なんでもつくれるなら
おとうちゃんをつくってえな
『おかあちゃんが つくったる』(出版=講談社、長谷川義史/作・絵)は長谷川義史さんの子どものころのお話を絵本化したもので、『てんごくのおとうちゃん』に続く作品です。おかしいけれどちょっぴり悲しく、心にしみわたります。
小学校1年生のときにお父さんを病気で亡くした主人公のぼくとお姉ちゃんは、シングルマザーであるお母さんの手で育てられ、お母さんは柔道着や剣道着をミシンで縫う仕事で生計を立てています。
だから「おかあちゃんがつくったる」の一言で、ジーパンもシャツもカバンも、自己流で作ってしまいます。剣道のはかまの布で作ったジーパンや、友達が「おっさんみたい」と笑うワイシャツ風の体操服、「よしお(よしふみではなく)」と名前が入れられたカバンはみんなのものとは微妙に違い、「ジーパンのようでジーパンでな〜いベンベン」とからかわれます。
父親参観のお知らせを見せたぼくにお母さんは「行ったる」と言います。恥ずかしいから嫌だと言うのに「遠慮せんでもいい」と譲りません。思わず、「みんなと同じおとうちゃんがええ。おとうちゃんつくってえな。なんでもつくれるゆうたやろ」と言ってしまうのです。
読み聞かせをしている小学校でこのページを読んだとき、3年生の子どもたちが困ったような顔をしてうつむきました。高齢者施設で読んだときには、おじいちゃんが目を真っ赤にしておられました。
断ったのに参観日にやって来たお母さんはメンズ仕立てのスーツを着て、他のお父さんたちに交じって立っています。そしてぼくに言うのです、「ミシンでつくってん」
裏表紙に描かれたお弁当の豪華なこと。サンドイッチもおにぎりも入っています。「ぼくはこんな豪華なのではなく、みんなと一緒が良かった」と講演会で長谷川さんはこぼしておられましたが、「一人親で肩身の狭い思いをしないように」とのお母さんの精一杯の思いがこもったお弁当です。「母の日」にふさわしい作品だと思います。
名前 | なりきよ ようこ |
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プロフィル | 絵本編集者として勤務後、渡欧。帰国後フリーに。 保育所や小学校で読み聞かせを25年以上続けている。絵本creation(編集プロダクション)代表 |
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