−第45回−文化財 仏像のよこがお「八坂神社傘鉾祭の鬼面」

八坂神社 鬼面

八坂神社 鬼面

 高野山奥之院に源を発する不動谷川の上流域、谷に沿って民家が点在する高野町細川の集落に八坂神社があります。清流の向こうに社殿や阿弥陀堂が並び建つ様子は別天地の趣で、かつて牛頭天王社(ごずてんのうしゃ)と呼ばれた神仏習合の景観が継承されています。神社の棟札に西南院や蓮(れん)上院の名が見られ、かつて高野山上寺院との深い関わりがあったことがうかがえます。

八坂神社では毎年8月16日に細川の傘鉾祭が行われます。頂上に龍(りゅう)を載せた大きな傘に幕を張り、その中に隠れながら移動した鬼が社頭で祝詞を奏上した後、参詣者の間を竹笹を振りながら巡り邪気をはらうもので、最後に外した鬼面を人々にかざして回ります。みやびやかな風流傘の祭礼と、疫病を防ぐ午頭天王の威力の発揮を組み合わせた内容です。

近年の調査で、使用している鬼面がとても古いものであることを確認しました。赤い顔で、額には先が二股に分かれた角が2本。眉には凹凸を設け、目を大きく見開き、牙と歯をむき出しにして威相を示しています。特徴的なのは突き出た鼻を上へ曲げ、先を膨らませた鼻孔を長く開けた表現で、類似した南北朝時代の鬼面が、高野山麓・かつらぎ町花園中南の上花園神社に伝わります。造形も自由で萎縮のない表現は中世仮面の特徴で、この鬼面の制作時期も南北朝時代から室町時代前期頃と推定されます。

箱書から、1755(宝暦5)年の段階で牛頭天王面が2面伝来していたことが分かり、かつては青鬼の面もあったようです。本来は修正会や修二会で使用された鬼面が、後に現在の芸態へと変容したのでしょう。高野周辺で鬼の芸能が盛んに行われていたことを伺える仮面です。

細川の傘鉾祭

細川の傘鉾祭

古い鬼面を守るため、このたび面打師の久保博山さんにより新調され、同じく復元新調した傘の幕(松鶴堂製)、龍(吉田生物研究所製)とともに今年8月16日にお披露目が行われました。地域の歴史と記憶を伝える隠れ里の祭りが、次の100年を迎えることを心より願います。
(和歌山県立博物館アドバイザー、奈良大学准教授・大河内智之)

コーナー

関連キーワード

 

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

おすすめ記事

  1. リビング和歌山11月30日号「和歌山県、旬の魚を訪ねて漁港巡り美しい紅白模様で際立つ甘み新鮮な足赤えびが人気の漁港」
     今年度、全国のリビング新聞ネットワークが「さかなをたべよう!」キャンペーンを展開中。リビング和歌山…
  2.  和歌山県の温泉といえば、白浜温泉、川湯温泉などをイメージしがち…。いやいや、和歌山市内にも穴場の名…
  3. リビング和歌山11月16日号「デジタル時代だからこそ 手書きに思いを込めて」
     年末といえば、クリスマスカードに年賀状、今年は手書きで思いを伝えませんか。若い世代に注目を集める…
  4. “遺言”と聞くと、“老後になってから”と考える人が多いのでは。しかし、遺言は生前対策の一つとして、…
  5. リビング和歌山11月2日号「夜空を鮮やかに彩る伝統美県下唯一の花火製造会社」
     和歌山県のものづくり企業にスポットを当てたシリーズ、「すごいぞ! 和歌山の底力」。今回は、花火作…
リビングカルチャー倶楽部
夢いっぱい保育園

お知らせ

  1. 2024/11/28

    2024年11月30日号
  2. 2024/11/21

    2024年11月23日号
  3. 2024/11/14

    2024年11月16日号
  4. 2024/11/7

    2024年11月9日号
  5. 2024/10/31

    2024年11月2日号
一覧

アーカイブ一覧

ページ上部へ戻る