和歌山の平安時代を旅する
光る紀伊へ

 平安時代ブーム。かつての皇族や貴族は、こぞって高野山や熊野三山を参詣し、聖地とその旅路にさまざまな文化が花開きました。2024年は世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の登録20周年。平安を感じられる4つのスポットを歴史とともに紹介します。

華やかな宮廷社会と末法思想
平和な世と救済を願い祈る人々

 平安時代は、桓武天皇が都を平安京(現京都市)に移した794年から、源頼朝が各地に守護・地頭を設ける1185年までの約400年間をいいます。これまでの天皇に権力を集中させた政治が一転。貴族の力が強まり、自分の子孫を天皇にすることで勢力を伸ばすなど、貴族、武家へと国の政治体制が大きく移り変わった時代でした。

外交では804年、桓武天皇が遣唐使を派遣。同行者の一人に、密教を持ち帰った真言宗の開祖・空海がいました。密教の教えは、厳しい修行の果てに悟りの境地を目指す、というもの。空海は密教の修行に集中できる地を探し求め、高野山にたどりつきます。そこで、大日如来を中心に、諸仏が集まる世界観を視覚的に表した曼荼羅(まんだら)を立体化し、その教えを説きました。

藤原氏を中心にした、みやびで華やかな宮廷社会。文化の世界も盛んで、和歌が文化的教養・政治的儀礼やコミュニケーションの手段として流行しました。一方、中期以降は武家が台頭し、治安が乱れ出します。また、疫病や自然災害といった天災が頻繁に起こり、人々の不安が増長。末法思想の「末法の世」が強く意識されるようになります。

末法思想とは、仏教の歴史観の一つで、釈迦(しゃか)が入滅して2000年後の1052(永承7)年、仏法が衰え、世の中が混乱するという考えのこと。和歌山県立博物館の学芸員・島田和さん(写真)は、「貴族たちは仏教の教えを残すことに力を注ぎます。そして、人々を現世の苦しみから救う阿弥陀仏を信じ、念仏を唱えれば極楽浄土に往生できると説く、浄土信仰の教えが広がっていきます」と説明します。

和歌山県立博物館学芸員 島田和さん

和歌山県立博物館学芸員 島田和さんと「さわれるレプリカ」

また、貴族たちは遠方の寺社仏閣へ出掛け、経典を収めた筒(経筒)を埋蔵・奉納したり、寺院を建立したり、多くの善行を積みます。島田さんは「熊野三山をつなぐ熊野古道には、参詣者を守護する神々をまつる「王子社」がたくさんあります。末法の世、参拝者たちは、道しるべともなった王子社に手を合わせることで、険しい旅路を乗り越えていったと想像できます。平和な世と救済を祈り、多くの人が歩く中で開かれていった信仰の道といえるのです」と話します。

今回は、高野山、熊野古道、熊野速玉大社、玉津島神社を取り上げ、学芸員や研究者に語ってもらいます。現在につながる平安時代の文化を感じてください。

貴族があこがれた天空の宗教都市
壇上伽藍(だんじょうがらん) 高野町

御影堂(みえどう)(左)、根本大塔(中)など諸堂が建ち並ぶ壇上伽藍。三鈷の松(右)の葉を拾うと幸せになるといわれています
写真提供=総本山金剛峯寺

 弘法大師空海が唐(現中国)から帰国の際、密教を伝え広めるための拠点を探そうと、日本の方に向けて、仏具「三鈷杵(さんこしょ)」を投げます。日本へ戻り、高野山を見いだした空海は、松の枝にその三鈷杵を見付け感激しました。これが壇上伽藍の「三鈷の松」の伝説です。
高野山を修業の場とした空海は、塔や金堂、御社などの建物が並ぶ伽藍建設を計画。大日如来を中心に、悟りの世界を表す密教の曼荼羅を山全体で表現します。空海が持ち帰った中国の教えは当時の日本にとって最新のもの。平安貴族、藤原道長の日記『御堂関白記』も、実は空海が唐からもたらした暦(こよみ)を用いています。大陸への関心は平安時代を通して続きました。

電話番号 0736(56)2011
住所 総本山金剛峯寺 高野町高野山152
営業時間 根本大塔・金堂拝観は午前8時半~午後5時(受け付けは4時半まで)
※根本大塔、金堂は中学生以上、拝観料500円
定休日 無休(行事により拝観不可の場合あり) 
HP https://www.koyasan.or.jp/
駐車場 あり
高野山デジタルミュージアム

VRシアター

VRコンテンツ『高野山 壇上伽藍―地上の曼荼羅―』 製作協力:高野山真言宗 総本山金剛峯寺 製作著作:TOPPAN株式会社ⒸTOPPAN INC.

VRコンテンツ『高野山 壇上伽藍―地上の曼荼羅―』
製作協力:高野山真言宗 総本山金剛峯寺
製作著作:TOPPAN株式会社ⒸTOPPAN INC.

「高野山 壇上伽藍―地上の曼荼羅―」を上演。ナビゲーターのコントローラー操作に合わせ、空間を自由に移動。通常は未公開の西塔の内部や、屋根を取り外して天井から鑑賞するなど、VRならではの臨場感が楽しめます。巡る前に見るのがおすすめ。

電話番号 0736(26)8571
住所 高野町高野山360
営業時間 午前10時~午後5時(高野山cafe雫のOS4時)
定休日 無休(冬季不定休) 
HP https://www.dmckoyasan.com/digitalmuseum/
備考 ※入館無料(VRシアター鑑賞は当日高校生以上1000円、中学生以下500円、毎時15分から上映)

高野山cafe 雫

「自分で作るこうやくん最中」(680円)と「ドリップコーヒー」(550円)

「自分で作るこうやくん最中」(680円)と「ドリップコーヒー」(550円)

 猿田彦珈琲(コーヒー)プロデュースのオリジナルブレンドコーヒーや、高野山内の老舗和菓子店「さざ波」のあんなどを使用した最中(もなか)の他、精進カレーなどが味わえます。

平安貴族の世界へタイムスリップ

心を清めて熊野三山へと向かう道
熊野古道 田辺市中辺路町

四季の移ろいが感じられる棚田

四季の移ろいが感じられる棚田
写真提供=中辺路商工会

熊野古道沿いにある高原熊野神社

熊野古道沿いにある高原熊野神社
写真提供=中辺路商工会

熊野参詣道には、「中辺路」「大辺路」「小辺路」などがあり、それらを結ぶように「九十九王子」が点在しています。王子は、熊野の神の分身とされ、参詣者の祈りの場でした。そこでは経典を収めた平安時代の経筒が発見されています。王子社の近くには川や海があることが多く、身を清め、祈りを繰り返しながら、心を整え、熊野三山へ向かったと考えられます。

中でも、多くの参拝者が歩いた中辺路は、平安・鎌倉時代の皇族・貴族の参詣道でした。特に滝尻王子からの行程は傾斜が厳しく、途中には修行を行った場所が今も残っています。山道を越えた所が高原の集落で、目の前に棚田が広がります。ここは旅籠(はたご)があり、旅人が足を休めた場所でもありました。王子社には入っていませんが、クスノキに囲まれた高原熊野神社もぜひ訪れてください。

和歌山県立紀伊風土記の丘 学芸員 蘇理剛志さん

和歌山県立紀伊風土記の丘
学芸員 蘇理剛志さん

滝尻茶屋 むすひ【29日(祝)オープン!】

「抹茶ラテとミニどらやき」(650円)

「抹茶ラテとミニどらやき」(650円)

 ふんわり焼き上げた生地に、あんを挟んだ「ミニどらやき」。シンプルだからこそ、素材の味が引き立っています。上質な抹茶を使用した「抹茶ラテ」でほっと一息。他、「おむすび」もあり。

電話番号 072(768)9816
住所 田辺市中辺路町栗栖川1226-1
営業時間 午前8時半~午後2時
定休日 木・金・土曜
Instagram @takijirichaya_musuhi

奉納された神宝から当時の文化を知る
熊野速玉大社 新宮市

熊野三神をはじめ、12柱の神がまつられています

熊野三神をはじめ、12柱の神がまつられています
写真提供=熊野速玉大社

国の天然記念物の樹齢約1000年のナギの木

国の天然記念物の樹齢約1000年のナギの木

 熊野三山の一つ、熊野速玉大社。境内にある神宝館には、南北朝時代・明徳元(1390)年に天皇や上皇、将軍などが平和の世と救済を願って奉納した「古神宝」と呼ばれる調度品が所蔵されています。ヒノキの薄板に花鳥風月と金銀箔(ぱく)をあしらった扇や、金銀の化粧道具を納めた蒔絵(まきえ)の手箱、高貴な人が着る色を用いた装束などは、当時の人々の祈りとともに、平安時代以来の貴族文化を伝えてくれます。

大社の神門前にそびえ立つのは、平安時代に平重盛が手植えしたと伝わるナギの木。縁結びや海上安全のお守りとして知られたナギは、古神宝の中にも描かれています。近くには、巨岩「ゴトビキ岩」を山上にいただく神倉神社があります。訪れた際には立ち寄って下さいね。

和歌山県立博物館学芸員 袴田舞さん

和歌山県立博物館学芸員 袴田舞さん

左:彩絵檜扇(さいえひおうぎ)

右:装束
写真提供=熊野速玉大社

電話番号 0735(22)2533 熊野速玉大社
住所 新宮市新宮1
営業時間 日の出~午後5時
※熊野神宝館は午前9時〜午後4時、拝観料500円
定休日 無休
HP https://kumanohayatama.jp/
駐車場 あり

柿の葉寿司と蕎麦の店 柿乃肴

柿の葉寿司と蕎麦の店 柿乃肴「手打ち蕎麦」(1200円)

「手打ち蕎麦」(1200円)

 ランチ時は「手打ち蕎麦」を。数種の粉を使った二八蕎麦は、細切りでのど越しなめらか。小鉢2品と柿の葉寿司(サバとサケ)がセットです。ぜんざいやバスクチーズケーキなどのスイーツもおすすめ。

電話番号 0735(22)8000
住所 新宮市上本町1-1-8
営業時間 午前9時~午後4時
定休日 月~水曜
※営業は毎月1日~15日。土・日曜はそばランチ、木・金曜は日替わりランチ
Instagram @kakinoate

藤原公任(きんとう)も訪れた和歌の神
玉津島神社 和歌山市

玉津島神社

神社周辺は、当時の面影が残っています

玉津島神社本殿

本殿

 玉津島神社は、和歌三神の一柱・衣通姫尊(そとおりひめのみこと)がまつられています。奈良時代、聖武天皇の行幸にお供した歌人・山部赤人が和歌浦(現)で詠んだ歌が『万葉集』に収められたこともあり、宮中の人にとってあこがれの地。平安時代には貴族や歌人が参詣し、和歌の奉納が行われていました。

歌人として名高い藤原公任も、若い頃、粉河寺への旅の途中、玉津島に詣でました。そして、そのとき見た和歌浦の景観の美しさを自身の歌集『公任集』に記しています。不穏な社会情勢を背景に、現世利益を求める観音信仰が広がり、より遠い地へ参詣するほど、ご利益があると信じられた時代。人々にとって長い旅の間で見た和歌浦の景色は“いとをかし”だったといえるでしょう。

近畿大学和歌山附属 高等学校・中学校 図書館長 金田圭弘さん

近畿大学和歌山附属 高等学校・中学校
図書館長
金田圭弘さん (和歌山県の平安文学を研究)

電話番号 073(444)0472 玉津島神社
住所 和歌山市和歌浦中3-4-26
営業時間 午前9時~午後4時
定休日 無休
HP https://tamatsushimajinja.jp/
駐車場 あり

春栄堂

春栄堂

「シューパリ(上)」(194円)と「抹茶パリ(下)」(205円)

 創業約100年、明光商店街にある老舗菓子店。パリパリのシュー皮に、カスタードクリームがたっぷり詰まっています。あっさりとしたクリームとカラメリゼされたアーモンドのカリカリ食感が相まって何個でも食べられるおいしさ。

電話番号 073(444)0571
住所 和歌山市和歌浦中1-5-13
営業時間 午前8時~午後6時
定休日 水・日曜
駐車場 あり

フロント特集

 

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

おすすめ記事

  1.  和歌山県の温泉といえば、白浜温泉、川湯温泉などをイメージしがち…。いやいや、和歌山市内にも穴場の名…
  2. リビング和歌山11月16日号「デジタル時代だからこそ 手書きに思いを込めて」
     年末といえば、クリスマスカードに年賀状、今年は手書きで思いを伝えませんか。若い世代に注目を集める…
  3. “遺言”と聞くと、“老後になってから”と考える人が多いのでは。しかし、遺言は生前対策の一つとして、…
  4. リビング和歌山11月2日号「夜空を鮮やかに彩る伝統美県下唯一の花火製造会社」
     和歌山県のものづくり企業にスポットを当てたシリーズ、「すごいぞ! 和歌山の底力」。今回は、花火作…
  5. リビング和歌山10月26日号「和歌山県、旬の魚を訪ねて漁港巡り ふんわり美味な「わかしらす」」
     「さかなをたべよう!」キャンペーンを今年展開している全国のリビング新聞ネットワーク。今号は、和歌…
リビングカルチャー倶楽部
夢いっぱい保育園

お知らせ

  1. 2024/11/21

    2024年11月23日号
  2. 2024/11/14

    2024年11月16日号
  3. 2024/11/7

    2024年11月9日号
  4. 2024/10/31

    2024年11月2日号
  5. 2024/10/24

    2024年10月26日号
一覧

アーカイブ一覧

ページ上部へ戻る