祝! 東京国際映画祭で初上映、和歌山がロケ地の映画 「あつい胸さわぎ」
- 2022/10/20
- フロント特集
昨夏、雑賀崎などで撮影され、来年1月に全国公開が決定している映画「あつい胸さわぎ」。⺟と娘の視点から乳がんをテーマに描いた同作が、10月24日(月)に開幕する「第35回東京国際映画祭」で初披露上映されます。10月はピンクリボン月間でもあり、乳がん検診の啓発、そして、和歌山のすばらしい景色が日本、いや世界に届けばと、同作を紹介します。
あつい胸さわぎストーリー
物語は、灯台のある港町の古い⼀軒家に住む娘・千夏(吉田美月喜)と⺟・昭子(常盤貴子)の⽇常から始まります。憧れだった芸術大学に通う千夏。新しい生活に胸を躍らせていた矢先、初期の乳がんが見つかり、胸を残すか失うかの選択を迫られます。千夏は、同じ大学に通う幼なじみの光輝(奥平大兼)に密かに恋心を抱き、お姉さん的存在の透子(前田敦子)に相談をしていましたが、ある日、光輝と透子の別れ話でもめている姿を目撃してしまい…。2023年1月27日(金)イオンシネマなどで全国公開。
雑賀崎の海、日常の風景に
吉田美月喜・常盤貴子も感動
「あつい胸さわぎ」は、劇作家・横山拓也による演劇ユニット「iaku(いあく)」が2019年に東京・大阪で上演した舞台作品。若年性乳がんがテーマの同芝居を見た映画監督・まつむらしんごが、劇中、少女が「おっぱいなくなったら…もう恋とかムリなんかな?」と発したセリフの答えを、「映画で明確な回答をしてあげたい」と、脚本を髙橋泉に依頼し、メガホンを取りました。
物語に登場する「サーカス」のシーンの演出で、印南町で旗揚げした和歌山発のサーカス団「さくらサーカス」の協力が得られたこと。さらに、和歌山県や市のフィルムコミッション(映像や映画の制作をサポートする)事業のバックアップもあって、和歌山がロケ地に選ばれました。
撮影は2021年7~8月に行われ、千夏と母が暮らす「灯台のある港町の古い⼀軒家」は、雑賀崎の空き家にセットが組まれて、千夏役の吉田美月喜、母役の常盤貴子らが目の前に広がる景色に見ほれていたとか。その他、美園商店街や紀の川市の染色加工場、近畿大学生物理工学部なども舞台となり、「スタジオ撮影以外、作品の98%くらい和歌山で撮りました」とまつむら監督は話します。
私たちにとってごく日常の風景が映し出される映画が、日本で唯一の国際映画製作者連盟公認「東京国際映画祭」で、特に海外に紹介されるべき日本映画として「ニッポン・シネマ・ナウ部門」に選出されたのは、実に誇らしいことではないでしょうか。
「テーマがテーマだけに“重い作品”と思われがちですが、泣ける演出は一切なし。ある意味期待を裏切るほほ笑ましいストーリーなので、幅広い世代の人に見てもらい、それぞれに何かを感じてもらえれば…」とまつむら監督。全国公開は来年1月27日(金)とまだ少し先ですが、紙面を見た皆さんが、「和歌山でロケされた映画ね、乳がんの…」 と、身近な人たちとの会話から乳がんについて考えるきっかけとなり、検診受診、早期発見へとつながることを期待します。
予告編はこちら→https://xn--l8je4a1a7e6m7952c.jp/
撮影で和歌山に来ていたまつむらしんご監督と前田敦子にインタビュー。映画をサポートする和歌山市観光課、乳腺外科医に応援メッセージももらいました。
男性目線で興味を持った乳がん
重々しくない青春ストーリー
――和歌山がロケ地になったいきさつは。
僕自身は和歌山と縁がなかったのですが、サーカスの演出で和歌山のサーカス団に協力を得られたこともあって、他のシーンも和歌山で撮影ができないかと地元の方々に相談をさせてもらったんです。一度、和歌山の空気を吸ってみようと訪れてみたら、風景が圧倒的に良くて…、ここで撮りたいと思いました。
――和歌山でロケをされていかがでしたか?
映画の撮影は、地元の人たちの日常を乱し、負担も大きいのですが、皆さん大らかで楽しんで協力してくれて、一緒に一つのプロジェクトを成し遂げたような気分です。
――まつむら監督にとって同作品は3作目。オリジナルではなく原作モノを映画化した理由は。
劇場で「iaku」の舞台を見て、映画化したいとすぐに劇作家にコンタクトを取りました。僕は男なので、乳がんのことをそんなに深く考えたことがなく、そこに興味を持ったのが一つ。そして、乳がんは治療も進化していて、早期発見なら生存率は高いと聞くけれど、一人の少女にとって胸がなくなるかもしれないというのは、どれくらいの絶望感なのか、そこまで舞台では描かれていなかったので、映画で描きたいなと。すでにその時に、母役は常盤さんと決めていました。
――描きたいと思った結末とは。
少女は、後々生きていく中で、恋人ができるたびに、お伺いを立てていくと思うんですよ。「私、おっぱいないんだけど…いい?」って。「大丈夫だよって」って僕なりに言ってあげたくて。
――主演は注目の若手女優、吉田美月喜を起用。
当初、千夏はオーディションで選考しようと思っていましたが、コロナ禍で実施できず。吉田さんは常盤さんと同じ所属事務所で、マネージャーの推薦もあって彼女に会った瞬間、「あっ、この子だ」と思いました。
――映画には母子家庭、境界知能、婦女暴行…と、さまざまな社会課題も盛り込まれています。
はい。でも、重々しい映画ではなく、ポップな作品。主人公を被害者にしたくなくて、登場人物を増やし、あえて原作にはない“背景”を付け加えました。空と海の青、山の緑と冒頭5分はジブリ映画を彷彿(ほうふつ)するくらい爽やかで、18歳の少女の汗と涙、そして恋を描いた青春ストーリーです。
――あらすじを見ると重苦しそうですが…。
僕は大学院でラブコメを研究していて、明るい映画が好きで撮りたいんです。そこに人々の役に立つものを込められたら…というのが根底にあり、今作も絶望を描くより、絶望の中でどうやって生きていくかという人間のタフさを見せたくて。皆さんがテーマから連想する作品とは異なると思います。
雑賀崎だからこそ撮れた作品
グリーンソフトが現場で話題に
――和歌山での撮影期間はどれくらい?
1週間ほどです。和歌山に来るのは初めてで、滞在中は和歌山城の目の前のホテルに宿泊していて、現地のパワーをもらいました。撮影現場で話題になっていた「グリーンソフト」が、すごくおいしかったです。
――撮影で雑賀崎に行かれましたよね? “日本のアマルフィ”とも言われているのですが…。
すごくステキなところで、作品にもその景色がクールに映っていると思います。海外の方が見ても、和歌山ってカッコイイ場所と思ってもらえるんじゃないですかね。この景色があったからこそ撮れた“絵”がたくさんあると思います。
――前田さんが演じる透子は千夏のお姉さん的存在で恋敵。ちょっぴり難しい役どころでは。
透子の人生で思いもよらなかったことが起こるわけですが、本人に悪気はなく、運命のいたずらに遭ったようなもの。妹みたいにかわいがっている千夏を傷つけちゃいますけど、2人の縁が切れることは絶対にないなって。お互いに成長できる出来事で、いつか笑い話にできるそんな人生の一ページのような気がして、透子の性格はすんなりと入ってきました。
――最後に作品PRを。
甘酸っぱくて、でも乗り越えなきゃいけないものがあって…。(公開は冬ですが)ひと夏の大きな思い出を千夏を通して堪能してもらえるんじゃないかな。ぜひ劇場で。
雑賀崎のPRと乳がん啓発
より意義ある取り組みに
最近、テレビ番組などで雑賀崎が取り上げられる機会が増えていますが、観光地としてではなく、主人公たちが住んでいる設定で、ありのままの日常が映し出されるのは、あまりなかったケース。
全国の人に等身大の和歌山市を見てもらい、その魅力を感じてもらえたらうれしいです。
また、行政としては、観光側面だけでなく、作品のテーマでもある乳がんについても啓発、検診率の向上につながるよう取り組み、映画の公開をより意義あるものにしたいです。
全年齢層で増える乳がん
若い女性も関心を持って
ご縁があってまつむら監督たちが当院に来られ、マンモグラフィー装置や乳がんの画像などを見ていただきました。
この映画の主人公のような若い世代も含め、乳がんは全年齢層で年々増え、ここ数年間のコロナ禍でがん発見の遅れも心配されています。
乳がんは、早期に発見すれば完治する可能性が非常に高い病気です。
この映画を通じて、若い女性にも乳がんに関心を持っていただき、受診や検診のきっかけになることを心から期待しています。