−第37回−文化財 仏像のよこがお「神護寺領 神野真国荘の仏像 」

弘法大師ゆかりの京都洛北・神護寺は、平安時代末期には荒廃していましたが、武士を出自とし、源頼朝に平家討伐の挙兵を促した僧・文覚(もんがく)の活躍で復興します。文覚は多数の荘園の寄進を受け、復興の費用を調達しており、紀伊国内では桛田荘(かせだのしょう)、川上荘、そして神野真国荘が神護寺領となっています。桛田荘と神野真国荘についてはそれぞれの荘域を描いた絵図が残り、教科書でもおなじみです。

 神野真国荘は、紀美野町の旧美里町域にあたり、神野川(貴志川)流域と真国川流域とに分かれます。神野川流域の中心地、神野市場には、平安時代初期の秘仏十一面観音立像をまつる満福寺や、天正年間建立の社殿(重要文化財)が並ぶ十三神社があります。周囲の山あいには棚田が広がり、寺社・町場・耕地が相まった中世荘園の歴史的景観が残されています。

 荘域には多数の仏像が伝来しています。その一つとして、三尾川地区の玉泉寺には、平安時代後期に造像された(中央の仏師作)不動明王立像と毘沙門天(びしゃもんてん)立像が挙げられます。この像は1182(寿永元)年、神護寺領となる前の鳥羽院領時代に造像されたものと見られます。

 神野真国荘は、文覚の佐渡流罪ののち、1221(承久3)年の承久の乱後に高野山の領地となりますが、その短い神護寺領期間に造像されたことが確実な作例が伝わっています。
 三尾川地区にほど近い高畑地区に、廃絶した龍福寺を引き継ぐ観音堂があります。ここに伝わる阿弥陀如来坐(ざ)像は、像内の銘記に、1186(文治2)年にこの地の有力者とみられる「若宅貞国女逆部氏」が願主となり、結衆(若宅氏の一族か)が阿弥陀如来による救済を願って造像したことが記されています。平安時代後期の仏像様式を基調としつつ、頭部を割り放さない古風な構造技法などから、紀伊国の仏師が造像に携わったと見られます。

 銘記と作風からは、在地の人々が領主交代など関係なく、コミュニティーを維持して結束し、地域性を保ちながら信仰活動を行っていた様子がうかがえます。そうした結束の中で、800年の時を超え、信仰の場を継承する「守る力」が生み出されてきたことを、つくづく感じるのです。

※和歌山県立博物館企画展(2023年1月22日(日)まで開催中)で公開中。
(和歌山県立博物館アドバイザー、奈良大学准教授・大河内智之)

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