−第48回−文化財 仏像のよこがお「瑞応素川による歓喜寺中興と千体仏」

歓喜寺下品堂の千体仏

歓喜寺下品堂の千体仏

 有田川町の歓喜寺は、前回(本連載第47回・2023年11月4日号)紹介したように、鎌倉時代の高僧・明恵上人の生誕地に、弟子の喜海と湯浅氏によって建立された寺院です。湯浅氏の没落に伴い、当初華厳宗寺院であった歓喜寺も、戦国時代の終わり頃には浄土宗寺院となっていました。

江戸時代前期、荒廃した歓喜寺に瑞応素川という浄土宗僧が入り、復興に尽力します。瑞応素川は、明恵上人の歴史を上書きし、恵心僧都源信が寛和2(986)年に熊野に参詣した際、歓喜寺の地で阿弥陀如来と聖衆が来迎する様子を見て歓喜念仏し、寺を建てたとする新しい縁起を作り、浄土宗寺院としての礎を形成しました。

瑞応素川が建てた下品堂(げぼんどう)は、棟札から延宝2(1674)年の建立と判明する三間堂です(和歌山県指定文化財)。寺に伝わった版木の中に、下品堂建立の勧進のため、瑞応素川が寛文10(1670)年に作った趣意文があります。それによれば、源信が歓喜寺を建てた際に、千体の阿弥陀像を作りましたが、その後の荒廃で失われ、唯一残った傾いた阿弥陀堂の再興を志した、という経緯が記されます。下品堂の柱には使われていない貫き穴が多くあり、屋根には中世の瓦も散見されます。おそらく、元の建物の部材を利用したのでしょう。

瑞応素川は建物再興の後、千体仏の「再興」も果たしています。下品堂の中心に造りつけられた宮殿形厨子(ずし)の中には、中尊の阿弥陀如来坐(ざ)像(像高51・2センチ、鎌倉時代)を中心に、総数1109体の阿弥陀如来の群像が安置され、圧倒的な存在感を示しています。阿弥陀像は大(約40センチ)、中(約25センチ)、小(約12センチ)の三種があり、一部に元禄2(1689)年の銘記を伴っていて、完成時期が分かります。350年の時を超え、継承された建物と仏像は、瑞応素川の思想と信仰をも伝える、歓喜寺中興のモニュメントといえるでしょう。
(和歌山県立博物館アドバイザー、奈良大学准教授・大河内智之)

コーナー

関連キーワード

 

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

おすすめ記事

  1. リビング和歌山2025年3月8日号「災害時に発症しやすい 静脈血栓塞栓症 」
     今年3月11日は東日本大震災から14年、「いのちの日」。和歌山県は南海トラフ巨大地震が発生した場…
  2. リビング和歌山2025年3月1日号「すごいぞ!和歌山の底力 トップメゾンをも魅了する ニットの聖地を世界へ広める」
     和歌山のものづくり企業を紹介するシリーズ、「すごいぞ!和歌山の底力」。今回は、国内最大シェアを誇…
  3. リビング和歌山2025年2月22日号「222(ニャンニャンニャン)でハッピー!」
    2月22日は猫の日。かわいらしくて胸がキュンとなる、猫をモチーフにしたパンやスイーツを集めました。…
  4. リビング和歌山2025年2月15日号「和歌山市内初の専用パークで スケートボードに挑戦!」
     「つつじが丘総合公園」(和歌山市つつじが丘)に、市内初のスケートボード専用パークが開設しました。…
  5. リビング和歌山2025年2月8日号「大阪・関西万博から南高梅を世界へ 未来につなぐウメ~話 」
     大阪市の夢洲(ゆめしま)で、今年4月13日(日)〜10月13日(祝)の半年間、開かれる日本国際博…
リビングカルチャー倶楽部
夢いっぱい保育園

お知らせ

  1. 2025/3/6

    2025年3月8日号
  2. 2025/2/27

    2025年3月1日号
  3. 2025/2/20

    2025年2月22日号
  4. 2025/2/13

    2025年2月15日号
  5. 2025/2/6

    2025年2月8日号
一覧

アーカイブ一覧

ページ上部へ戻る