−第28回−文化財 仏像のよこがお「和歌祭の仮面に仏の顔を見る」

癋見(表)

癋見(裏)

和歌祭(わかまつり)は、徳川家康(東照大権現)の命日(旧暦4月17日)に行われる紀州東照宮の例祭で、今年は5月15日に催行が予定されています。

和歌祭の特徴は、みこし渡御の際にさまざまに仮装した練物(ねりもの)が多数連なることにあり、その行列の一つが、仮面を着けて仮装し、にぎやかに練り歩く面掛(めんかけ)です。通称「百面」とも呼ばれます。

面掛の仮面は現在、神事面や能面、狂言面、神楽面など中世~近代の97面が残され、和歌山県の文化財に指定されています。江戸時代初期に作られた優れた能・狂言面も多く、その調達に藩主・徳川頼宣の関与もあったようです。この仮面群の中に、面裏に記された銘記から「方廣」という面打(めんうち)が作ったと判明する仮面が7面含まれます。どれも大ぶりで型にはまらず、造形の自由さに優れ、制作時期は室町時代にさかのぼります。

その中の一つ、癋見(べしみ)は、眉根を寄せて鼻孔を横に広げ、口をへの字に曲げて下唇をかんだ、内にこもった怒りを表出した仮面です。

能では鬼神や天狗(てんぐ)などの役に用いますが、この仮面は一般的な癋見の面とは異なり、面長に作られ、四天王や仁王など憤怒形(ふんぬぎょう)の仏像を思わせる表情です。鬼神を表す能面には口を閉じた癋見と口を開けた飛出の阿吽(あうん)一対がありますが、そのルーツが仏像にあることを伺える資料といえるでしょう。

15年ほど前の和歌祭の際に、この癋見面を頭に帽子のように乗せ、現在の面掛の芸態であるフェイスペインティングをしたかっぷくの良い男性に、「その仮面、とっても古いものですよ」と声を掛けたことがあります。顔にかぶって歩いたら、きっと仁王さんが現れたようだろうなあと思いながら…。

和歌山県立博物館のスポット展示「和歌祭面掛行列の中世仮面」で4月17日(日)まで公開中。
(和歌山県立博物館主任学芸員・大河内智之)

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