−第13回−文化財 仏像のよこがお「童男行者と粉河寺」

童男行者と粉河寺

平安時代末期に描かれた国宝・粉河寺縁起は、粉河寺の本尊の造像と寺院の創建にまつわる縁起と、霊験あらたかな粉河観音が長者の娘の病を治した縁起の二つの物語から構成されています。その前半と後半のそれぞれの物語に共通して登場する人物がいます。

童行者(わらわぎょうじゃ)、または童男(どうなん)行者と呼ばれ、子どもでありながら、行者、すなわち修行僧の姿に表された不思議な存在です。頭髪は長く伸ばし、白い浄衣(じょうえ)と袈裟(けさ)をまとい、足下には脚絆(きゃはん)を着けたいでたちです。

童男行者は、実は粉河観音の化身です。前半の物語では猟師の願いに応じて千手観音像を刻み、後半では病の娘を千手陀羅尼(だらに)というお経の威力で救います。そして、お礼に持ち帰った紅の袴(はかま)と提鞘(さげざや=僧侶などが持つ小刀)を千手観音像が持っていたと語り、化身であることを明示します。そのことから、粉河寺の本尊(粉河観音)が、人々の前に姿を表して直接救済してくれる生身(しょうじん)の観音であることが分かります。

法華経の『観世音菩薩普門品(ふもんぼん)』には、観音は相手の状況に合わせて三十三の姿に変えて現れると説かれています。その中に、童男身や童女身というものがあります。童男行者もこうした経説を元にしていますが、その行者としての姿には、都まで名の知れ渡った、山中で厳しい修業を行う粉河聖(ひじり)の姿がそこに投影されているのでしょう。

粉河寺の縁起が生き生きと輝くシンボルとしての役割を、1000年以上に渡って果たし続けている童男行者。粉河寺山内、御池坊(みいけぼう)の秘仏本尊として童男堂にまつられています。秘仏は毎年12月18日に開帳され、人々の前に生身の姿を現します。

11月23日(祝)まで、和歌山県立博物館で「創建1250年記念特別展・国宝粉河寺縁起と粉河寺の歴史」を開催しています(左記参照)。童男行者を描いた資料も多数展示しています。
(和歌山県立博物館主任学芸員・大河内智之)

創建1250年記念特別展
国宝粉河寺縁起と粉河寺の歴史

縁起絵巻、縁起絵をはじめ、仏像、仏画、古文書など150点が展示されます
創建1250年記念特別展
国宝粉河寺縁起と粉河寺の歴史
11月23日(祝)まで開催
粉河寺の縁起絵巻、縁起絵をはじめ、仏像、仏画、古文書など150点が展示されます
【問い合わせ】
073(436)8670県立博物館
午前9時半~午後5時(入館は4時半)、月曜休館(11月23日は開館)
入館料一般830円、大学生520円

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