−第50回−文化財 仏像のよこがお「高野山の面打・真徳院」

 高野山鎮守、丹生都比売神社(天野社)所領の六箇七郷の一つに古佐布(こさわ)郷があります。九度山町下古沢・中古沢・上古沢・笠木がその範囲で、上古沢の古沢厳島神社を氏神とし、今も住民が結束して、毎年傘鉾(ほこ)神事や鬼の舞、夷(えびす)のお渡りが催行されています。

古沢厳島神社には、桃山時代の貴重な能装束(重要文化財)が多数伝わります。能装束に付属する『古佐布色衆之道具の日記』という史料によれば、装束や道具は1610(慶長15)年ごろに整えられたとみられます。

このころまで高野山麓の村々では、神事能は吉野衆(檜垣本猿楽=ひがいもとさるがく)が行っていましたが、近隣の丹生川村では1608(慶長13)年に楽頭職が返上されており(丹生川丹生神社文書)、古佐布郷でも神事能を行う体制に大きな変容があったようです。古佐布色衆(職衆)とは、おそらく氏子らによる猿楽(能・狂言)催行の組織であったのでしょう。
同社には、能装束とともに猿楽面(能・狂言面)も10面伝わります。そのうちの悪尉(あくじょう)は、眉根を寄せ、目を見開いて威嚇する表情で、目の周囲や頰から顎にかけて角の立った稜線(りょうせん)を巡らせ、定形化した能面にはない個性的な表現が見られます。面裏に「慶長拾五天甲戌十月二日/高野山/南谷/真徳院/作之/古佐布/庄中コレヲキシン/同南谷/城花院之内/源宗取次之」と記され、慶長15年に高野山南谷の真徳院が、本面を製作したことが分かります。

近年、この面打(能面の作者)の真徳院が手掛けた能面が新たに2点見つかりました。かつらぎ町久木の丹生神社に伝わった尉と、高野山霊宝館所蔵の中将で、それぞれ面裏に「真徳院作」と刻銘があります。

両面とも悪尉同様に個性的で古風な表現です。かつて私は悪尉を、慶長15年より古い仮面ではないかと考えていましたが、作例の増加により、真徳院は江戸時代初期の高野山で、大変古風な作風を保持し続けていた面打と認識し直しました。さらなる真徳院作の仮面に出合い、その興味深い人物像に迫ることができたらと願っています。悪尉は、和歌山県立博物館の企画展「高野山寺領の村」で、2月12日(休)まで公開中。(県立博物館アドバイザー、奈良大学准教授・大河内智之)

悪尉(古沢厳島神社蔵)

悪尉(古沢厳島神社蔵)

 尉(久木丹生神社蔵)

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