和歌山の新しいブランドに! 熊野海老の魅力
- 2022/11/3
- フロント特集
和歌山市の雑賀崎漁港で水揚げされる「足赤えび」がいよいよシーズン。その中でも61g以上あるビッグサイズのものを“熊野海老”としてブランド化する動きがあります。そんな熊野海老に込められた思いとは…。ブランド化を進める「フーズファイル」を訪ねました。
地元の食材に新たな価値を見いだし
未来につながる和歌山の食を考える
和歌山市雑賀崎でおなじみの「足赤えび」が、旬を迎えました(例年2月ごろまで)。正式な名前はクマエビですが、触角や足がきれいな紅白のしま模様で、地元では「足赤えび」と呼ばれていたことから、この名でブランド化が進んできました。プリっとした食感と甘味があっておいしいと名が通り、シーズンを待ちわびる人が多い地元の食材です。
この足赤えびのサイズの大きなものを「熊野海老」と名付け、プレミアムな食材として県内外に売り出し始めたのが、水産加工会社「フーズファイル」(和歌山市築港)。
「和歌山の足赤えびを、さらに県外に向けてもっとアピールできるようにと考えたのが“熊野海老”です」と話すのは、フーズファイルの専務・河村誠さん。
同社は水揚げされた足赤えびをサイズ選別し、一尾ずつ丁寧に急速冷凍。限られた時期に地元でしか食べられない足赤えびを、季節や地域を問わず食べられるようにと県内外に提供してきました。その足赤えびの61グラム以上の大きなサイズのものを「熊野海老」としてブランド化、専用のシールを貼って2020年から売り出しています(条件は上記)。
「熊野牛や熊野ポークのように、和歌山の味として発信できるように“熊野”と名付けました。大きさはインパクトがあるし、もちろん味がいい。熊野海老を通して足赤えびのおいしさを伝え、“足赤えびといえば和歌山”と、全国で認識してもらえれば」と、思いを込めます。
同社の願いはもう一つ。「今、温暖化の影響で海の資源が減っていることが心配されています。雑賀崎の足赤えびも例外ではありません。さらに、漁師さんの後継者不足もあって、実は私たちが当たり前に食べている魚介類が、将来食べられなくなるかもしれないんです」と河村専務。足赤えびに付加価値を生み出すことで、地元の漁業の継承に貢献すると同時に、消費者が地元の食材の価値に気付き、それを守るために何ができるかを考えるきっかけとしたいと話しています。また、専用のブランドシールは他の事業者などに販売し、その収益の一部は同社のSDGs活動に充てられます。
同社の熊野海老は、昨シーズン仕入れた約1・5トンがすでに完売。今シーズンの入荷は来年以降で、冷凍加工後に提供(次項参照)。また、熊野海老を料理に取り入れた宿泊施設が、和歌山市内に2カ所あります。各料理長に話を聞きました。
フーズファイル▶地産地消を推進する水産加工会社。「ぶらくりキッチン」や「きいちゃん食堂」などの飲食事業も展開
料理人が熊野海老の魅力を語る
エビのうま味が凝縮している
ひと口頬張れば風味が広がる
シーズンを通して地元の食材を料理に生かしている「休暇村紀州加太」(和歌山市深山)では、今年6~8月の季節会席に熊野海老を取り入れました。「エビのうま味が濃厚で、口の中に入れるとその香りがふわっと広がり、これなら使える!と思いました」と、熊野海老に感じた印象を話す料理長の岩木大樹さん。
昨年から、さまざまな調理法を試しながら一品料理として提供。お客さんの評判も良かったことから、今年の会席に使うことに。同じく和歌山の特産である「紀州和華牛」とともに熊野海老を和歌山の新ブランドとして打ち出し、季節会席「夏の美味饗宴(きょうえん)」を提供。「熊野海老と天然あわびの酒蒸し~濃厚海老味噌(みそ)ソースとフカヒレ餡(あん)かけ〜」の一品を創作し、織り交ぜました。
「熊野海老は、低温調理でじっくり火を通し、提供直前にあぶって香ばしさを出しました。低温調理することで、外はぷりっと、中はもちっとした食感に仕上がりました。濃厚なうま味もしっかり閉じ込められ、濃厚海老味噌ソースとの相性も抜群でした」と岩木さん。来年以降も熊野海老を定番の和歌山の食材として使う予定で、「驚きと感動を与えられるような料理に仕上げたい」と話していました。
問い合わせ | 休暇村紀州加太 |
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電話 | 073(459)0321 |
火を通すとぐっと甘味が増す
来年は他の食材とのアレンジを
「ホテルアバローム紀の国」(和歌山市湊通丁北)では、フーズファイルが熊野海老として提供を始めた最初の年から料理に採用。その大きさの特徴を生かして婚礼料理の刺し身にしたり、ホテル内の「割烹(かっぽう)六つ葵(あおい)」の定番会席料理「和歌山スタイル」に熊野海老料理を組み込みました。
「その大きさが魅力で、一匹まるごとを使って豪華な一品に仕上げられるのが良さ」と話すのは、同ホテル料飲・調理部長で、割烹六つ葵料理長の津田忠昭さん。
「大振りな身に眠る甘味やうま味を存分に引き出す調理法を工夫しました」と話す津田さんによると、昨年夏の会席料理には、ごまとパン粉を衣にした「熊野海老胡麻(ごま)パン粉揚げ」にアレンジ。さらに、冬には表面だけ火が通るように“湯あらい”して刺し身に熊野海老を。大きな頭はみそも味わえるようにと湯がいてあぶったものが添えられました。
「“身が厚くて食べ応えがあった”“おいしかった”と、どちらの料理も、評判は上々。地産地消にこだわる料理を提供している中で、来年は、季節の野菜と合わせたグラタンなど、その他の地元の食材との組み合わせを楽しめる料理を考えたい」と、創作意欲を語っています。
問い合わせ | 割烹六つ葵 |
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電話 | 073(436)1235 |
来年以降は
一般にも販売
一般の消費者に向けては、来年以降、和歌山市内のスーパーに販路を拡大。フーズファイル自社でも、クール便で小売りの宅配を受け付ける予定です(開始時期は問い合わせを)。 また、同社は和歌山県の優良県産品推奨制度「プレミア和歌山」に、熊野海老を申請中です。