化学染料では出せない優しい色合いや、季節の移ろいを感じられるところが魅力の、ボタニカル・ダイ(草木染め)。現在、“オーガニック”や“手仕事”にひかれる若い世代から、注目が集まっています。
草花や樹木、木の実や果実
自然が生み出す優しい色
物や色であふれる現代、身に着ける洋服や小物の色が、どんな物からできているのかを考えることはあまりないですよね。「ボタニカル・ダイ(草木染め)」は、草花や樹木、木の実など自然の物から染料を作って布などを染める技術。自然への関心の高まりや手仕事ブームにより、最近幅広い世代から注目を集めています。自然が生み出す優しい色合いに親しんでみませんか。
今回訪ねたのは、「Planet Colours negi(プラネット・カラーズ・ネギ)」(日高川町川原河)の草木染め作家・山口由宇香さん。東京都出身の山口さんは、2011年に発生した東日本大震災での体験をきっかけに、「どう生きていきたいか」を考えたといいます。もともと持っていた自然の中で暮らしたいという思いから、同年に和歌山県へ移住を決意。田辺市龍神村などで暮らした後、3年ほど前に日高川町に移り住み、築100年以上の古民家を改修して工房を開いています。
「山、川、海がすぐ近くにあり、食べ物はもちろん、水や空気、人のあたたかさに触れ、和歌山は本当に豊かなところだと感じています」と話す山口さん。草木染めの工程や魅力などについて詳しく聞きました。
ビワやドングリ、野草…和歌山の山は色の宝庫
奥深い草木染めの世界
自然のパワーで癒やされて
草木染めの方法は、まず染料になる草木を集めるところから。ヨモギや玉ねぎの皮、ヤマモモの木の皮、桜の木の枝…自然界には、さまざまな色があふれています。
「同じ植物で染めても、季節や時期によって出る色が違うんですよ」と山口さん。たとえばビワの葉は、一年で最も寒い「大寒の日」に生命力が最も強くなるといわれています。その日に染めると、きれいなピンクが強く出るとか。どの植物にも、最も栄養を蓄えている“旬”の時期があります。山の植物をなるべく旬のときに使うことを心がけているそう。濃い緑色のビワの葉から取れる染液が、やわらかなピンク色というのもおもしろいところ。「気候や環境によっても色の出方が違ってきます。太陽の光がよく降り注ぐ沖縄やインドネシアでは、色が濃く出るそうですよ」。集めた材料を、煮出して染液を制作。煮出す時間によってうすい液、濃い液ができるので、別々の容器に入れておきます。
山口さんは、染める布地にもこだわりが。「薬を飲むことを、“服薬”といいますよね。昔の人は、着る物や肌に触れる物を染めることで、体に良い成分を取り入れていました。食べ物だけではなく、触れる物も、体に優しい素材にこだわりたい。草木染めをするときは、化学繊維の布を使わず、綿や麻、シルク、ウールなどの天然素材を使用します」。染める素材を決めたら、下準備として、ほこりやごみを取り除くため、煮出します。植物性の材質の場合、染まりにくいので、豆乳や牛乳などのたんぱく質を加えて性質を変化させるそう。下準備を終えて乾かした後、染液に入れて煮ていきます。
布を冷まして洗った後の重要な作業が、染めた色素を定着させる、“色止め”。この作業を媒染(ばいせん)といいます。媒染した後また洗って、染液に入れて煮出して、洗って…と、これらの工程を何度も繰り返し、色を見ながら仕上がりを決めます。
違う染料を重ねて染めたり、グラデーションや模様をつけたりと方法はバリエーション豊か。「あえて香りを付ける染め方も。材料を発酵させると、香りが残りやすいんです」。色の出し方やデザイン、風合い、香りと、可能性が広がる作品作りに、奥深い魅力があります。山口さんは、「染めているときはもちろん、草木染めで作った物を使っているときも、自然のパワーを感じながら、さまざまな物と“共に生きる”ということを意識しています」と。気軽にチャレンジできる草木染め。季節と自然のパワーを感じてみませんか。
自分で染めた服や小物には、愛着がわきます。“使い捨て”が当たり前になっている社会の中、身の回りの物や自然に向き合い、心を豊かに過ごしてみませんか。
①なべに染料となる植物を入れたら、煮出していきます。写真はビワの葉。同工房では、井戸水を使用します
②1回、2回、3回と煮出す時間を変えてうすい液、濃い液を別々の容器に入れておきます
③染める布地を煮て下準備。ウールなど動物性の生地はそのまま、植物性の生地はたんぱく質を加えます
④布地の下準備がすんだら、染液に入れ、かきまぜながら温度を上げていきます
⑤温度を下げて、少しずつ冷ましていきます。山口さんは、ゆっくりと温度を上げ下げできる薪(まき)ストーブを使用しています
⑥布地が冷めたら、一度洗浄
⑦媒染作業。色の変化や退色を防ぎ、染料を布地に定着させる役割を持つ媒染剤を使って、色止めを行います
⑧再度洗浄します
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