あの人気番組で、水を抜いて生物と遺物の調査を実施
和歌山城のお掘にイン!

あの人気番組で、水を抜いて生物と遺物の調査を実施和歌山城のお掘にイン!

 普段、何気なく目にする和歌山城のお堀。今秋、大胆にも水を抜き、生物や遺物の発見と調査を行うテレビ番組のロケが行われました。ベールに包まれていたお堀の実態が、明らかに!?

ボランティア約120人が
タレントと一緒にお堀で格闘!

 和歌山城のお堀(北堀・市役所側)でロケが行われたのは、テレビ東京系列で不定期放送されている「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦」。番組MCを田村淳(ロンドンブーツ1号2号)と田中直樹(ココリコ)が務め、レギュラーの大家志津香(元AKB48)のほか、毎回ゲストが出演。水を抜いた池に出演者が入り、生き物を捕獲。底に棲(す)む生物や遺物を、専門家とともに調査・検証する番組です。

昨年1月、和歌山城に関するシンポジウムが開かれた際、参加者の1人で当時中学生の三林幸之助さんから、「お堀の水を抜いて調査をすれば、新たな発見があるかも」と番組への応募を提案。会場は万雷の拍手に包まれ、パネリストの尾花正啓(まさひろ)和歌山市長は招致を前向きに回答。和歌山市は、北堀に面した北辺櫓(やぐら)群の復元を計画中で、招致に向けて動き出します。テレビ東京側と協議を重ね、9月5日に西の丸広場の南側に位置する御橋廊下(おはしろうか)近辺を中心に、一の橋までの北堀でロケが実施されました。

真夏のような太陽が照りつける当日、西の丸広場に集まった約120人のボランティアと尾花市長。胴長靴に身を包んでスタンバイし、すでに汗だく。

レギュラーメンバーのほか、ゲストとして“大スター”郷ひろみ、“さゆりんご”こと元乃木坂46の松村沙友理が登場。オープニングシーンを市長とともに撮影し、お堀へ向かいます。「何が出てくるか分からないから気をつけて」「怖い!」などと話していましたが、水に入ると、巨大魚が飛び跳ね、一同パニックに…。

尾花市長とボランティアのみなさん

謎が多い和歌山城だから面白い!

お宝や歴史的遺物は存在する?
和歌山城の歴史から考察

「和歌山市街図」のうち江戸時代後期の和歌山城周辺を描いた絵図
(和歌山城整備企画課蔵)

 「石垣の基底部がどのようになっているのか、これまで実際に見ることが不可能でしたが、今回水を抜いたことで確認できたのは収穫」と話すのは、和歌山城整備企画課史跡整備班学芸員の伊津見孝明さん。

伊津見孝明さん

伊津見孝明さん

番組では、ロケに備え8月28日からお堀に土のうを設置し、一の橋から西の丸、御橋廊下までの北堀約9400平方メートルの水を抜きました。約1・5メートルあった水位は膝ほどの高さになり、伊津見さんと同班学芸員の大山僚介さんはロケの前日・当日・翌日と、お堀に下り、歩いて石垣の調査を行いました。

さて、和歌山城お堀の歴史について、少し記述しましょう(和歌山城整備企画課提供資料より)。 1585(天正13)年、羽柴(豊臣)秀吉が紀州を平定。弟の秀長(NHK大河ドラマ2026年放送「豊臣兄弟」の主人公)に命じて、岡山(虎伏山)に和歌山城が築城されます。城主は桑山氏、浅野氏を経て、1619(元和5)年に徳川頼宣(家康の十男)が入国。55万5千石を拝領し、紀州徳川家の居城に。

発掘調査によると、浅野氏が外堀を掘り、和歌山城の内堀は紀の川や和歌川とつながります。徳川頼宣は城の増改築にとりかかり、浅野期の堀の一部を埋め立てて二の丸を拡大し、砂の丸と南の丸を造成しました。

江戸後期に編さんされた「紀伊国名所図会」には、北堀と東堀(裁判所側)の一部を描いた絵図が収録。当時の堀の幅は、北堀が約41メートル、東堀約138メートル。東堀幅は、現在もほぼ一緒です。

番組では冒頭、お宝が埋まっているかも! と、あおっていました。1837(天保8)年に、岡口門付近の金蔵から金3千両(現在の3億円相当)が盗まれたことが「類集略記」に記録されています。犯人が逃亡の際に落としたのか、後に東堀から447両を発見。残りが不明なので、出演者はお宝を見つけようと試みましたが、そもそも東堀の話…。

1869(明治2)年の版籍奉還で、和歌山城は国の所有になり、管理は陸軍省(兵部省)が行うようになります。番組では「二の丸は取り壊され、建物の一部はお堀に落とされた」と紹介され、歴史的遺物発見に期待を寄せていました。ただし伊津見さんによると「解体の際に一部破片はお堀に落ちたかもしれませんが、利用価値のあるものは他所へ売り払われたと考えられます」とのこと。バラエティー番組らしい演出でしたね。

「水没していた石垣の刻印を数多く見ることができました。また、石垣の基底部には少し前にずらして石材が据えられていることが分かり、崩れないための強化が成された可能性のある発見もでき、今後の調査活動に生かされそう」と、伊津見さんは話します。

市民パワーの盛り上がりが
街の活性化につながる

飛び跳ねていた巨大魚の正体は「トド(ボラ)」で、25匹を保護。特定外来生物「ブルーギル」の生息も確認されました。また、ヘドロの中からは、捨てられた自転車や家電も。このままだと和歌山城のお堀は本当にヤバイのか?

同課企画管理班の柳雄介さんは、「特定外来種の捕獲数はさほど多くなく、番組の放送ほど危機的な状態だとは思いませんでした。テナガエビが捕獲されるなど堀内の多種にわたる生物を見て、まだまだ自然があふれているようです」と話します。「ゴミが思ったほど出てこなかった」とも。

「ボランティアは平日の昼間にも関わらず297人の応募があり、100人の方が抽選で選ばれました。大半は和歌山県内からで、地元ボランティアのエネルギーはすごかったですね。童心に返って一緒に盛り上げようという感じで」と振り返ります。「今回のお堀探索に限らず、市民のパワーを結集することで、街の活性化につながれば」と、今後の期待感を抱いていました。

二の丸西側の平櫓にあったとされる軒丸瓦(のきまるがわら)。ほぼ損傷なく発見

二の丸物見櫓台石垣基底部。基礎を強化するため、あえて石材を少し前にずらして据えているものと考えられます。団子のような刻印も

学芸員2人(伊津見さん、大山さん)で行った石垣調査

二の丸物見櫓台石垣の刻印の一部

こちらは二の丸北側石垣調査で確認できた刻印の一部

ともに白っぽく色が変わっている部分が普段水没しているため、今回水を抜いたことで、たくさんの刻印を初めて確認

ネットもテレ東

「緊急SOS! 池の水をぜんぶ抜く大作戦」を見逃した! という人は、「ネットもテレ東」にアクセスすると、無料で視聴可能。アプリ「ネットもテレ東」でも配信されています

 

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