すごいぞ! 和歌山の底力
高野口で誕生のエコファー
世界のブランドが称賛
- 2022/12/15
- フロント特集
和歌山が誇る“ものづくり”の力を紹介するシリーズ「すごいぞ!和歌山の底力」。5回目となる今週号は、パイル織物業が盛んな橋本市高野口町の「岡田織物」を訪ねます。衣服の表地に使うエコファーを開発し、世界の著名なファッションブランドと取引を行っています。伝統の技と革新の技術力を結集した同社の“すごさ”とは一体?
裏地の時代はやがて終わる…
ファッションに注目した先見の明
橋本市高野口町(旧・伊都郡高野口町)。その名の通り、高野山への参詣口として栄えた集落です。江戸時代には、紀州藩によって綿花栽培が推奨されたこともあり、耕地が少ないこの地域の副業として織物が盛んになりました。明治に入ると、一度織り上げた生地をひも状に裁断して再び織り上げる「再織」が創案され、大正初期には技術研究が進んで「パイル織物」へと発展します。
岡田織物の創業は昭和初期の1932年。「和装の羽織物(ショール)を主に製造していたようです」と話すのは、創業者の孫にあたり、3代目として会社を切り盛りする社長の岡田次弘さん。
やがて時代は和装から洋装へ転換。伸縮性に富み、摩擦に強く、保湿性も高い高野口町のパイル織物の需要は高まります。最盛期となる1980年代前半には、400社近い織物メーカーが高野口町内にひしめき合い、全体で約660億円、関連事業所を含めると、約1千億円の売上高があったといいます。
「当時までは防寒着の裏地に使う需要が多かったのですが、空調が整った建物が多くなるにつれ、防寒の必要性が次第に減ってきました。また寒い国への輸出が、急速に進んだ円高によって利益がダウン、大きな痛手を被ったのです」と当時を振り返ります。大学を出て家業を継ぎ、下積みから学んでいた岡田さんでしたが、同社の売り上げも右肩下がり。結果、岡田織物を整理(倒産)するという判断に。1988年のことでした。
やがて周囲から「再建してほしい」との声に後押しされ、1991年、岡田さんは会社を新たに設立します。以前は、衣料からインテリアまで手掛けていました。再建にあたり、ショールを主に作っていた祖父の時代、つまり原点に戻ることを決意し、レディース商品の製造に絞ります。
岡田さんの脳裏には、ある思いがありました。「ボアと呼ばれていた防寒用の裏地ではなく、毛皮の代用として表地に使えるファー(毛)づくりに力を入れるべき、と。防寒という機能性から、表のファッション重視へシフトチェンジです」
表地づくりを強化するにあたり、名前もボアから「フェイクファー」に。
高品質が世界に認められ
最先端ファッションに採用
本物と見間違う風合いのファー
「フェイク」から「エコ」へ進化
町内の同業者とともに「フェイクファー」という名前の浸透を図る行動を開始した若き岡田さん。そんな駆け出しのころ、ある取引先から、「とにかくいいものを持ってこい」と投げかけられます。「何回出しても『こんなんじゃアカン』と却下され、『何がいいんか分からんのやったら、ヨーロッパでも連れったるわ』って。それから世界を飛び回り、いろんな工場を見学。20年かかって『やっと出来たな』と褒められましたわ(笑)」
海外で見識を広めた岡田さんは、世界で自社製品を認めてもらおうと、多いときでは年間500ほどのサンプル生地を必死で作ったそうです。2002年にニューヨークの国際生地見本市に参加し、そしてパリで開催される高級生地見本市「プルミエール・ビジョン」にも出展します。
「当初は売れたのですが、やがて頭打ちに。原因を分析したら、どこか背伸びしていたんですよね。これじゃダメだと、それまで培ってきた国内向けの商品を海外に出したのです。自然体を大事にしたら、売れ始めて」と岡田さん。「社内に在庫があり、それをベースに多様な要望に素早く対応できたからでしょう。ニーズに100%応えられる自信がある、その信念だけでやっていました」と力強く話します。
2010年代に入り、岡田さんは次世代を見据えた戦略を立てます。「見栄えや肌触りを良くするために、染料や柔軟剤の度を超えた使用は逆に品質が悪化し、環境にも悪影響を及ぼします。環境にも配慮しながら、いいものを作るべき」。これが「エコファー」の名称の始まりになり、「ジャパンエコファー」の商標登録を2013年に行いました。
ある日、ルイ・ヴィトンのアーティスティック・ディレクター、マーク・ジェイコブス本人から会社に電話が入りました。「商品がほしい」と。
オール和歌山の技術力
ぜひともその目で確かめて
この1本の電話を契機に、岡田さんの人生が激変。その品質が認められ、世界の有名ブランドから次々と声がかかったのです。2017年にグッチがリアルファー(動物毛皮)の不使用を宣言し、エコファーの需要はさらに高まります。
三菱ケミカルと共同で、新素材「プロパール」を開発。特殊加工で毛先を割って根本と毛先の太さを変化させ、自然な風合いが実現しました。立体感があって滑らかな手触りは、リアルを超越しているとの高評価です。
岡田織物は家族を含めた従業員数4人。完成に至る40工程は町内の各社で分業しています。長年培われてきた高野口の技術力のたまもの。また、島精機製作所(和歌山市)から導入した裁断機で、精細なカットが可能に。まさにオール和歌山の技術力が結集!
さて、12月20日(火)までの期間限定で、近鉄百貨店和歌山店1階で岡田織物の商品が展示・販売されます。昨年初出品し、用意した在庫が底をつくほどの盛況だったとか。「和歌山の会社やてね、と声をかけてくれるお客さんも多く、地元の人たちの温かさを再認識しました」と岡田さん。下記のショールームで商品を展示していますが、世界に誇る同社の商品を和歌山市で実感できるチャンス。エコファーのすごさを、この機会に。
問い合わせ | 岡田織物 |
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代表者 | 代表取締役 岡田次弘 |
設立 | 1991年 |
本社 | 橋本市高野口町大野757 |
電話番号 | 0736(42)2864 |
ホームページ | https://okadatx.shop-pro.jp/ |