−第4回−文化財 仏像のよこがお「仏に変身するための仮面」
- 2020/1/30
- コーナー
- 文化財 仏像のよこがお
仏に変身するための仮面
高野山の山奥に、かつて花園荘という荘園がありました。高野山の根本寺領の一つで、優美な名前は、仏前への供花などを供給したことが起源とされています。同荘のうち、花園上荘の鎮守・上花園神社(かつらぎ町花園中南)には、とても珍しい仮面が伝わっています。如来と菩薩(ぼさつ)の顔を表した、仏に変身するための仮面です。
頭に螺髪(らほつ)を表わした如来が1面、冠を付けた菩薩が12面、童子2面、僧形2面の計17面からなる仮面群で、箱のふたに文保元(1317)年と制作時期が記されています。毎年、区長が交代するたびに箱から出して引き継ぎが行われてきた村の宝物でした。
約200年前の地誌『紀伊続風土記』に「古、社前にてレンジの舞といふを奏せしとき用ひし面なりといふ」とあり、かつて「レンジの舞」に使ったことが伝えられています。「レンジ」とは「レンゾ」の書き誤りで、漢字で書けば「練道」、つまり「練り供養」のことです。仏の仮面と装束を付けた人々が列を作り進んでいく法会で、當麻寺(奈良県葛城市)や得生寺(有田市糸我町)が有名です。
練り供養は、正式には「来迎会(らいごうえ)」や「迎講(むかえこう)」といい、阿弥陀如来が菩薩とともに極楽浄土からこの世に現れ、亡くなった人を迎えに来る様子を再現する法会です。人々の心に来迎の光景を刻み、阿弥陀の救済が自らに及ぶことを確信させるための一種の宗教劇です。
仮面のまなざしの向こうには、700年前、高野山周辺の山中に舞い降りたきらびやかな阿弥陀聖衆(しょうじゅ)を迎えた村人たちの高揚した祈りの面影が浮かび上がってくるようです。
※企画展「きのくに神秘の仮面―新発見の神像とともに―」(2月1日~3月8日)で展示
(和歌山県立博物館主任学芸員・大河内智之)
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