脳の神経細胞のつながりから解き明かす
体の司令塔と知られつつ、解明されていないことが多い“脳”。医療分野では、脳の神経細胞のネットワークを調べることで、難病といわれる病気の原因や治療法を見いだす研究が進んでいます。
今年初め、和歌山県立医科大学医学部が、脳の慢性疾患「てんかん」の重症度に関連する指標の数値化に、世界で初めて成功したと発表。脳の状態を数値化することで、投薬や手術の適応・効果判断など、患者一人一人の症状に合わせた治療に新たな道をつけました。その論文は、英国科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載。従来の診断や検査情報だけでは判断しきれない難治性部分てんかん患者の治療に役立つと期待されています。
発表を耳にし、「患者や家族にとって、また一つ光が見えてきました」と表情を緩ませるのは、日本てんかん協会和歌山県支部の土橋登世子さん。てんかんとは、脳の神経細胞の一部が過剰に反応して、一時的にしびれやけいれん、意識消失などさまざま症状が起こる疾患で、100人に1人近くが発症するといわれています。しかし、「てんかん」という名を聞いたことはあっても、症状についてはまだ十分理解が深まっていないのが現実。土橋さんは「合う薬がなかなか見つからない人もいます。“発作が起きたら…”など、不安を抱えて過ごしている人は少なくありません」と伝えます。
今回の発表は、同大学医学部の生理学第1講座・金桶吉起教授と脳神経外科学講座・中井康雄助教、中尾直之教授らが約10年間かけて研究したもの。脳を388領域に分け、MRI(磁気共鳴画像)を使って安静時の血液の流れから、他の領域とのつながりの強さを測定。18歳~80代の健康な人582人のデータから、脳内のネットワーク構造を作成して基準となる数値を導き出し、難治性部分てんかん患者25人の数値と照らし合わせました。
結果、健康な人に比べて、難治性部分てんかん患者は、つながりの強さを示す数値が基準より高くなっている領域が多いことを発見。てんかんを患っている期間が長い患者や薬で抑えるのが難しい患者ほど、基準値を超える領域が多いことが分かり、重症度との関連性が解き明かされました。
金桶教授は「てんかんの人の脳は一人一人違うので、それぞれの人に合った治療をするために今回の研究が役に立つと思います。それによって重症化を防げる可能性もあります」と説明。その上で、「今後さらに研究が進めば、他の脳の病気にも応用できるようになるでしょう」と話しています。
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