だしの魅力 世界が認める「UMAMI」
- 2017/5/11
- フロント特集
今週号は、〝GoodLife(上質な暮らし)〞を提案する特集をお届け。和食の〝だし〞を取る素材といえば、かつお節、昆布、煮干し、しいたけ、など…。しかし、意外に知られていないのが、和歌山県が〝かつお節〞の発祥の地ということ。だしの〝UMAMI(うま味)〞が世界中から注目される今、かつお節にスポットを当て、紹介します。
和食の味を決める代表食材
かつお節は和歌山が発祥の地
吸い物やみそ汁、うどん、そば、おひたし、煮物など、私たちが日頃から慣れ親しんでいる和食は、なんといっても〝だし〞が決め手。おいしさを表す基本の〝うま味〞が重要な鍵です。
その和食の味を決める〝だし〞を取る素材の一つが〝かつお節〞。現在、かつお節の生産量は、鹿児島県が最も多く、静岡県、高知県となっています(2015年度・農林水産省水産加工統計調査)。
生産量はさておき、和歌山県は、かつお節の発祥の地。江戸時代に、印南浦(現・印南町)出身の漁民・角屋甚太郎が、煮て、いぶし、乾燥させる製法(ばい乾法)を考案。土佐藩や薩摩藩などで製法を伝え、その後、かつお節職人・土佐の与一が全国に広めたとされています。
和歌山信愛女子短期大学・生活文化学科食物栄養専攻の堺みどり教授は「諸説がある中、『古事記』でかつお節の原型となるような言葉が記されています。江戸時代に現在のような製法ができましたが、一般に広まったのは、明治中期以降。それまでは武士への献上品などに使われ、作り方は秘伝扱いされていました。それだけ、かつお節は高価で特別なものだったということです」と説明します。
確かに、かつお節は今も祝い時の縁起物として使われています。同大学の西出充德准教授は「1本の節を松竹梅に見立て、表面の黒い部分が松の緑、削った肉質のしま模様が竹、節の先端が梅の花を表現していたようです。また勝負時には〝かつお〞の〝勝つ〞にかけていたとも」と話します。
2013年に和食が、ユネスコ無形文化遺産に「日本人の伝統的な食文化」として登録されました。だしのうま味を生かした独自のスタイルは、理想的な栄養のバランスを生み出す〝UMAMI〞として世界中に広がり続けています。
下記は、同大学で話を聞く他、削りたてのかつお節が手に入る和歌山市内の卸店を訪問、さらにかつお節のだしの取り方などを紹介します。
少しの手間でおいしさアップ
食事の満足感を生む〝うま味〞
素材の味を引き出す決め手〝かつおだし〞
人間の味覚は、酸味、苦味、塩味、甘味、うま味があり、この5つの味を「基本味」と呼びます。
「だしのうま味は、たんぱく質を構成するアミノ酸の一種である、かつお節のイノシン酸、昆布ならグルタミン酸などを指します。うま味は、上品な香りに加え、感じる場所が他の基本味とは別で舌の奥にあります。この場所でうま味を感じると舌全体で感じたように自覚され、食事の満足感が得られます」と話すのは、和歌山信愛女子短期大学の堺教授と西出准教授。
カツオは、春から夏にかけて日本の近海を北上、海水温が低下する秋以降に南下してきます。刺し身や焼き物などで食べるには、脂がのっている方がおすすめですが、かつお節に加工するカツオは、脂があまりのっていない方がおいしいとされています。「脂質は、空気に触れると酸化が進み、味が落ちてくるからです」と説明します。
だしは、和食以外に、洋食や中華にもあります。
和食だしは、かつお節や昆布、煮干し、しいたけなど、わずかな時間で素材のうま味が出ます。一方、洋食や中華だしは、牛や豚、鶏の肉、野菜などをグツグツと煮込み、時間を掛けてうま味を重ねていきます。いわゆるブイヨンや湯(たん)といわれるものです。西出准教授は「和食は、だしが素材の味を引き出します。洋食や中華は、調理する素材自体の味がだしとして利用されるので、だしを加えることはそれほど多くありません」と話します。
また、かつお節のイノシン酸と昆布のグルタミン酸を組み合わせると、相乗効果でうま味が何倍にも飛躍。「料理の味を引き立てるうま味成分があれば、塩の量を減らしても塩味の変化を感じることがないので減塩できます。また、唾液の分泌も促されるという研究結果もあり、着目されています」と続けます。
和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、世界中にその魅力が発信されています。しかし、遺産として残そうとする動きが起こっている時点で〝和食という独自の文化を、日本人が忘れ始めているのでは…〞とも考えられます。食や生活スタイルが変化し、便利になる中で、かつお節や昆布などからだしを取り、調理する伝統の味をどう伝えていくかといった課題も浮かび上がってきます。
堺教授は「だしの取り方は家庭によってさまざまで、それが家庭の味。私たちは、だしの味を経験的に学習します。つまり、子どもの頃から、だしの味を知ることは、味覚の形成にもつながるということです」と強調。その上で「忙しい毎日を過ごす人も少なくありません。いつもだしを取るのは時間的に難しいことも。そんな時は便利な方を選んでしまいますね。正月や節句など、行事の時だけでも、子どもと一緒にだしを取るところから料理を作るのもいいですよね」と話しています。
節いろいろ
枯節
澄んだだし色、上品な香りと爽やかで雑味のない味が特徴
荒節
ばい乾だけで仕上げたかつお節。こくとうま味がしっかりしています
まぐろ節
淡白で、きりっとした上品なうま味
宗田節(そうだぶし)
原魚はソウダガツオ。味が濃厚で濃いだしを取るのに最適。他の節と合わせて使用
さば節
香りはあっさりしていますが、こくのある濃いだしが取れます。他の節と合わせて使用
※削り節…2種類以上の節をブレンドしたものをいいます
一つ一つの作業が芳じゅんな香りと味に
県内でも1955(昭和30)年ごろまで約80カ所あった、かつお節やさば節などの加工場ですが、現在はすさみ町の加工場4カ所。時代の流れとともに、手軽なパック商品が主流になり、削り器で節を削る家庭は少なくなりましたが、削りたての香りと味を求めて、専門店に足を運ぶ人も少なくありません。50(昭和25)年か
50(昭和25)年から和歌山市内で花かつおや削り節の製造卸販売を手掛ける「桶本(おけもと)商店」には、かつおの他、さば、まぐろ、うるめなど、だしに使う食材がずらり。桶本眞治店主は「同じ種類の魚でも味はさまざま。取れる時期や気候、場所、加工法などによっても違ってきます。なかなか奥が深い食材です」と話します。
節は、毎日手作業で1本ずつ刃で削った後、機械を通しています。長年の経験と勘が頼り。一つ一つの作業がなんとも言えない芳じゅんな香りと味を生み出します。
同店には料理人や主婦などが訪れます。桶本店主と弟の隆章さんは、客と軽快な会話を交わしながら、削りたての節を木箱から優しく取り出します。花びらのように削られたかつお節は、艶やかで繊細。桶本店主は「料理のだしはもちろん、ご飯にのせて食べてみて」と目を細めています。
問い合わせ | 桶本商店 |
---|---|
住所 | 和歌山市杉ノ馬場1-6 |
電話 | 073(431)5022 |
営業時間 | 午前9時~午後5時 |
定休日 | 日曜、祝日 |
素材を生かして、料理を楽しむ
「〝体に良いものを、おいしく作る〞がモットー。何よりも素材が大切。ほんの少しの調味料で、おいしい料理ができます」と話す宮脇さん。
だしの風味を高め、にごりやぬめりを出さないためには、タイミングが肝心。料理により、使うだしも違ってきます。
「すっきりとした味わいの1番だしは吸い物、こくのある2番だしは煮物などに合います。また、和食はもちろん、ポトフやカレーといった洋食にも活用できます。水で取るだしのように、少しの手間を加えるだけで作れる方法も。難しく考えないで、まずは、料理を楽しんでくださいね」と話しています。
1ℓの水に対して、かつお節20gを使用。鍋に水を入れ、70度~80度になったら、かつお節を入れます
温度が上がらないうちに火を止め、2分~3分置きます
かつお節が沈んだら、キッチンペーパーをざるなどに敷き、こします。
水に1番だしで使ったかつお節(だしがら)を入れ、加熱します
80度から沸騰手前ぐらいまでの間で、新しくかつお節をひとつかみ足し、2~3分煮ます
1番だしの時と同様、キッチンペーパーをざるに敷き、こし、かつお節を軽く絞ります
かつおだし
冷蔵庫で3日、冷凍庫で1カ月程度保存できます。冷蔵の場合は、密閉できるガラス瓶などに入れて保存。冷凍の場合は、製氷皿で凍らせると、使う分だけ取り出すことができます
だしがら
乾燥させ、ミルなどでひき、ゴマや刻みのりなどを混ぜると“ふりかけ”に。葉野菜と炒めれば、お酒に合う一品ができます
かつお節、昆布、煮干、しいたけのだしの基本、簡単なだしの取り方を学習。だしの魅力を伝授する講座です。
また、だしのテイスティングやブレンドを行い、単体のだし、合わせだし、温度によるだしの味の違いを実感。料理のレパートリーが増えること間違いなし!
日時 | 5月29日(月)午前10時~12時 |
---|---|
講師 | だしソムリエ・宮脇聖名子さん |
会場 | リビングカルチャー倶楽部・フォルテ教室(和歌山市本町) |
参加費 | 3240円(材料費込み) |
対象 | 大人 |
持ち物 | 筆記用具・タオル |
定員 | 15人(最少催行人数5人) |
締め切り | 5月19日(金) |
申し込み・問い合わせ | 073(421)4411 リビングカルチャー倶楽部・フォルテ教室 |