高齢社会の日本では、認知症は誰もがなりうる病気。しかし、予防法や治療法がまだ確立されていません。今年1月、今後の治療の可能性を秘めたアルツハイマー病の新薬ができ、国に承認を求める申請が行われました。今号は認知症と新薬について取り上げます。
認知症患者の大半占めるアルツハイマー
認知症は、脳の神経細胞が減少、破壊されたりすることで起こる病気。代表的なものとして、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、前頭側頭用変性症、レビー小体型認知症が挙げられます。家族など身近な人で“もしかして? ”と思っても判断に悩み、どうすればいいのか迷ってしまうことも少なくありません。
「そんなときは、認知症外来を行っている医療機関を受診してください」と話すのは、認知症の人と家族の会和歌山支部の設立者で、今福診療所理事長の田中良示医師(写真)。医療機関では、MRI(核磁気共鳴画像診断)やPET(陽電子放出断層撮影法)で脳の画像を撮り、神経細胞に異常がないかどうかを検査します。しかし、認知症と診断されない場合もあり、「例えば、認知症の一種・ADHD(注意欠如・多動症)など精神疾患の場合、画像検査では異常が見つかりません」と説明。
認知症の中でも大半を占めるのがアルツハイマー型。これは、脳の神経細胞に水に溶けない特定の構造を持つタンパク質「アミロイドβ」がたまり、神経細胞に沈着、破壊するとされています。田中医師は「神経細胞の7割程度が破壊されると、運動能力や認知機能が落ちるなどの症状が現れるとされています。早い人は40代でも発症。一度破壊された細胞は再生しません」と。その一方で、「もちろんアルツハイマーにならない人も多くいます。その人たちは、要因となるアミロイドβを溶かす酵素“モノクローナル抗体”を体内に持っています」と話します。
進行を抑える新薬、軽度の人が対象
現在、アルツハイマー型の治療に最も使われている薬が「ドネペジル」。田中医師は、「脳の神経細胞が破壊されるのを止めることはできませんが、破壊されていない神経細胞を活気づけることができる薬です。しかし、副作用でいらいらや食欲不振、不眠症などが現れる人もいます」と伝えます。
今年1月、国に承認の申請が行われたのが、国内の製薬会社エーザイと、アメリカのバイオ企業バイオジェンが共同開発した薬「レカネマブ」。人工的に作られたモノクローナル抗体が、脳内にたまったアミロイドβを溶かし、取り除くとされています。「新薬は病気を治すというより、進行を抑えるための薬。PETで検査し、アミロイドβの蓄積が認められるが、まだ症状として現れていない軽度、または、軽度認知障害の人が対象です」と説明します。承認の有無など、今後の動きが気になるところです。
認知症の人と家族の会和歌山支部は、毎月第2日曜、「ほっと生活館しんぼり」(和歌山市新堀東)で、田中医師による相談と介護家族の交流会「つどい」を開いています。3月は12日(日)午前10時半~正午。相談は事前に連絡を。詳しくは電話で。
認知症の人と家族の会和歌山支部
電話 | 073(432)7660 |
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