“幻のかんきつ”の原産地・北山村 「じゃばら」でがっちり
- 2020/1/16
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今や国民病となりつつある「花粉症」。花粉症の予防対策として注目されているのが和歌山県北山村特産のかんきつ類「じゃばら」です。今まで村が直営で生産・加工・販売していましたが、今年4月に民営化されることに。花粉症の時期を前に北山村を訪れました。
始まりは1本の原木から 花粉症の予防対策として注目
三重県と奈良県の境界の山間部に位置する「北山村」。和歌山県のどの市町村とも隣接しておらず、日本で唯一の飛び地の村として知られています。総面積の97%がスギなどの山林。古くは林業で栄え、伐採した木材をいかだに組んで川に流し、新宮市まで運んでいました。
北山村の名を全国に知らしめたのが「じゃばら」。かんきつの仲間で、同村だけに1本の原木が自生していました。一人の村人が特産品にできないかと働きかけ、栽培を開始。今から約40年前、1979年に品種登録されました。
その後、研究機関や大学が、かんきつ類に含まれるフラボノイドの一種「ナリルチン」で花粉症の緩和が期待できると発表。中でも、じゃばらの果皮に多いとされると注目の的に。うわさがうわさを呼び“幻のかんきつ”と呼ばれるようになりました。
じゃばらの果実には種がほぼないため、接ぎ木で苗を8000本まで増やし、基幹産業へと成長。これまでは村直営でしたが、より安定した事業展開を行おうと、4月から民営化し、新会社「じゃばらいず北山」が設立されます。
新たな一歩を踏み出す北山村。新社長となる池上(いけうえ)輝幸さんや生産者の東(ひがし)則幸さんに話を聞く他、じゃばら商品を紹介します。
癖になるおいしさ「じゃばら」を知って!
新会社「じゃばらいず北山」を設立 来年には新加工工場が完成予定
山々に囲まれ、近くを北山川が流れる自然豊かな地・北山村には、約200世帯430人が暮らしています。
小さな村で約40年ほど前から栽培されてきた、かんきつ系の特産品「じゃばら」。花粉症の予防につながる成分を多く含むとされ、全国から注文が殺到し、村の基幹産業にまで成長しました。
今まで村が主導で生産から販売までを手掛けてきましたが、事業が安定してきたことなどから、あらゆる状況にすばやく対応できるように、今年4月に新会社「じゃばらいず北山」を設立し、民営化に乗り出します。
代表取締役社長には、村役場の地域事業課で、じゃばら商品の開発などを担当してきた池上(いけうえ)輝幸さんが村役場を退職して就任。同課のじゃばらグループの非常勤職員14人も新会社の社員となります。
現在は果実をはじめ、加工品として30年にわたるロングセラーのドリンク、果汁、乾燥パウダー、ぽん酢、ジャム、キャンディーなど25アイテムを販売。来年には新加工工場が完成する予定で、缶詰め商品などの製造ラインも強化されます。新商品の企画も着々と進んでおり、注目が集まっています。
試行錯誤から生まれた取り組み 村の基幹産業へと発展
邪気を払うくらい酸っぱいことから名前が付いたともいわれ、縁起物の食材とされる「じゃばら」が実る原木。始まりは一人の村人の敷地に1本だけ自生していたことから。“酸っぱさの中にも独特の苦みと甘みがあり、これは村の特産品になるはず。過疎から守る産業にも”と村に働きかけたのがきっかけです。1972年に新品種であることが判明。79年に品種登録、82年には村営農園と数軒の農家で試験事業がスタートし、85年度には1.7tを収穫するまでになりました。
しかし、初めから花粉症の予防につながると分かって産業化を進めたのではありません。集出荷施設などの環境は整えたものの、知名度のなさに加え、PR不足や流通ルートの狭さなどで苦戦。生産調整せざるを得ない時期が続きました。
転機は2001年、毎年大量に購入する人からの「花粉症を予防できる」という声を受け、直接販売できるインターネットショッピングモールに出店したことが功を奏して評判に。モニター調査も取り入れ、02年度の売り上げは前年度倍増の約1億円を超えました。03年からは研究機関や大学がじゃばらに関する研究結果を発表(下記参照)。07年度からは栽培を希望する農家を募り、接ぎ木で増やした苗を配布。徐々に収穫量を増やしていきました。そして18年度、売り上げが3億円を突破するまで成長しました。
池上さんは「売り上げが上がらなければ2年で止めることになっていました。ですので、1億円を超えたときは狂喜乱舞。しかもこんなに人気が続くとは…。ノウハウが無い中、試行錯誤の連続。ブログサイトの立ち上げやふるさと納税の返礼品など、みんなで進めてきた結果です」と話します。
今後について「小さい村の会社ですが、村を支える存在になると思います。今から5年、10年後、市場にじゃばらが出回っても北山村原産というブランドを守る努力をしなければ。そして、利益が出れば社員に還元できる体制を整えたいです。なによりも地域に根付いた会社が目標」と先を見据えています。
北山村じゃばら生産者協同組合代表理事 東幸則さんに聞きました
じゃばら農家でつくる「北山村じゃばら生産者協同組合」は現在、29軒が加入しています。
代表理事の東さんが、初めてじゃばらを口にしたのは今から30年前。「酸っぱさで体中がグワーッとなり、元気が出る感じがしました」と振り返ります。じゃばら畑を義父から継いで6年。村で定められた栽培条件をクリアしないと規格外となるため、日々の手入れは緊張の連続。そのため、「きれいな実を付けたときはうれしくて」と話します。
お気に入りは、自家製野菜にじゃばら果汁を入れたスムージー。毎朝飲んでいると言い「風邪をひかないのはじゃばらのおかげかな」と笑います。
栽培するじゃばらの木は320本。中には樹齢30年を超えるものも。木の成長とともに収穫量も増え、「義父たちが作り続けてきたからこそ、今があります」と話し、「生産者はみんな、自信を持って栽培したものしか出していないという思いがあります。今後、新たな可能性が広がっていけば」と期待しています。