もっと好きになる 仏像ぶらぶら参り

 昨今の仏像ブーム。今回は連載中のコラム「仏像のよこがお」の拡大版。大きい、古い、珍しいなど、間近で拝観できる仏像を紹介します。

仏像を拝観するときの知識は?違いが分かればより身近に感じる

仏像を拝観するとき、美しいや優しい、力強いと感じるのに加え、 “ほんの少し歴史や姿について知識があれば…” など思ったことは?

仏の種類は大きく分けて、巻き毛のような頭髪の「如来(にょらい)」、装飾物を身に付けた「菩薩(ぼさつ)」、怒りの表情の「明王(みょうおう)」、よろいや中国式の服を着た「天(てん)」の4グループ。人間社会と同じように、序列や役割によってさらに細分化されており、その違いが分かるだけでも、仏像がより身近に感じられます。

しかし、仏像といえば有名なものは、京都や奈良をイメージしがち。「いやいや、和歌山県には大寺院から小さなお堂まで数多く分布しています。長い年月、祈り、守ってきた地域の人々の姿をしのばせるすばらしい仏像がたくさんあるのですよ」と話すのは、本紙連載コラム「仏像のよこがお」(毎月第4週)の筆者、和歌山県立博物館の主任学芸員・大河内智之さん。

5寺院の特徴ある仏像を紹介。僧侶や大河内さんに話を聞きました。大河内さんは「正面からだけでなく、横や斜め、遠近など、さまざまな角度から表情や姿を見て仏像の魅力を感じてください」とアドバイス。

さぁ、実際に仏像に会いに行きましょう!

大きい、古い、珍しい! 必見仏 

大千手観音菩薩(だいせんじゅかんのんぼさつ)

1990年代(平成)初期、前貫主の夢に観音菩薩が現れ、本堂の正面、和歌山市内を見渡せる高台に大観音像を迎えるようお告げがあり、足掛け6年で完成。像の高さ12m、重さ20tにもなる木造(松材)の大観音像で、全国で数々の大仏を作った仏師・松本明慶さんの渾身(こんしん)の一作です。木造の立像として日本最大級の仏像。

ご開帳
 秘仏本尊・十一面観世音菩薩
秘龕(がん)仏・千手観世音菩薩
春:3月18日(水)~6月28日(日)
秋:9月20日(日)~12月20日(日)
午前10時~午後4時、拝観料1000円

制作年
2008(平成20)年5月21日
ワンポイント
大観音堂の3階に上がって、観音菩薩をより間近で感じて

名称 紀三井寺
問い合せ 073(444)1002
住所 和歌山市紀三井寺1201
営業時間 午前8時~午後5時(大千手観音菩薩の拝観は午前8時半~午後4時半) 
備考 拝観料必要

釈迦涅槃像(しゃかねはんぞう)

最期のときを迎え、横たわった釈迦如来を中央に、弟子や信仰者、動物などの大群像が取り囲んでいる様子を立体的に表した、とても珍しい立体涅槃像。紀州藩の重臣である付け家老・三浦為春(ためはる=家康の側室・お万の方の兄)が自らの菩提(ぼだい)寺に作らせたものです。作者は異なりますが、堂内には千体仏や天井の龍画も。

ご開帳
涅槃会(ねはんえ)
3月15日(日)午前9時~午後5時
※今年はマルシェなど中止。限定御朱印の拝受はあり、希望者には涅槃群像の説明可

制作年
江戸時代前期 1644(寛永21)年
ワンポイント
お堂の壁にも注目。釈迦の母が天から降りてきた様子が表現されています

名称 了法寺
問い合せ 073(471)1376
住所 和歌山市坂田243
営業時間 午前10時~午後4時
備考 涅槃像のご開帳は年1回だけ

十一面観音菩薩(じゅういちめんかんのんぼさつ)

像の高さ1m497㎝、榧(かや)の一木彫り。豪華な冠やリズミカルに波打つ衣など、像の大半が細かく彫り表されており、今から約1200年も前に作られたとは思えない美しさです。元は慈光寺(和歌山市下和佐)に伝わり、戦後、紀州藩の付け家老・水野氏の誘いによって建立された円福院と合併したことから本尊として引き継がれました。

制作年
平安時代前期 9世紀(重要文化財)
ワンポイント
腹部の渦巻き模様、膝前の大小のひだが交互に繰り返された衣は見事

名称 慈光円福院
問い合せ 073(423)3589
住所 和歌山市北新金屋丁31 
備考 拝観は事前予約が必要

首大仏(くびだいぶつ)(通称=おぼとけ)

銅製の如来の頭部です。和歌山市納定にあった大福寺を開いた僧・蓮心(れんしん)が作らせた大仏が、1835(天保6)年に火事で焼失。溶けた銅を使いながら頭部が復興されましたが、1850年代の「安政の大地震」で寺がつぶれ、胴部の制作を断念。無量光寺に移されました。もし体が作られていたら高さ8mほどの大仏だったでしょう。

制作年
幕末 1840(天保11)年 
ワンポイント
高さ約3mもある首大仏。“首から上の願いごとがかなう”と参拝する人が多いとも

名称 無量光寺
問い合せ 073(423)5738
住所 和歌山市吹上5-1-35
営業時間 午前8時~午後5時
備考 首大仏は拝観可能

地蔵菩薩(じぞうぼさつ)

藤白峠の頂上にまつられ、かつて熊野参詣を行う人々が祈りをささげた峠の地蔵。像の高さ1m475cm、台座・光背を含めると3m173cmもある大きな石仏です。ふっくらした頬、やわらかな肉づきが特徴で、光背には如来と合掌する地蔵菩薩が彫られています。作者は中国・宋から来た石工の末裔(まつえい)、伊行経(いのゆきつね)。

制作年
鎌倉時代末期、1323(元亨3)年(お堂を含め、重要文化財)
ワンポイント
本体と光背を砂岩の一材で彫られています。天気の良い日は高台から紀伊水道、淡路島が望めます

名称 地蔵峰寺
住所 海南市下津町橘本1611
備考 拝観は堂の外から。内部には入れません

仏像を盗難から守る Q&A

寺院やお堂などにまつられている仏像が、ある日突然消えていたら…。仏像ブームの陰で文化財の盗難被害が全国で相次いでいます。盗難防止対策の先進的ともいえる和歌山県の取り組みを、県立博物館主任学芸員・大河内智之さんに聞きました。

Q1 狙われやすいのは? 盗まれた仏像は?
A 高齢化や人口減少などで管理が難しい無住の寺やお堂、神社、ほこらが狙われています。窃盗犯は換金目的で盗みを繰り返し、古美術商やインターネットのオークションサイトなどで売買しています。

Q2 和歌山県の盗難対策は?
A 県立和歌山工業高校や和歌山大学と連携し、3Dプリンターで出力した立体の仏像に彩色を施したレプリカを作製。‟お身代わり”として安置することで、文化財を守りつつ、信仰環境の変化を小さくする取り組みを行っています。

Q3 レプリカ作製のきっかけは?
A 当館でユニバーサルデザインの一つとして仏像やお面を作製し、‟さわれる文化財”として展示したのがきっかけです。実物の形や色を忠実に再現しています。1階エントランスホールで展示しているので実際に見て、触ってください。

Q4 文化財(仏像)を守るためには?
A 文化財は歴史を伝える証です。自分の身近にどういった文化財があるかを知り、興味や関心を持つことが何よりも大切。皆で考え、サポートしながら守り、未来へ伝えていく仕組みづくりが今後さらに必要になってくると考えています。

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