災害時に発症しやすい
静脈血栓塞栓症
- 2025/3/6
- フロント特集
今年3月11日は東日本大震災から14年、「いのちの日」。和歌山県は南海トラフ巨大地震が発生した場合、甚大な影響を受けると予想されています。そこで、いざという時に備えて最新の医療情報を紹介します。
気をつけたい血栓の要因
加齢、肥満、高脂血症
災害後によく話題になるのが「静脈血栓塞栓症」です。和歌山県立医科大学・放射線医学講座・中央放射線部次長の南口博紀准教授に取材しました。

南口 博紀准教授
和歌山県立医科大学・放射線医学講座
中央放射線部次長
静脈血栓塞栓症とは、いわゆるエコノミークラス症候群としても広く知られています。血流の滞りにより、静脈血栓が肺動脈内へ流入し、肺血管をふさぐことで発症する「肺血栓塞栓症」(左図参照)と下肢深部静脈に血栓が生じ、静脈還流障害を引き起こす「深部静脈血栓症」の総称です。
突然発症する可能性があり、いろんな要因が重なって引き起こします。
災害による避難所生活での車中泊や災害後のストレスが、血流停滞を引き起こし、血管内で血液が固まることで、静脈血栓塞栓症が発症します。
また、ほかの感染症と同様に血液凝固を促進し、血栓症を発症することがあります。
1865年、フランスの内科医トルソーが、胃がんの患者さんで静脈血栓塞栓症が多いということを発見。悪性腫瘍患者の約90%以上に血液凝固が促進され、約50%以上に血栓塞栓症が発生すると発表しました。そのため静脈血栓塞栓症が確認された際には、がんの発生を確認する必要があります。
加齢、肥満、高脂血症なども血栓の要因。長期間寝たきりの方、避妊薬などホルモン剤を飲んでいる方なども注意が必要です。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においても、重症化した患者さんほど、静脈血栓塞栓症のリスクが高まります。これは、ウイルスが血管内皮細胞や免疫細胞に影響を与え、炎症反応を引き起こすためです。特に70歳以上の高齢の男性では、感染後の血栓症リスクが高いことが分かっています。
まったく症状が出ないものから、下肢の腫れ、胸の痛み、動悸(どうき)など人によって症状はさまざま。深部静脈血栓症では、主に片方の足全体やふくらはぎが腫れたり熱感を伴うことがあります。放置した場合、腫れが続いて皮膚潰瘍(かいよう)が発生し、足の皮膚がただれたりします。
また、肺血栓塞栓症になると、呼吸困難を引き起こす場合があります。食事をとらずに薬だけ飲むとか、薬の量を誤って過剰に服用すると、薬の効きすぎによる血腫ができることもあります。
1.肺血栓塞栓症とは
おもな症状
他には…
・呼吸が苦しい
・胸が痛い など
発症メカニズム
下肢にできた深部静脈血栓が、血流にのって肺まで運ばれ、肺の血管(肺動脈)をつまらせます
2.深部静脈血栓症とは
おもな症状
下肢に痛み・腫れ・色調の変化が見られたら、病院へ
症状が出ないこともあります
発症メカニズム
①下肢の静脈に血の固まり(血栓)ができて、血流が途絶えます
②下肢の静脈に血の固まり(血栓)が、血流にのって肺まで運ばれると危険です
血栓の予防は
適度な運動と水分補給
動悸や胸が痛いなど
症状が出たら早期治療
症状によって治療は異なります。
①下大静脈フィルター留置
深部静脈血栓症が疑わしい場合、血管超音波で検査し、血栓が見つかればフィルターを留置して処置する「下大静脈フィルター留置」を行います。治療後に血栓がなくなれば留置したフィルターを除去します。
②病肢膝窩(しっか)静脈穿刺(せんし)シースカテ留置
腹臥位(ふくがい)で超音波ガイド下に病側膝窩静脈穿刺を行いシースを留置。
③血栓溶解、吸引除去
④経カテーテル線溶療法(病室での治療)
⑤腸骨静脈圧迫症候群に対するステント留置
血栓ができやすい状況
①長時間の座位保持
②狭い車内で長時間過ごす
③水分不足
④トイレをがまんする
⑤悪性腫瘍
⑥加齢、肥満、高脂血症
⑦新型コロナウイルスやインフルエンザ感染
予防するには
●適度な水分補給
特に避難所生活や冬場では水分摂取が不足しがちです。糖分の少ない飲み物を選びましょう
●適度な運動
長時間座り続けることを避け、定期的に足を動かすことが重要です
●弾性ストッキングの使用
深部静脈の血流を促進し、血栓形成を防ぐ効果があります
医療情報連携システム
活用したい青洲リンク
災害対策や日常医療の補完
重要な役割を果たす
災害に備えて注目されている「青洲リンク」について和歌山県立医科大学附属病院・医療情報部部長 ・血液内科・西川彰則教授に伺いました。

西川 彰則教授
和歌山県立医科大学附属病院・
医療情報部・部長/血液内科
これまで災害地における避難所での困りごとには、次のような課題があります。
①薬を避難所に持参できなかった
②薬の種類がわからなくなった
③避難所生活による体調不良
普段は病院へ行けば、自身の採血結果や内容を確認できますが、避難所ではそうした情報を正確に伝えるのが難しくなります。
2011年、台風の豪雨による水害などの災害が重なったことを受け、厚生労働省の指導のもと、医療情報の連携や安全基盤の推進事業がはじまりました。これにより地域住民の医療情報を災害時に活用できる仕組みが構築されました。
和歌山県内では、平時及び災害時に医療情報を連携するために医療連携システム「青洲リンク(Seishu Link)」の運用を開始しました。
南海トラフ地震などの災害発生時には、災害に備え保管している患者の医療情報を利用し、避難所や臨時診療所で活用します。
平時には医療機関間で情報を共有、患者の利便性の向上を目的としています。
加盟している病院間で
医療情報を共有
青洲リンクは、医療機関と患者の双方にとって効率的なシステムで、災害対策や日常医療の補完に重要な役割を果たしています。
① データ保全
患者の基本情報、処方履歴、アレルギー歴、検査結果(平時のみ利用可能)などを集約。サーバーは関東地方にもありバックアップを保存し、データの喪失を防止。
② 情報共有
加盟している医療機関同士(病院、診療所、薬局)で情報を相互参照できます。病院間のスムーズな情報共有をサポートします。
③ 災害時モード
被災地で必要な患者情報を迅速に提供することで、薬を出してもらったりなど診療の継続に役立ちます。
◆導入のメリット
かかりつけ医の検査結果を紹介先で確認してもらえます。
検査結果や薬情報は
アプリで健康管理
青洲リンクは個人の医療情報をスマホで管理できる PHR(Personal Health Record=パーソナル・ヘルス・レコードの略)機能「NOBORI(ノボリ)アプリ」を取り入れています。
青洲リンクに参加し、スマートフォンにNOBORIアプリをダウンロードすることで、自分の検査結果や薬の処方内容など、いつでもどこでも自分のスマートフォンで確認できます(画像は未対応です)。
さらにアプリで設定すれば、自分の医療情報を家族と共有したり、ほかの医療機関にみてもらうことができます。スマートフォンを持っていない家族の医療情報は、自分のアプリに追加登録すれば、見ることができます。
OBORIアプリは直近1年間の情報は無料で見れますが、1年以上前の情報を見るには有料プラン(月額100円)の申し込みが必要です。

参加医療機関の間で患者の医療情報を共有し、診療時などに活用します
青洲リンクNOBORIアプリ 問い合わせ・申し込み
お問い合わせ | 073(441)0858 青洲リンク事務局(和歌山県立医科大学附属病院3階 医療情報部内) |
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受付時間 | 祝日除く月〜金曜 午前10時~午後4時 |
アプリの手続き
1スマートフォンにNOBORIアプリをインストール
2ユーザー登録
3医療機関登録
和歌山県立医大を中心に利用医療機関が徐々に増えています
4青洲リンク参加同意書の記入
5青洲リンク事務局もしくはNOBORI アプリ利用医療機関で本人確認手続き
手続きに必要なもの(右記参照)を持参してください
6青洲リンク事務局で手続きが終わる と完了
アプリで自分の医療情報を確認できます
手続きに必要なもの
・診察券
・本人確認書類(保険証や運転免許証など)
※患者の同席が必要
こちらからインストールしてみてね!▶(https://nobori.me/store.html)