−第15回−文化財 仏像のよこがお「熊野御幸を見守った金剛童子像」

▶ 滝尻金剛童子立像

聖地・熊野三山(本宮・新宮・那智山)への参詣者が往来した祈りの道、熊野古道。その道沿いに、王子とよばれる神社や祠(ほこら)が多数あり、九十九王子(くじゅうくおうじ)と総称されています。王子にまつられているのは金剛童子(こんごうどうじ)。これを熊野権現の御子神(みこがみ)とする捉え方もありますが、正確にいえば仏に付き従う眷属(けんぞく)であり、修行者を守る護法善神(ごほうぜんじん)です。熊野への参詣は、山という他界に入り、巡拝して日常に戻る山岳修験の擬死再生の修行であり、その行者を金剛童子が守っているのです。

王子の中でも、藤白(海南市)、切目(印南町)、稲葉根(上富田町)、滝尻(田辺市中辺路町)、発心門(田辺市本宮町)は五体王子と呼ばれて格式が高く、上皇の熊野参詣の際に和歌会が催されるなど、特別な法要が行われてきました。このうち熊野の神域の入口と捉えられていた滝尻王子(現・滝尻王子宮十郷神社)の祭神像について、2007(平成19)年に調査の機会を得ました。

▶ 熊野曼荼羅に描かれた滝尻金剛童子

社殿の中に安置される小型の宮殿の扉を開くと、よろいをまとい右手に矢、左手に弓(亡失)を持つ姿の像(写真右)が見えました。像高35・8㌢と小さく、後世の厚い彩色で像容を捉えにくいものの、その風貌や体型の特徴は明らかに平安時代後期、12世紀の作風を示しています。滝尻金剛童子の姿にはいくつかのバリエーションがありますが、熊野曼荼羅の中に同様に武装して弓矢を持つ図像(写真左)が確認され、その尊名に疑いはありません。

この地を訪れる参詣者を900年に渡って見守ってきた、現存唯一の熊野の金剛童子像。そのまなざしの向こうには、上皇たちのきらびやかな熊野御幸の風景が広がっていたのです。(県立博物館主任学芸員・大河内智之)

コーナー

関連キーワード

 

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

おすすめ記事

  1. リビング和歌山12月21日号「冬のシラハマ」

    2024/12/19

    冬のシラハマ
    白浜のきらめくスポットと、話題の新施設をまとめました。白浜の魅力は、パンダや温泉だけじゃないですよ!…
  2. リビング和歌山12月14日号「寒〜くなると恋しくなる ほかほか中華まん」
    蒸したてをパクっと頬張れば、心もほっこりあったかく…。冬になると恋しくなる中華まん。定番の豚まんやあ…
  3. リビング和歌山12月7日号「手作りで迎えるクリスマス ミニチュアフードの世界」
    指先に乗るほど小さいのに、本物と見間違えるほど精巧に仕上げられたミニチュアフード。今年の暮れは、作…
  4. リビング和歌山11月30日号「和歌山県、旬の魚を訪ねて漁港巡り美しい紅白模様で際立つ甘み新鮮な足赤えびが人気の漁港」
     今年度、全国のリビング新聞ネットワークが「さかなをたべよう!」キャンペーンを展開中。リビング和歌山…
  5.  和歌山県の温泉といえば、白浜温泉、川湯温泉などをイメージしがち…。いやいや、和歌山市内にも穴場の名…
リビングカルチャー倶楽部
夢いっぱい保育園

お知らせ

  1. 2024/12/19

    2024年12月21日号
  2. 2024/12/12

    2024年12月14日号
  3. 2024/12/5

    2024年12月7日号
  4. 2024/11/28

    2024年11月30日号
  5. 2024/11/21

    2024年11月23日号
一覧

アーカイブ一覧

ページ上部へ戻る