読み手は黒子に徹し、
聞き手にお話を楽しんでもらう
「ちっとも静かなお話じゃないわ!」。『しずかなおはなし』(出版=福音館書店、文/サムイル・マルシャーク、絵/ウラジミル・レーベデフ、訳/うちだりさこ)を読み終えた私にAさんが言い放ちました。20年以上前、家庭文庫で読み聞かせをしていたときのことです。ムッとした私を気にする様子もなく、Aさんが『しずかなおはなし』を読み始めました。
「ちいさなこえでよむおはなし。そっとそっとそっと…」指を1本立て、シーッのポーズをした後、声をひそめて読み進めます。「ちいさなあしおとがとぷとぷとぷ」。耳の奥にまで届くような心地よい声とリズム、ページをめくる間の絶妙なこと。読み終えても誰も声を発しません。お話の余韻にひたっていました。
秋の深まった森。獣や鳥たちがぐっすり眠る時刻に散歩をするハリネズミのお父さんとお母さんと坊や。オオカミに見つかり、身を守るために丸くなってハリを逆立てます。静かな森で繰り広げられるハリネズミの親子と2匹のオオカミの攻防。やがてオオカミは降参しハリネズミの親子は森の家へ帰り着きます。
このストーリーを、私はドラマ仕立てで演じるように読んでしまったのです。今のように読み聞かせという言葉がまだ知られていないころから、読み聞かせをしていました。絵本との付き合いが長い分、大好きな分、読むことにうぬぼれがあったようです。
反省して早速、絵本専門店の「朗読講座」に通うことにしました。テキストは絵本で、講師は元アナウンサー。そこで習ったのは「淡々とした読み聞かせ」でした。読み手がおもしろおかしく読むのではなく、聞き手が想像し、楽しむことができる読み聞かせです。
そして、読後に残るのは作品の感想でなければいけない。読み方が「じょうずだった」と言われたら失敗だと思えと。
サムイル・マルシャークは詩人でもあり、『森は生きている』の作者です。
名前 | なりきよ ようこ |
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プロフィル | 絵本編集者として勤務後、渡欧。帰国後フリーに。 保育所や小学校で読み聞かせを25年以上続けている。絵本creation(編集プロダクション)代表 |
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