−第30回−文化財 仏像のよこがお「現存最古の往生者坐(ざ)像」

下湯川観音堂 往生者坐像高野山麓、有田川町の湯川川流域(上湯川・下湯川地区)の源流近く、日光山中に今は小さな祠(ほこら)を残すだけとなっている日光社があります。この地には平家落人伝承が残り、日光社の祭祀(さいし)を行った小松家も平維盛の子孫とされるなど、独自の宗教文化が育まれてきた隔絶山村です。その中世の景観を描いた日光社参詣曼荼羅(まんだら、和歌山県立博物館蔵)には流域の家々も描かれています。

下湯川には、住民によって管理されている下湯川観音堂があります。江戸時代後期の「続風土記御調に付書上帳」という資料には、かつて「仏の舞」が行われ、その際に使用した仏面と如来面が残されていると記されています。仏の舞とは、阿弥陀如来と菩薩(ぼさつ)の仮面をかぶった人々が練り歩き、亡くなった人(往生者)を極楽浄土へと迎えに来る様子を再現する、来迎会(らいごうえ)と呼ばれる宗教芸能のことです。

2016(平成28)年、初めて観音堂の文化財調査を行いました。平安時代の仏像群を確認する、大きな成果を得られましたが、仮面は見当たりません。古老に聞いても見たことがないとのこと。しかし、来迎会が行われていたことを証明するものが残っていたのです。

それは、蓮台(れんだい)の上に合掌して座る像高18㌢ほどの僧侶の坐像で、これこそ、来迎会の際にお迎えに来た阿弥陀聖衆のうちの観音菩薩が、両手にささげ持つ往生者坐像だったのです。やや笑みを浮かべた精悍(せいかん)な風貌で、体つきも緊張感を残していることから、南北朝~室町時代ごろの制作とみられます。現在確認されている往生者坐像の中で、最古の作例といえるでしょう。

堂内をさらに探すと、虫食いでぼろぼろになった菩薩面の髻(もとどり・頭上に結った髪の毛)部品だけを見つけました。おそらく仮面は、朽ち果て失われたのでしょう。しかし、かつて湯川川流域の人々が阿弥陀聖衆来迎を目の当たりにした喜びと感動は、極楽往生の喜びにほほ笑むその往生者の姿として、確かに伝えられてきたのです。
(和歌山県立博物館アドバイザー・奈良大学准教授・大河内智之)

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