−第42回−文化財 仏像のよこがお「最勝寺と浄教寺をつなぐ銘記」

浄教寺十二天像のうち風天像

浄教寺十二天像のうち風天像

有田川町の浄教寺には、鎌倉時代初期の慶派仏師が手掛けた「大日如来坐(ざ)像」(本コラム第18回、2021年4月24日号で紹介)や、同じ頃に描かれた日本を代表する「仏涅槃(ねはん)図」(ともに重要文化財)、南宋の絵師・陸信忠の銘を持つ「十王図」や類例少ない図柄の「十六羅漢像」(ともに県指定文化財)など、多数の特徴ある文化財が伝わります。

これらは江戸時代後期の地誌『紀伊続風土記』に、「当寺に出村最勝寺の仏像仏画多く転伝せり」とあり、かつて浄教寺近隣にあったとされる最勝寺の旧蔵品と伝えられています。最勝寺は同じく『紀伊続風土記』に「天正年中豊太閤悉寺領を没収す、浅野氏の時堂塔伽藍を破却し、ことごとく若山に移す」とあり、天正年間(1573~92年)に廃絶し、その際に浄教寺に仏像や仏画が移されたとみられます。

地誌に採録されたこの伝承の信ぴょう性を、高めてくれる重要な文化財が、浄教寺に伝わります。仏法を護持する12種の天部を描いた「十二天像」で、密教僧が師僧から教えを授かる儀式の際に使用されていました。やや厚めの紙に、各像の輪郭を版刷りし、荒く着色した簡易な作りのもので、ある程度、量産されたとみられます。

注目するのは、十二幅のうち「風天像」の表具裏面に記された「神谷山最勝寺住侶権少僧都/寄附主/盛実/明応十戌年三月」という銘記です。この明応10(1501)年に最勝寺の僧盛実が入手したという記録により、最勝寺から浄教寺へ仏像仏画が移動したという伝承に事実が含まれることが分かります。本図の存在が、先の重要文化財などの価値をさらに高めています。

この十二天像は、破損が進んで限界の状況となっており、寺ではクラウドファンディングを用いた修理への賛助を呼び掛けています(https://readyfor.jp/projects/100805)。重要な文化財を未来へ継承するための、現代の勧進活動といえるでしょう。

(和歌山県立博物館アドバイザー、奈良大学准教授・大河内智之)

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