した指導を受けられることに。畑の土を100センチの深さに掘り起こしたり、種まきや収穫をしたりする農機を導入することで、作業時間と労力が短縮。効果はすぐに現れ、初年度は10㌃の畑から約500キロのはたごんぼを収穫しました。岡本さんは「評判は上々で、スーパーに持っていったら、全部売れてしまうほどでした」と話します。
翌年からは24アールに拡大したことで、生産量が増加。県内の優れた産品を県が推奨する「2014年度プレミア和歌山」の審査委員特別賞にも選ばれました。
県内外からの注文が増加
土壌改良などで栽培技術を磨く
ゴボウは、同じ場所で繰り返し作り続けると、生育不良が起こるため(連作障害)、何年かに1回のサイクルで作る必要があります(輪作)。「ローテーションしながら、生産量を増やそうと思ったら、もっとたくさんの耕作地が要ってきます。開墾し続けるのにも今は限度があります。井関農機さんの指導で、耕作地を少しずつ広げながらも、今の場所を土壌改良し、栽培しています」と、現状を話します。
組合員は少しずつ増えて30代~70代の35人が活動。世界遺産・黒河道(くろこみち)を通り、高野山真言宗総本山金剛峯寺(高野町)へ、はたごんぼを奉納する「雑事(ぞうじ)のぼり」も復活させました。収穫したゴボウは、大阪や東京といった県外の料亭や宿泊施設などからの注文が増え、機運も高まっています。
来年度は耕作地を34アールに拡大。岡本さんは、「栽培技術を磨き、需要に対応していけるように生産量を上げていくのが今の目標。地元はもちろん、全国の人に食べてもらい、おいしさを知ってもらいたいです。そして若い人たちに引き継いでいきたいです」と力を込めます。企業だけではなく、県や橋本市も支援を続けており、産官民一体となった取り組みは今年も続いています。
2015年4月、畑の隣りに「くにぎ広場」が開店。朝からゴボウのいい香りと元気な声が聞こえてきます。「品種にもよりますが、ゴボウは太くなればなるほど、繊維と繊維の間が広くなり、軟らかく、ほっこりとした味わいになります」と説明するのは加工部の西井千草さん。ここでは約10人が交代で、はたごんぼの寿司(すし)やコロッケ、お茶などの加工品を作り、地元野菜などと一緒に販売しています。「みんなで意見を出し合い、試行錯誤する日々。お客さんの“おいしい”という言葉が何よりもうれしくて」と顔をほころばせます。
現在は、新商品・はたごんぼのジェラートを開発中です。
名前 | くにぎ広場 |
---|---|
住所 | 橋本市南馬場506-5 |
問い合わせ先 | 0736(33)5288 |
営業時間 | 午前9時~午後5時 |
休み | 火曜 |
ここでも食べられるよ!
パン工房アークティック
100%国産小麦に、乾燥させたはたごんぼチップスが生地に練り込まれています。温めたときのゴボウの香りがたまらず、いくつでも食べられそう
名前 | パン工房アークティック |
---|---|
住所 | 橋本市東家6-1-3 |
問い合わせ先 | 0736(33)0730 |
営業時間 | 午前8時半~午後7時 |
休み | 日曜 |
石窯と囲炉裏のオープンカフェ 木間暮(きまぐれ)
石窯で焼くクリスピーピザ。ゴボウの他、タマネギやマッシュルームがのり、さまざまな味と食感が楽しめます。自家製トマトソースとの相性は抜群
名前 | 石窯と囲炉裏のオープンカフェ 木間暮(きまぐれ) |
---|---|
住所 | 橋本市西畑489-1 |
問い合わせ先 | 0736(34)2871 |
営業時間 | 午前11時~午後3時 |
休み | 木曜 |