社会に変革をもたらすと注目されているAI。近年、技術開発が加速化し、さまざま分野で活用が進んでいます。医療分野でもAIを取り入れる動きが拡大。そんな中、岩出市の殿田胃腸肛門病院が今年3月、和歌山県内で初めて上部消化管内視鏡検査の診断を支援するAIを導入しました。同院で話を聞きました。
病変が疑われる領域を発見し、知らせる
診断、医薬品開発、ゲノム医療など、医療分野ではAI(人工知能)の技術がさまざまに活用されています。医療の現場では、より質の高い医療を提供しようと、医療機器にAIを導入する取り組みが進んでいます。
和歌山県内では、殿田胃腸肛門病院(岩出市宮)が今年3月、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)に、富士フイルムの医療機器・AI内視鏡診断支援システム「CAD EYE(キャド・アイ)」を導入しました。胃・食道がんや潰瘍、ポリープなど、病変と疑われる部分を検知し、医師の診断をサポート。早期発見・治療に役立つとされており、笠野泰生院長(写真)は、「医師とAIがリアルタイムでダブルチェックできるのが利点。胃の中の泡などに反応することがありますが、微小な情報も知らせてくれるので、検査の質の向上にもつながると考えます」と話します。
国内で罹患(りかん)率・死亡率ともに高い胃がん。医療技術の進歩で、今は初期のがんなら、内視鏡で切除できる可能性が高くなっています。しかし、初期のがんの病変は、サイズが微小だったり、形状が平坦だったり、発見が難しいといった課題もあります。CAD EYEは、検査部位を隅々までくまなく診られているかどうかをチェック。病変が疑われる領域を発見すると、内視鏡画面内で対象のエリアを囲ったり、「ピーン」という音を鳴らしたりして、医師に知らせるというもの。
同院では、導入から2カ月間で205件の検査を実施(5月31日現在)。1人の医師が1日10件の検査をすることも少なくなく、笠野院長は「患者の負担にならないよう短時間で見落としなく検査するよう心掛けています」と説明。その上で「経験のある医師は、かなり確実に診断するので、まだまだAIに診断の精度は負けていません。それに、人間にしかできないスキルもあります。ただ、人間だから疲労など調子の悪いときもありますが、AIにはそれがありませんからね」と話します。
CAD EYEは、AI技術を活用して開発されたソフトウエアで、大腸がん、胃・食道がんの早期発見をサポートする医療機器。下部消化器官内視鏡検査(大腸カメラ)診断システムは2020年11月、上部消化管内視鏡診断支援システム(日本初薬事認証を取得)は22年11月から実用化されています。
同院は下部消化器官内視鏡検査支援システムも導入。笠野院長は「がんなどの疾患は早期に発見し、治療することが大切です。いつまでも健康に過ごすために、定期的に健診を受けることをおすすめします」と呼び掛けています。
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