−第6回−文化財 仏像のよこがお「所蔵者不明の盗難被害仏像」
- 2020/3/26
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- 文化財 仏像のよこがお
所蔵者不明の盗難被害仏像
全国で仏像の盗難被害が発生しています。犯人は、普段から人のいない無住寺院を特に狙っています。オークションサイトの成長による売買方法の多様化・容易化と、骨董(こっとう)品ブームによる需要増加が相まって、不法に盗品を取り扱う古物商やブローカーも後を絶ちません。
和歌山県では2010年から翌年にかけて、60カ所の寺院で172体の仏像が盗まれる空前の被害が発生しました。犯人が逮捕され、換金先の古物商から転売前の仏像が警察によって回収されたものの、所蔵者が分からず返せない仏像が多数発生してしまいました。被害届は出したものの、写真が一枚もなく、どんな仏像があったのかも分からない地域が多く見られました。現在、それらの盗難被害仏像は県立博物館で保管し、所蔵者を捜しています。
今回紹介する阿弥陀如来坐像(ざぞう)もその一体です。像高55・8㌢、豪華な台座や光背も含めると約130㌢に達する大きさです。鋭いまなざしや張りのある肉身の表現など、平安時代中期の作風を示す仏像です。千年も前に作られ、今日まで伝わってきたにも関わらず、地域とのつながりを断ち切られ、その一切の歴史を奪われてしまった悲劇の仏像なのです。
伝来を知るための手掛かりは台座内側の銘文です。1787(天明7)年、「野上下津野」出身の真性(しんしょう)という僧が、台座と光背を補ったことが記されています。野上下津野は現在の海南市下津野ですが、同地域では仏像の盗難被害の届けはありません。周辺地域も含めて、この仏像について何かお気付きのことがありましたら、ぜひ博物館に知らせてください。
※和歌山県立博物館で4月19日(日)まで展示中
(和歌山県立博物館主任学芸員・大河内智之)
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