すごいぞ!和歌山の底力
トップメゾンをも魅了する
ニットの聖地を世界へ広める

リビング和歌山2025年3月1日号「すごいぞ!和歌山の底力 トップメゾンをも魅了する ニットの聖地を世界へ広める」

 和歌山のものづくり企業を紹介するシリーズ、「すごいぞ!和歌山の底力」。今回は、国内最大シェアを誇る丸編みニットの生産地・和歌山市の「エイガールズ」を訪ねます。代表取締役社長の山下智広さんから、世界に誇る和歌山ニットの魅力や、地場産業の未来を次世代につなぐ思いを聞きました。

エイガールズ
代表取締役社長
山下智広(Yamashita Tomohiro)

「和歌山のニットは世界で戦える」
品質の高さを業界に知らしめる

ニットの生産地として知られる和歌山市。1909年に5台のスイス製丸編み機が導入され、その10年後には全国シェア1位を誇る一大集積地に発展。1世紀以上たつ今もなお、50を超える関連企業が国内の丸編みニットの40%を生産しています。名草山の麓に広がる三葛地区には、現在、ニット関連の会社が12社点在し、テキスタイルメーカー「エイガールズ」もそのうちの一つ。72年の創業以来、カットソーの製造・販売やブランディングを展開し、国内外のメゾンブランドに生地を提供しています。

代表取締役社長の山下智広さんは73年生まれ。老舗メーカー「ヤマヨテクスタイル」の創業者を曽祖父に、「エイガールズ」の現会長を父に持ち、幼少のころからニットづくりに慣れ親しみながら育ちました。「小学生のときは工場が遊び場でした」と、当時を振り返る山下さん。「三葛にはニット産業に従事している会社が今よりもずっと多くあって。編み機が24時間稼働して、工場から漏れる光で町が夜でも明るかった記憶があります」

大学卒業後は、繊維会社や商社に就職。商社では、香港でアパレル業界に携わるなど、充実した日々が続いていました。ところが、「ある日突然、上司から『お前、会社を辞めるのか』と言われまして」と、笑いながら話す山下さん。「父が勝手に会社に退職届を出していたんです」

父の雅生さんは、単品大量生産時代に初の生地企画会社となる「エイガールズ」を立ち上げた、ニット業界の風雲児。海外市場への進出にも意欲的で、その思いを息子に託したのでした。

山下さんは2003年に「エイガールズ」に入社。翌年には、世界最高峰の服地見本市、パリの「プルミエール・ヴィジョン(PV)」に初出展します。軽やかで透明感のあるニットはたちまち話題となり、同社のブースは人であふれかえるほどに。その光景を目の当たりにして、「和歌山のニットは世界で戦える、と確信しました」と話す山下さん。自社のテキスタイルをスーツケースに詰め込み、商社時代に培った交渉術や語学力を武器に、欧州や米国、豪州、アジア圏と、海外市場の開拓に奔走します。

「簡単には契約に結びつかず、最初の数年は赤字続き。3年目ぐらいで、少しずつ顧客がつき始めました」。この苦労時代が今の「エイガールズ」の経営スタイルの礎となり、現在の売り上げの4割を海外が占めています。

海外進出のきっかけになったPVには04年から出展を続け、16年に最もファッションに影響力のある6人のデザイナーに、取締役の尾崎孝夫さんが日本人として初選出。17年には世界一のテキスタイルの栄冠、PVアワード大賞ファブリック部門でグランプリを獲得し、名実ともに「エイガールズ」の品質の高さを世界に知らしめました。

企画から縫製まで一貫体制
“オール和歌山”を身にまとう

関連企業や職人と連携した
オリジナル性が高い生地づくり

「エイガールズ」のこだわりは、究極の着心地の良さを感じさせる肌触り。「三葛は肌着の産地として発展したこともあり、優しい風合いと柔らかい触感を追求しています」と山下さん。シャネルなどのトップメゾンでも、同社の素材が使われています。

和歌山市には新旧の編み機がそろうため、「エイガールズ」ではテキスタイルの企画・開発に専念し、編みはグループ工場や協力工場に依頼します。熟練の職人が糸の素材や太さ、気温・湿度に気を配りながら機械を扱い、ジャケットなどのアウターから、Tシャツ、インナーまで、多彩なニットづくりを可能にしています。前ページで山下さんが着ているスエットも丸編みニットです。

「編みのみならず、染色や縫製まで一貫して製造できるのは集積地ならでは」と山下さん。「業界では、トレーサビリティーのものづくりが主流になっています」とも話します。

トレーサビリティーとは生産工程を可視化すること。「国内外のメゾンブランドがわざわざ和歌山まで訪れるのは、『どこで誰が作っているのか、ものづくりの現場を見たい』と考えているからです」

山下さんは昨年、和歌山ニット商工業協同組合と和歌山ニット工業組合の理事長に就任しました。バブル期には150社あった関連企業も、今では組合加盟数が50社に減少していることから、「和歌山のニット産地をブランディング化し、地場産業を盛り上げたい」「地元の人たちにも、ものづくりの素晴らしさを伝え、生地産業に携わる人を増やしたい」と意欲を見せます。

100年続いた和歌山ニットの歴史。山下さんはその歴史を絶やさないよう、旗振り役を担っていきたいと、前を向いて話していました。

創設時から手掛けたテキスタイルがそろい、「エイガールズ」の歴史が詰まったアーカイブルーム

社内ショールームで、昨年秋に一般向けのイベントやワークショップを主催。今夏も開催を予定しています

社名の「エイガールズ(A-GIRL’S)」には、“ファーストクラスの女性にふさわしい生地づくりを”との思いが込められています

ものづくりのこだわりは糸にまで。同社が開発したスビン綿糸、「ロータス」。光沢があり、シルクのように滑らかな生地に

「エイガールズ」の社屋に隣接する主力工場、「ヤマヨジャージィ」のハイゲージ編み機

大阪・関西万博にも出展!
「和歌山ニット」

「和歌山ニットが世界に通用するブランドづくり」をコンセプトに、ニッター・染工場10社の若手経営者らが賛同し、2022年に「和歌山ニットプロジェクト」を活動開始。「エイガールズ」が開発した糸、「ロータス」を使ってアパレル製品をつくり、ニューヨークやパリ、東京、そして三葛など、国内外で販売イベントを行いました。また、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の関西パビリオン和歌山ゾーンにも「和歌山ニット」としてブースを出展する予定。活動内容やイベント情報はインスタグラム(@wakayamaknitproject)を参照。

エイガールズ

エイガールズ

代表者 代表取締役社長
山下智広
創業 1972年
従業員 40人
本社 和歌山市三葛3-2
ホームページ https://www.agirls.co.jp/jp
電話番号 073(444)1567

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