和歌山バーテンダー物語 vol.10
- 2015/7/9
- 大人リビング
- 和歌山バーテンダー物語
見習いの時代のある日、マスターの代わりにハーフロックを作ることになった武田さん。グラスに氷、そしてウイスキーを入れ、ウオーターを注ぐ。カウンター越しのお客さんに出す。
「いつもと違うね」と、お客さんがつぶやいた。
声には出さなかったが、何が違うんだと思った。その日、マスターと先輩と3人でハーフロックを作り、飲み比べたが違った。作り方を教えてもらったが、やはり違った。なぜ違うのか、分からなかった。
「気持ち」が入っているかどうか…そう自分で答えを出したと、武田さんは振り返る。それ以来、どんなものに対しても、気持ちを込めることを忘れない。「お酒がシンプルになればなるほど、その差が出るのです」。
8年の修行を経て、1年半前に独立し、マスターになった。午後6時、SNSに今日の店のことを書く。日課だ。
「ここは隠れ家的なBARと言うんでしょうか」と店の紹介をしてくれた。いい響きだ。幼少期の秘密基地。誰しもその頃の思い出を捨てきれないし、戻りたいとも思っている。
大人になって〝隠れ家〞を見つけ、グラスを傾ける。何気に言葉をこぼす。その言葉をマスターはしっかりと受け止め、記憶にとどめる。後日、自分を振り返りたくなったとき、マスターはまるで自分の日記の日付をたどるかのように示してくれる。
「そうか、あの時、そんなことを言っていたのか」と、過去の自分に会わしてくれるマスター。お客の生きざまをも、くみ取ってくれるのかもしれない。
(次回は8月8日号に掲載)
住所 | 和歌山市友田町2ノ56 山崎ビル1階 |
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電話番号 | 073(463)4409 |
営業時間 | 午後6時~翌3時 |
休日 | 水曜 |
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