和歌山県で回収実証プロジェクトがスタート
天ぷら油で飛行機を飛ばす!?

 6月は環境月間。家で揚げ物に使った油は、その後どうしていますか? たいていは、固めたり、紙に吸わせたりして処分しますよね。その油は、資源として活用できます。和歌山県が使用済みの天ぷら油を回収する実証事業を始めます。これまで捨てていた“油”が持つ可能性とは? 未来の資源について考えてみましょう。

食用油などで作られるSAF
国産化に向けた動きが加速

皆さん、“SAF”って知っていますか。サスティナブル(持続可能な)・エイビエーション(航空)・フューエル(燃料)の頭文字でSAF、未来の航空機燃料として注目を集めています。「わかやま環境ネットワーク(和歌山県地球温暖化防止活動推進センター)」の代表理事を務める、和歌山大学システム工学部教授・中島敦司さんにSAFについて解説してもらいました(下記参照)。

「今、世界経済は“脱炭素”に向けて動いています。車は電動化が進んでいますが、飛行機は安全性の面から電動化が難しいとされ、液体燃料に頼らざるを得ない現状です。そんな中、航空会社は飛行機の燃料を環境負荷が少ないSAFに替えることで、二酸化炭素の排出量を削減することができます」と、SAFが注目される理由を話す中島教授。

中島敦司さん(和歌山大学システム工学部教授、和歌山環境ネットワーク代表理事)

中島敦司さん(和歌山大学システム工学部教授、和歌山環境ネットワーク代表理事)

「さらに、SAFはジェット燃料と同じ構造をした液体燃料なので、飛行機の仕組みを変えることなく、そのまま代替燃料として使えるのも利点。今のジェット燃料に混ぜて使うこともでき、SAFを使う分だけ二酸化炭素の排出を抑えられることになるんですね」とも。

すでに、国は2030年までに国内航空会社が使う航空燃料の10%をSAFに置き換える目標を掲げ、航空会社もそれぞれSAF導入に向けて動いています。

「従来のジェット燃料は石油が原料なので、輸入するしかありません。しかし、SAFなら国内で作ることができ、その技術も確立しています。国内で原料を調達して製造する、燃料を国産化できるのも大きなメリット。国内生産が進めば、飛行機だけでなく、将来さまざまに用途が広がる可能性を秘めています」と、中島教授は話します。

和歌山県では、使用済み天ぷら油を回収し、利活用する実証事業がスタートします。

SAFって?
大気中のCO₂を増やさない

 SAFとは、木材や海藻などの植物由来のものや、食用油や生ゴミなどの廃棄物を原料として人工的に作る飛行機のジェット燃料のこと(従来の燃料は石油で作られています)。どちらもCO₂を排出しますが、SAFが排出するCO₂はその原料となる植物に吸収されます。大気中のCO₂を増やさないから、脱炭素社会に向けて、SAFが注目されているのです。

 従来のジェット燃料SAF

ちょっと待って! 捨てていた油、これからは資源に

サーキュラーエコノミーへ
和歌山県がビジョンを策定

 大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会から、資源消費を抑え、製品や素材、資源の価値を可能な限り長く保全・維持し、廃棄物の発生を最小限にするサーキュラーエコノミー(循環経済)型の社会へ(下図)。和歌山県は、県内のサーキュラーエコノミーを推進しようと、昨年10月に「わかやま資源自律経済ビジョン」を策定。地域の未利用資源を活用して循環させることで、環境負荷の低減と地域経済の成長を目指す取り組みを始めました。

 サーキュラーエコノミー (循環経済)

サーキュラーエコノミー
(循環経済)

ビジョンでは、“和歌山らしさ”に主眼を置き、これまで活用されてこなかった6つの地域資源を挙げて、利活用・循環させることを目指しており、その一つが家庭でゴミとして処分されている「使用済み天ぷら油」。和歌山県有田市では、ENEОSが昨年操業を停止した和歌山製油所をSAFの製造拠点とする計画が進んでおり、こちらの製造プラントでは、主に食用油が原料として用いられます。
使用済み天ぷら油の他にも、県がビジョンで未利用資源と挙げるのは、県で林業が盛んなことから「木質バイオマス」、和歌山市の花王和歌山研究所で再生プラスチックの研究が行われていることから「廃プラスチック」など。短・中長期的な計画で、利活用に向けて取り組みます。

ENEOS和歌山製造所(提供=和歌山県)

ENEOS和歌山製造所(提供=和歌山県)

和歌山・海南・有田市の拠点で
使用済みの天ぷら油を回収

ビジョン策定後の第一弾として、県は使用済み天ぷら油の回収実証事業をスタート。家庭から出る植物性食用油を対象に、和歌山市・海南市・有田市に約30カ所の回収拠点を設け、モニターとして登録した人が、油を持参できる仕組みを作ります。「天ぷら油は、生活者にとって身近なものです。今まで捨てていたものが資源になることを、この機会に知ってもらいたい」と話すのは、和歌山県成長産業推進課の中島可南子さん。

和歌山県成長産業推進課の中島可南子さん

和歌山県成長産業推進課の中島可南子さん

和歌山県は使用済み天ぷら油の回収に協力するモニターを募集、6月3日(月)から登録を受け付けます(下記参照)。
実証事業は2年間で、回収方法や回収量、効率性などを検証。その成果を踏まえ、県内の一般家庭から出る使用済み天ぷら油を資源化するモデルプランを構築する予定。また、実証事業で集めた油はバイオディーゼルに精製され、油の収集・運搬車や、大阪万博の建設工事に使われる建機の燃料などに活用されます。

使用済み天ぷら油の利活用の流れ

使用済み天ぷら油の利活用の流れ

和歌山県の
家庭用使用済み天ぷら油回収実証プロジェクト
モニター登録は6月3日から受け付け

モニター登録の対象者
和歌山市、海南市、有田市に設置する回収拠点に、使用済み天ぷら油を持参できる人(アンケート協力の依頼もあり)
※3市以外に居住している人も登録できます

回収対象となる油
家庭で使われた植物性食用油に限る(賞味期限切れでもOK)
※動物性油脂(ラードやバター)を含むもの、エンジンオイルや灯油などの鉱物油は対象外

使用済み天ぷら油回収の開始時期
7月上旬

回収方法

回収ボトルのイメージ

回収ボトルのイメージ(実際使われるボトルとはデザインが異なります)。約800mlの油が入ります

モニター登録者は、回収拠点で受け取った専用ボトルに油を入れ、回収拠点に持ち込みます

拠点に設置される回収ボックス(イメージ)

 拠点に設置される回収ボックス(イメージ)
2層式になっていて、油を入れた専用ボトルを上段に収めます。下の段には洗浄された空のボトルが入っているので、それを受け取ります(回収拠点によっては、窓口手渡しの場合もあります)

回収拠点
3市内にある公共施設やスーパーマーケットなど約30カ所を予定
※拠点の一覧は、6月3日に公開される予定です▶︎(https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/063100/hitonowa.html)

モニター登録はこちら

6月3日から受け付けスタート
こちらの登録申請の専用フォームから申し込み▶︎(https://logoform.jp/form/WEVN/490366)

問い合わせ

和歌山県成長産業推進課 TEL
073(441)2355
Instagram インスタグラムで和歌山県のサーキュラーエコノミーに関する取り組みや情報を発信しています
@hitonowa_wakayama

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