−第2回−文化財 仏像のよこがお「徳川頼宣が見つめた仏像」

徳川頼宣が見つめた仏像

海南市冷水の高台に建つ「海雲寺」に、1347(貞和3)年に造られた「釈迦如来坐像(しゃかにょらいざぞう=上写真中央)及び迦葉(かしょう=同右)、阿難(あなん=同左)立像」が伝わります。仏教を開いた釈迦と、その死後、教団を統率した迦葉、釈迦の言葉を経典として編集した阿難を組み合わせた三尊像で、禅宗寺院に多く見られます。

釈迦如来の像底には、「運慶五代之孫法眼康俊(こうしゅん)之作」と記され、運慶末流の康俊によって造られたことが分かります。康俊は、当時の最新の中国様式を端正にまとめた作風が特徴で、細部の写実表現に優れた名仏師です。

その3年前の1344(康永3)年、紀伊国冷水浦の住人が、薩摩の住人から船や積載物を奪われたことを幕府に訴えた古文書が、鹿児島県の新田神社に残ります。古文書からは当時、冷水浦が海運の港として成長していたことが伺えるので、海雲寺は港の拠点寺院として、仏像が造られたのと同時期に創建されたのでしょう。仏像自身が寺の歴史を雄弁に物語ってくれています。

『名高浦四囲廻見(なだかうらしいまわりみ)』という江戸時代の地誌に、この康俊作の三尊像と紀伊徳川家初代藩主・頼宣に関する伝承を見つけました。藤白山を背に、海に開けた風光明媚(めいび)の地であった海雲寺を訪れた頼宣は、三尊像を拝覧した後、迦葉の顔(下写真)を能面に写させたといいます。

頼宣は能の名手としても知られ、父・家康からも能面を譲られたというエピソードも。老いてなお迫真的な力を持つ迦葉の風貌と薄暗い堂内で静かに向き合った、その頼宣の感動に満ちた面持ちが目に浮かんできます。(和歌山県立博物館主任学芸員・大河内智之)

※特別展「徳川頼宣と紀伊徳川家の名宝」で11月24日(日)まで展示中

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